シューズデザイナーの勝川永一です。
「東京古靴日和」11回目のコラムです。
私は「H.KATSUKAWA」というシューズブランドを展開するにあたって、イギリスの伝統的な紳士靴の本質的なモノづくりから強く影響を受け、そこをベースに独自の視点を取り入れたシューズクリエイションをしてきました。
また、靴を何度もリペアをし長くという習慣は、サスティナビリティという観点からも現代人にとってより大事な習慣となりつつあるのではないでしょうか。
そのような想いで、シューズデザインと並行してリペアやリメイク事業を【The Shoe of Life / シューオブライフ】というリペア店で12年間運営しています。
さて、今回の「東京古靴日和」は、「Parabootsのかかとのパカパカをフィットさせる」です。
みんな大好きなParabootsですが、こちらのお悩みは【The Shoe of Life / シューオブライフ】でもご相談の多い修理の一つです。
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よくご相談いただくデザインは、ローファータイプ「REIMS」とチロリアンタイプの「MICHAEL」です。
パカパカしてしまう理由はいくつかあります。
誤解を恐れず言いますと、しっかりした「靴」は多少、かかとをパカパカさせて履くものです。何と比べてそのような結論付けをしているかというと、それは「一般的なスニーカー」です。
それでは、しっかりした「靴」と「一般的なスニーカー」の違いとは何でしょうか。
この2つの履物にが素材、製法など様々な違いがありますが、ここでは、パカパカの原因となる主な違いを上げますと一つは、「重さ」です。もう一つは、「柔軟さ」です。
まず、重さに関してですが、グッドイヤーウェルテッド製法の正当な作りの「靴」は、片足で500グラム程度の重さがあります。ストローベル製法の一般的な「スニーカーは、」片足で200g程度の重さがあります。重さだけで言うと倍以上の違いがあります。
そして、「柔軟さ」ではどうでしょうか。
こちらは、皆さんもご経験がおありかと思いますが、革靴は履き慣れるまでは、当たる部分が痛く靴擦れが出来るなどの現象が起こりがちです。これはその「柔軟性」に関係しています。
まず、アッパー部の革が、しっかりした靴はそこそこの固さがあります。履き始めは、履きシワが親指の付け根あたりに鑑賞して、痛さを感じたりしますよね。同じ現象を、スニーカーで感じることは少ないと思います。理由は、アッパー素材の柔軟さです。
素材が柔らかければ、痛さを感じるまでの状況にはなりません。また、ソールの柔軟性も靴擦れの原因になります。
そして、今回のお題である「かかとのパカパカ」は、この2つの要素が原因であるのです。
この2つの要素が引き起こす現象で、代表的な現象が、「返りが良くない」という現象です。それは、ソールで言うと、ソールが歩行時にその固さから曲がりにくいという状態です。さらに重さがあると、あまり曲がりません。
極端に言うと、靴が重い箱であるかのようにテコの動きをします。これでイメージ出来ましたでしょうか?
さらにイメージしていただくと、足を入れた靴が、足の動きと同調せずにテコのように動いたらどうでしょうか?歩くたびに、靴の中で足は泳ぎ、テコのように動く靴と歩行の動きをする足が同調せず、歩くたびにかかと部が抜けるような動きで擦れるということはイメージいただけますでしょうか。
それが、パカパカの原因であり、靴擦れの原因ともなるのです。
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では、そのパカパカを軽減するリペアはどのような加工でしょうか?
前置きが長くなりましたが、こちらが今回の本題です。私の修理加工経験からシューオブライフでは、この様なかかとがパカパカの状態の改善リペアとして、2つのメニューをご提案しています。
1つは、「ソールを軽量化する事」です。具体的には、ゴムスポンジのVIBRAMソールなどにソールをリメイクすることで軽量化します。
その効果はてきめんです。
オリジナルのソールはパラゴムと言われる天然ゴムを成形したソールで、独自のゴム質で高品質ですが、あの厚みのソールにすると軽くはありません。若干、重めと感じます。
ゴムスポンジにリメイクすることでソールが軽くなり、靴の中の足と靴の動きが同調しやすくなります。足が上がれば、靴も足と一緒に上がるということです。
また、固い革やゴムよりも屈曲性のあるゴムスポンジ素材であれば、そのような動きを想像して頂くと、かかとが擦れたりパカパカしにくい動きになることはイメージできるのではないでしょうか。
イメージしやすいように逆を想像してみてください。ソールが重い靴を履いて足を上げると、どうなりますか?もちろん紐などで足と一体化させているので足と靴は一緒に動きます。
しかし、足を上げた時に靴は重力で下に引っ張られていて靴が重い場合、足は上に動き、靴は重さもあり下に動こうとする状態になります。それがパカパカの原因となる靴と足の動きです。
そして、話は戻りますがお話したソールの軽量化をすると、この靴と足の同調しない動きが軽減されるのがお分かりになると思います。柔軟性も増すゴムスポンジソールで、よりこの靴と足の同調しない動きが軽減されるのがイメージいただけると思います。
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2つ目は、「足を靴にフィットさせる事」です。
靴がパカパカしないためには、足と靴がフィットしている事が重要です。すこし緩いフィッティングですと、当然パカパカしやすくなります。
そこで、フィッティングの順序としてはインソールを靴の中に入れてフィッティングをフィットさせることをおススメします。
インソールを靴に入れて足と靴がフィットすると、靴の中で足が泳がなくなります。当然、パカパカしにくくなります。
話はすこしズレますが、靴で歩くと疲れるという方も多いと思います。
冒頭でも申し上げた通り、靴は重さがあります。靴と足がフィットしていないと、靴の中で足が泳ぎます。靴の中で足の指を踏ん張ることになります。それが足が疲れる原因です。
インソールでフィッティングを上げることで、靴の中で足が泳がなくなり、履いた時のパカパカがなくなります。それによって靴擦れもなくなります。
足を上げた時に、足と靴の動きが同調しているため、歩行も楽になります。さらにフィッティングを上げるための裏技として、かかと部スベリ加工という修理があります。
かかとの内側に、滑り止めになる形状のストッパーを仕込みその上を革で覆い、その厚みでかかとの引っ掛かりを作るという修理です。
また、覆う革を起毛素材(スエード)にして摩擦量を増やし引っ掛かりを増すという裏技もあります。
長々と説明しましたが、この2つの方法でパカパカや靴擦れを改善することが可能です。
今回は、2つ目の修理「かかと部スベリ加工」の工程をご紹介したいと思います。
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この様な、突起のあるクッションを仕込みます。
張り込んだ後に、トップラインで縫いこみます。
仕上がりは、この様な感じです。
こちらでは、革のスエード面を使用し摩擦度をあげる工夫をしています。あとは、インソールとのマッチングで最適なフィッティングを探って行きます。今までの経験ですと、この方法でパカパカが改善することは多いです。
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今回は、しっかりした「靴」と「一般的なスニーカー」の違いを、重さと柔軟性の特性からお話しました。
簡単に楽に履けるのは「一般的なスニーカー」かもしれません。
しかし、しっかりとした「靴」は、その摩耗性の高い素材から耐用年数も「一般的なスニーカー」に比べて長いと言えると思います。
私は、どちらも履物として好きですし愛用しています。
しっかりした「靴」に関しては、知識をもって自分の足にフィットするように履かれると自分にとってもっとも快適な履物になる可能性もあります。
それは、しっかり作られたジャケットが、芯地と打ち込みの良い生地で重さはあるけれども、自分にあったサイズとパターンで身体にフィットし重さを感じず耐用性にも優れ自分にとって着心地の良いジャケットになっているというような事にも通じそうだと思います。
何はともあれ、イージーとは言い難いしっかりした「靴」を自分の足に合うようにして快適に長く履いて頂きたいなと思う次第です。
本日のスタイリングは、イギリス軍のギンガムチェック柄のコックパンツに、素足でブラウンのMICHAELを合わせました。トップスにはJOHN SMEDLEY(ジョンスメドレー)のニットポロシャツ 「ADRIAN シーアイランドコットン 30ゲージネイビー」を合わせました。
今週末は、フィットしたMICHAELとこのスタイリングで、世田谷公園の噴水広場に行って日光浴でもしたいなと思います。
みなさんも素敵な週末とシューズライフをお過ごしください!
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シューズデザイナー / レザーアーティスト
靴メーカー勤務後、渡英。ポールハーデン氏に師事したのち、2004年に帰国。その後、修理職人として働きながら、’07年にブランド「H.Katsukawa From Tokyo」をスタート。2016年にNorthampton Museum and Art Galleryにおいて、勝川永一のコンセプチュアルシューズ作品「Return to the Soil」が、東洋人初めての靴作品として、その美術館コレクションに収蔵される。
靴メーカー勤務後、渡英。ポールハーデン氏に師事したのち、2004年に帰国。その後、修理職人として働きながら、’07年にブランド「H.Katsukawa From Tokyo」をスタート。2016年にNorthampton Museum and Art Galleryにおいて、勝川永一のコンセプチュアルシューズ作品「Return to the Soil」が、東洋人初めての靴作品として、その美術館コレクションに収蔵される。