東京古靴日和#10
ニューバランスは“靴”であることを立証する、おすすめの修理バリエーション

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    シューズデザイナーの勝川永一です。
    「東京古靴日和」10回目のコラムです。

    私は「H.KATSUKAWA」というシューズブランドを展開するにあたって、イギリスの伝統的な紳士靴の本質的なモノづくりから強く影響を受け、そこをベースに独自の視点を取り入れたシューズクリエイションをしてきました。
    また、靴を何度もリペアし、長く履くという習慣は、サスティナビリティという観点からも現代人にとってより大事な習慣となりつつあるのではないでしょうか。
    そのような想いで、シューズデザインと並行してリペアやリメイク事業を「The Shoe of Life(シュー・オブ・ライフ)」というリペア店で12年間運営しています。


    さて、今回の「東京古靴日和」は、「ニューバランスのスニーカー修理バリエーション」です。

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    私が2010年から運営している、リペアやリメイクの事業「The Shoe of Life (シュー・オブ・ライフ)」では、2012年ころからスニーカーの修理を承る機会が増え始め、2016年頃から本格化してきた経緯があります。
    その中でもニューバランスの修理は増え続けています。理由はいくつか考えられます。
    まず一つ目は、修理の依頼のあるニューバランスは、海外製やプレミアムな日本製のモデルで、価格が3万円前後する、高価なものであるからだと考えられます。高価なシューズは、直してでもできるだけ長く大事に履きたいと思うのが、人情ではないでしょうか。

    また、もう一つの理由として考えられるのは、ニューバランスは修理ができる構造と物性であることだと思います。
    スニーカーと一言で言っても、その構造や物性は多様です。
    原状復帰という意味では、修理ができないスニーカーの方が多いといえるかもしれません。

    なぜニューバランスは修理ができるのか?
    先ほども申し上げた通り、スニーカーといってもその構造や物性は多様です。
    最近では、アッパーを糸で縫い合わせていない様なスニーカーも多く見受けられます。アッパーを糸で縫っていないということは、特殊な接着で張り合わされているということです。しかも、スニーカーは大きく分けて、上部のアッパーと下部のソールに分かれます。
    それぞれの加工は、アッパーとソールを接着する前に行われます。
    アッパーとソールが接着された状態から加工する修理とは、根本的に順序が違います。

    その様な前提からすると、修理がしやすいスニーカーはアッパーが縫い合わされている方法でソールも剥がして再接着が出来る製法と言えます。それは、いわゆる従来の「靴」と根本的に同じ作り方といえます。
    すなわちNew Blanceは、「スニーカー」というよりも、どちらかというと「靴」とも言えます。

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    いわゆるつま先の心材の先芯や、カカトの心材のカウンターも靴の様に入ってます。アッパーのデザインはスニーカーのパターンですが、表革と裏革をミシンで縫い合わせているという意味で「靴」と同じといえます。
    ソールも、セメンテッド製法の「靴」と同じように木型を使いアッパーを釣り込み、ソールを接着します。このようなところも「靴」と同じ製法といえます。
    ソールがヒールのあるような従来の「靴」のソールか、ニューバランスの様なEVAと合成ゴムで作られたスニーカーソールか。それだけの違いです。

    服好きの方ならピンとくるかもしれませんが、シャツ縫製工場で作られたジャケットは、品質としてはシャツですが、見た目の形だけでいえば、「ジャケット」と言えます(逆にすこし話がややこしくなったかもしれません…)。
    スニーカーはライニングも袋縫いですし、合成素材も多用されているものも多く、またパターンも複雑です。修理もいわゆる従来の「靴」よりも気を遣う場面が多いのはたしかで、スニーカー修理に対して熟練する必要もあります。
    しかし、本質的にニューバランスは「靴」と同じ構造と品質です。したがって靴修理職人が修理が可能であるという訳です。

    さて、その様な背景からニューバランスの修理が増えているわけですが、よくご依頼いただく修理箇所も多様です。壊れる部分はほぼ決まっています。
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    まずニューバランスの修理で一番多いのは、かかと部内側のライニングメッシュの破れです。
    ここは、歩くと擦れやすく、擦れているうちに内側のメッシュが破れてしまいます。これは寿命です。
    ナイロンメッシュは摩擦には強くないと思われます。その結果、破れて穴が空きやすい部分です。
    修理では、ここを摩擦に強い本革を使用し修理します。

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    「スニーカースベリ交換」という修理になります。
    最近、ご依頼が多いのがヒールのロゴ部のパーツです。
    ここは、合成素材のために劣化して割れてしまったり、表面がボロボロになってしまったりしています。
    修理の際には、この部分をグレーなどの本革で交換します。

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    残念ながらゴロはなくなってしまっていますが、ロゴなしの本革使用にすることで、逆にシンプルになり、高級感が出ると評判です。

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    そして、こちらはニューバランスの修理でもっとも“有名”ともいえる、ソールの加水分解の修理です。
    加水分解の修理方法は、二つあります。一つは、VIBRAMソールに交換することです。

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    すこしイメージは変わりますが、新しい魅力を持ったニューバランスに生まれ変わるためのリメイクというイメージです。
    履き心地もさすが、信頼のVIBRAMです。間違いありません。

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    もう一つは、スポンジでEVA部を作り直し、オリジナルソールを流用するか、VIBRAMのスニーカーアウトソールで交換するという修理です。

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    デザインとしては、こちらの方がオリジナルに近いイメージになります。
    この様なソールの交換をすると、ニューバランス特有の加水分解を起こさなくなります。

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    お気に入りのニューバランスは、履けない状態になってしまってもあきらめず、ぜひソールの交換をお勧めします。

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    そして、最近増えてきているのがタンの修理です。
    タンも加水分解します。見た目に強烈な劣化の印象を与えるのが、加水分解です。このような場合は、タンを本革で作り直すしかありません。

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    「シュー・オブ・ライフ」では、オリジナルに近い袋縫いのタイプと、バインディング仕上げの両タイプでご対応しています。
    もともとのニューバランスの織ネームも付けなおすので、違和感は少ないです。また本革になることで確実に高級感が増します。
    こちらもおすすめの修理です。

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    そして、最近お問い合わせの多い修理が、カウンターの交換です。

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    カウンターとは、かかとの内側に入っている心材です。
    この心材は、かかとをフォールドし快適な歩行にとても重要なパーツです。

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    ニューバランスのカウンター芯はプラスチック素材でできていて、履くときに紐をほどかずにカカトを踏んでしまったりすると、変形や割れの原因となります。

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    「シュー・オブ・ライフ」では、高級紳士靴に使われる革のカンター芯で、交換する修理を行っています。プラスチック製のものより変形しにくく長持ちします。

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    そのほか、要望が増えているのは、修理と合わせてのスニーカークリーニングです。こちらも、ハイグレードのNew Blanceのアッパーは本革を使用していますので、革靴のケアと同じ手法で革を綺麗に蘇らせることが出来ます。
    こちらも、「ニューバランスは靴である」理論の根拠となる理由の一つです。
    スムーズレザーであれば、革靴と同じように靴クリームで補色しつやを出せます。いわゆるハイポリッシュも可能です。
    スエードも、補色と保革で靴の手入れのように、アッパーをよみがえさせる事が可能です。

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    今回は様々なニューバランスの修理をご紹介させて頂きましたが、ニューバランスの修理の方法は、とても沢山あることがおわかり頂けたかと思います。
    修理が出来ないスニーカーも多い中、これだけ修理ができて、長く愛用できるスニーカーは稀です。これだけニューバランスが愛される理由も、この様な修理をして、長く履けるという要素も大きいのではないかと思います。

    靴修理店として断言する「ニューバランスは靴である」をモットーに、これからも一足でも多くのニューバランスを修理して、生き返らせていきたいと思っています。

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    そして今回は、この修理したニューバランスを、「CARUSO」のブラウン ウールギャバジンスーツに合わせてみました。
    スーツにニューバランスを合わせるのは、今や定番ともいえますが、このコーディネートがしっくりくる理由は、やはりニューバランスが「靴」だからではないでしょうか。

    今週末は、このニューバランスを履いて、事務所から徒歩20分程度にある、東京で一番好きなカフェ「Caffe Michelangelo」にお茶しにでかけたいなと思っています。

    連載記事

    勝川永一

    シューズデザイナー / レザーアーティスト

    靴メーカー勤務後、渡英。ポールハーデン氏に師事したのち、2004年に帰国。その後、修理職人として働きながら、’07年にブランド「H.Katsukawa From Tokyo」をスタート。2016年にNorthampton Museum and Art Galleryにおいて、勝川永一のコンセプチュアルシューズ作品「Return to the Soil」が、東洋人初めての靴作品として、その美術館コレクションに収蔵される。

    勝川永一

    シューズデザイナー / レザーアーティスト

    靴メーカー勤務後、渡英。ポールハーデン氏に師事したのち、2004年に帰国。その後、修理職人として働きながら、’07年にブランド「H.Katsukawa From Tokyo」をスタート。2016年にNorthampton Museum and Art Galleryにおいて、勝川永一のコンセプチュアルシューズ作品「Return to the Soil」が、東洋人初めての靴作品として、その美術館コレクションに収蔵される。