東京古靴日和 #4
破格で発掘したレペットのZIZIを、疲れにくい靴にリペアする方法

  • 編集:穂上愛

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シューズデザイナーの勝川永一です。
「東京古靴日和」4回目のコラムです。

私は「H.KATSUKAWA」というシューズブランドを展開するにあたって、イギリスの伝統的な紳士靴の本質的なモノづくりから強く影響を受け、そこをベースに独自の視点を取り入れたシューズクリエイションをしてきました。
アイデアのなかには製品の歴史や古いものを自ら体験している事も非常に重要です。新しい物を生み出すのには、過去のアーカイブを体感している事も大事です。
そんな思いで、今回も古靴を再生して、アーカイブを体験したいと思います。

今回は、「Repetto(レペット)」の「ZIZI」です。
もちろんFRANCE製です。

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中古品ですが、7800円という破格で購入したものです。
その破格の理由はこちら。

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そうです。
劣化があり、だいぶヤレています。
これは7800円の価値すらも怪しいかもしれませんね。

ですが、僕はこの「Repetto(レペット)」の「ZIZI」を見て、今夏はセルジュ・ゲンズブールの様に素足で履き、スーツに合わせるイメージが沸々と湧いてしまいました。

しかしよく見てみると、致命的なダメージはありません。
これは補修すれば綺麗に履けると判断し、購入しました。

とはいえ、修理は出来るとしても「Repetto(レペット)」の「ZIZI」の弱点といえば、歩いていると疲れてくる事です。
もともとダンスシューズメーカーでありダンスシューズをベースにしたZIZIは、長時間の歩行には適しません。
「Repetto(レペット)」の「ZIZI」を履いて出かけた日は、出先で少し後悔することも多々ありますね。

長時間の歩行で疲れる原因は、まずソールが薄い事です。
ソールが薄いことによって、歩行の際の衝撃がダイレクトに足に伝わってしまうためです。

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またかかとの部分に通常の靴であれば入っている、かかとを固定しフィットさせる心材の「カウンター」が入っていないシューズである事もその要因です。

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そういった意味でこの靴は、疲れやすい構造のダブルパンチといえます。

そこで今回は、「Repetto(レペット)」の「ZIZI」の履き心地を向上させる事にチャレンジしてみます。
じつは現在も私が運営している「The Shoe of Life」という名のシューリペアショップでも、頻繁にご相談を頂いて行っている、修理とフィッティングサービスでもあります。

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それでは早速、修理を始めます。

まずはクッション性を出すため「Vibram(ビブラム)」のソールのなかでも少し厚みのある「SIMON SOLE」を装着します。
ボンドで接着するため、ソール面も汚れなどを削り落として起毛させ、接着剤がつきやすい状態にします。

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そして接着力を強めるために、専用のボンドを二度塗りします。

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さらによりクッション性を高め、履き心地を良くするために、通常のハーフラバーよりも厚みがあり、材質も丈夫で摩耗しにくい「Vibram(ビブラム)」の「SIMON SOLE」を選びました。

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剝がれやすいつま先などを重点的に、しっかりと張り込んでいきます。

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摩耗の激しいかかと部分にも、クッション性のあるラバーリフトをチョイス。

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今回選んだのは、「TOPY(トピー)」というフランスの靴修修理材専門メーカーのラバーリフトです。
ここは「Repetto(レペット)」に合わせて、「MADE IN FRANCE」です。

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昔、修理職人として働いていた時も、この「MADE IN FRANCE」の文字を見るだけでテンションが上がっていました。
このようなリフト材料がフランスでつくられているなんて、、素敵ですよね!?
履いてしまえばまったく見えない部分ですが、見えない部分のおしゃれは大事です。

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古いリフトはグラインダーで削り落とし、これから取り付けるリフトをしっかり張り込みます。
サイドの余分な部分は、グラインダーで削り落としていきます。
そしてハーフラバーは、サイドの余計な部分をまずカッターで切り落とした後に、グランダーで削り落としていきます。

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余分な部分を綺麗に削り落としたあとは、コバ専用のインクで色を入れていきます。

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そして、ハーフラバーのサイドをブラシで整え仕上げます。
しっかりとソールに厚みが出ていますね。これでクッション性が上がります。

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そして、ハーフラバーとラバーリフトが装着しました。
元々の「Repetto(レペット)」の「ZIZI」のソールよりも、かなり丈夫になっています。
これから歩いていくうちに削れてくる、ハーフラバーとラバーリフトは何回でも同じように交換が可能です。(アッパーまで削れると、さらに補修が必要になるので、その前に修理をするのが良いです)

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そして、仕上げはカップインソールです。
カップインソールは足のサイドまでフィットし、劇的にフィッティングを上げてくれます。また底面もウレタンスポンジでクッション性がありますので、歩行の衝撃から足を守ってくれます。この仕上げにより、足の疲れが軽減出来ます。

靴を履くとぶかぶかになってしまうとか、靴の中で足が動いて疲れるなんて場合には、とりあえずカップインソールを入れてみてください。かなりの確率でフィッティングが改善されます。

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仕上げにカップインソールを入れましたが、靴の中の容積と足がフィットすることで、カウンター(心材)はなくても、アッパーがぴったりとフィットするので、格段に疲れにくくなります。

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このように既成靴であっても、自分の足に合うように修理やフィッティングをすると、とても楽に歩行が出来るようになり、お気に入りの靴もますます好きになれます。

そしてなによりも肝心なのは、この補修とフィッティングをした、「Repetto(レペット)」の「ZIZI」をどう履くということ。

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今回は、「CARUSO」のリネンでできたセットアップスーツに合わせました。
春夏のブラウンスーツのスタイルは都会的で好きなのです。

ブラウンスーツにブラックの「Repetto(レペット)」の「ZIZI」。
インナーもブラックのTシャツで、夕方以降の夜遊び仕様です。ちょっとモテようとしている感も否めません。
今週末あたり、この履き心地を良くした「Repetto(レペット)」の「ZIZI」と「CARUSO」で三宿のカフェバーに繰り出そうと思っています。

連載記事

勝川永一

シューズデザイナー / レザーアーティスト

靴メーカー勤務後、渡英。ポールハーデン氏に師事したのち、2004年に帰国。その後、修理職人として働きながら、’07年にブランド「H.Katsukawa From Tokyo」をスタート。2016年にNorthampton Museum and Art Galleryにおいて、勝川永一のコンセプチュアルシューズ作品「Return to the Soil」が、東洋人初めての靴作品として、その美術館コレクションに収蔵される。

勝川永一

シューズデザイナー / レザーアーティスト

靴メーカー勤務後、渡英。ポールハーデン氏に師事したのち、2004年に帰国。その後、修理職人として働きながら、’07年にブランド「H.Katsukawa From Tokyo」をスタート。2016年にNorthampton Museum and Art Galleryにおいて、勝川永一のコンセプチュアルシューズ作品「Return to the Soil」が、東洋人初めての靴作品として、その美術館コレクションに収蔵される。