『“ゴミ”から作ったドレスシューズ』アフタートーク
ドキュメンタリー映画監督・杉岡太樹×シューズデザイナー・勝川永一

  • 編集:穂上愛

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ヤフージャパンの映像シリーズ「CREATORS」。日本ではまだ数少ない、短編のドキュメンタリー映像作品のみを配信しているプラットフォームだ。

今回、同シリーズ内で、Penオフィシャルコラムニストの勝川永一が出演した映像作品『“ゴミ”から作ったドレスシューズ』を手がけた、ドキュメンタリー映画監督・杉岡太樹をむかえ、対談を遂行。業種の違ったふたりのクリエイターに、作品への思いそしてこれからを伺った。

──勝川さんとの出会いは?

杉岡 ミュージシャンの三宅洋平氏が2016年に参院選立候補した選挙で、僕がキャンペーン映像を担当した時に、三宅さんが演説に出る時は、ニベレザーのシューズを履いたら面白いんじゃないかと思い、勝川さんにフィッティングをお願いしたんです。

勝川 最終的には三宅さん私物のスニーカーを履くことになったので、実現はしなかったんですが。ニベレザーのシューズ自体はとても気に入ってもらえていたみたいです。

杉岡 通常だと“ゴミ”として扱われるニベレザーを使って、美しいドレスシューズをつくるという世界観は、自分のものづくりにどこか通じるところがありました。いつか勝川さんの靴づくりをテーマにした作品をつくりたいと思っていたのが、今回出演いただくことになったきっかけです。

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2007年に発表した「ニベレザー」のドレスシューズ。国内外で高い評価を受ける。2016年には、イギリスで靴の聖地と呼ばれるノーザンプトンにある美術館「ノーザンプトン博物館&美術館」に永久コレクションとして収蔵された。
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──制作期間はどれくらいだったんですか?

杉岡 約3カ月くらいです。そのうち、勝川さんの撮影とインタビューをやったのは2回だけです。僕の作品はドキュメンタリーなので、勝川さんと相談して内容を決めるというやり方ではなく、任せてもらった状態で制作しました。映像の確認も、ほぼ最終段階の映像を勝川さんに見てもらいました。

勝川 出来上がりを見たとき、すごくリアルだと思いましたね。ドキュメンタリーってやっぱり、真実を伝えるものなんだなと。
僕が普段取材を受けるとき、ものづくりって真面目な部分がすごくあるので、自分の真面目なところを演出するというか、靴職人の自分に期待されている部分もあり、そういう真面目な側面だけを伝えてしまうことが多くて。今回の杉岡さんの作品には、自分が普段は見せないような、おっちょこちょいだったりする自分らしいところが、キラリと切り取られていました。

杉岡 じつはドキュメンタリーを3分に凝縮するのって、難しいんじゃないかなと思っていました。“紹介するだけの映像”になってしまうんじゃないかと。勝川さんというキャラクターをちゃんと伝えられる映像になっているのかなと。それが伝えられているのか自分では判断がつかないんですが、公開後にSNSだったりの反響を見ていると、“勝川さんらしい”というコメントがあったりして、そこは伝えられているんじゃないかなと思いました。

勝川 僕は映像をつくったことがないのでわからないんですが、映像から愛情や本気を感じるし、それが3分という尺のなかで描かれていて、ドキュメンタリー監督としてのスキルがすごいと思いました。
僕の身近な人や、同じ業界の人からもかなり反響がありました。内容としても、一般的には知られていない内容だと思うんですね。伝わる人には無茶苦茶伝わっているんだなと。

杉岡 仕事で色々な映像作品を手がけていますが、僕はドキュメンタリーが生業で武器なので、インタビューにしても台本とかなくてゼロの状態からつくるっていうことが大事だと思っていて。3分であっても“ドキュメンタリー風”ではなく、ドキュメンタリーであることを大切にしました。

勝川  “ドキュメンタリー風”なものが決して悪いわけではないんですが、ドキュメンタリーと謳っているのに“ドキュメンタリー風”なものに対する違和感みたいなことって、作り手として共通するテーマだと思います。
僕に置き換えるなら“デザイン風のデザイン”とか、“ドレスシューズ風のドレスシューズ”とか。そういう部分で、杉岡さんとは共通言語を感じていたんですよね。

杉岡 そこを勝川さんと共鳴できていたところが、命綱というか。そこが共有できているからこそ、信頼が築けていましたね。
自分と同じことに違和感だったり、苛立ちだったりを感じて、同じ方向に試行錯誤しているところで、同士じゃないですけど仲間だという意識がありましたね。勝川さんの話ではあるんだけど、勝川さんは自分の代弁者でもあり、この3分の映像はある種、自分の話でもあるんですよね。

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──これからのおふたりの活動を教えてください

杉岡 くわしくはまだ言えないんですが、プロダクトをつくりたいと思っています。

勝川 ストーリーのあるプロダクトですね。プロダクトってストーリーが必ずあるので、杉岡さんとは、そのストーリーをより鮮明に伝えられる映像作品の制作を考えています。

杉岡 後付けでつくる映像に、限界を感じているんです。映像をつくる人間もプロダクトをつくる開発段階から入っていく。そうやって関わり方を変えていかないと。もちろん、プロダクト自体の開発だったりつくったりするのは勝川さんを始めとした、自分以外の人たちなんですが、開発段階から自分も関わっていけば、撮れる映像やそのストーリーをどう映像で表現するかが変わってくると思っています。

杉岡太樹(すぎおか・たいき)/ドキュメンタリー映画監督

1980年生まれ。School of Visual Arts(ニューヨーク)にて映画製作を学んだ後、『ハーブ&ドロシー』などの制作・配給に参加。2010年より拠点を東京に移住し、『沈黙しない春』で2012年に長編映画デビュー。2015年、参議院選挙に立候補したミュージシャン・三宅洋平の選挙に密着した長編映画『選挙フェス!』が全国劇場公開された。クリエイティブディレクターを務めた長編映画『おクジラさま』は2018年に日米で劇場公開。トランスジェンダーの世界大会を目指すサリー楓を追った映画『息子のままで、女子になる』がNetflixほかで配信中。

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勝川永一

シューズデザイナー / レザーアーティスト

靴メーカー勤務後、渡英。ポールハーデン氏に師事したのち、2004年に帰国。その後、修理職人として働きながら、’07年にブランド「H.Katsukawa From Tokyo」をスタート。2016年にNorthampton Museum and Art Galleryにおいて、勝川永一のコンセプチュアルシューズ作品「Return to the Soil」が、東洋人初めての靴作品として、その美術館コレクションに収蔵される。

勝川永一

シューズデザイナー / レザーアーティスト

靴メーカー勤務後、渡英。ポールハーデン氏に師事したのち、2004年に帰国。その後、修理職人として働きながら、’07年にブランド「H.Katsukawa From Tokyo」をスタート。2016年にNorthampton Museum and Art Galleryにおいて、勝川永一のコンセプチュアルシューズ作品「Return to the Soil」が、東洋人初めての靴作品として、その美術館コレクションに収蔵される。