東京古靴日和#5
メルカリで見つけた崩壊寸前の「ニューバランス1400」完全復活までの道<前編>

  • 編集:穂上愛
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シューズデザイナーの勝川永一です。
「東京古靴日和」5回目のコラムです。

私は「H.KATSUKAWA」というシューズブランドを展開するにあたって、イギリスの伝統的な紳士靴の本質的なモノづくりから強く影響を受け、そこをベースに独自の視点を取り入れたシューズクリエイションをしてきました。
アイデアのなかには製品の歴史や古いものを自ら体験している事も非常に重要です。新しい物を生み出すのには、過去のアーカイブを体感している事も大事です。
そのような思いで、今回も古靴を再生して、アーカイブを体験したいと思います。
また、靴を何度もリペアをし長く履くという習慣は、サーキュレーションという観点からも、現代人にとってより大事な選択肢の一つとなりつつあるのではないでしょうか。

さて、今回は、「New Balance(ニューバランス)」の「1400」です。
もちろんMade in USAです。

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ニューバランスと言えば、若かりし頃からの憧れです。
1906年にマサチューセッツ州ボストンで創業したニューバランス。当社は偏平足を治療する矯正靴やアーチサポートのメーカーとしてスタートしたメーカーです。
履いた人に“新しい(new)、バランス(balance)“感覚を提供するというのが社名の由来です。
1982年にM990、1985年にM1300といったプレミアムなランニングシューズをリリースし、その後継モデルとして1400があります。

25年前、原宿にある古着店「マービンズ」にて、念願の1300を60,000円で購入しました。当時のスタイルとしては、いわゆるアメカジに合わせるという感じでした。
憧れだった1300も当然、年月を経て、加水分解しました。
アッパーはその当時乗っていたゴリラ(HONDAのミニバイク)のクラッチでメッシュ部に小さな穴が開きました。

その当時、憧れだった1300の加水分解と穴あきに絶望していたところ、レコード収集家でDJであった地元の友人が、アッパーだけを15,000円で買い取ってくれるという申し出があり、ありがたく彼に1300の残骸を売りました。

そんな思い出のある1300が、じつは今も夢に出てくるのです。
なぜなら今だったら、自分でリペア出来る。そう思ってしまうからです。
未練です。

ニューバランスにはそんな個人的な思い出もあり、メルカリでこの1400を1,800円で見つけた時に、残骸として売ってしまった1300の未練を浄化すべく、即購入し、リペアを決意したのでした、

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破格の理由はこちら。
そうです。私も過去にお宝の1300で経験した、ニューバランスのド定番ともいえるソールの加水分解です

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加水分解により、ソール自体が崩壊して欠損しています。欠損している部分以外も、内部で分解してしまっている状態です。これでは、スニーカーの機能は果たせません。
もしかすると、1,800円の価値も疑わしいですね。。

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さらに、アッパーにも汚れの付着が全体に点在しています。

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足元の汚れは、路面の汚れがダイレクトに付着してしまいます。
汚れには様々な種類があり、一辺倒のクリーニングでは落ち切らないこともあります。大まかに分けると、「油系」と「泥系」です。

一見すると、価値のない状態に思えるニューバランス 1400ですが、私の経験では、ソールの交換とスニーカークリーニングで、再生が可能だと判断しました。

じつは現在も私が運営しているシューリペアショップ「The Shoe of Life」でも、頻繁にご相談を頂いて行っている、スニーカー修理とスニーカークリーニングサービスなのです。

ということで今回は、加水分解したニューバランス 1400の「ソール交換」と「スニーカークリーニング」の前編と後編に分けて、スニーカーが再生していくまでの様子をお伝えしたいと思います。

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まずはソールの交換からです。加水分解したソールを剥がして行きます。

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古いソールを取り外し、残骸は綺麗に除去しました。
綺麗ににソールの残骸を取りきらないと、新しいソールの接着が不完全になり、剥がれる要因になりますので、しっかり取りきるのがソール交換の肝です。

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今回の交換で使う新しいソールはこちらです。

Vibram® SOLE(ヴィブラムソール) #186C Sphikeです。
このソールは、RGS(ローリングゲイトシステム)を採用したソールで、弓なりになった接地面が特徴で、足の屈曲や回転に合わせてソールが順応します。
着地の衝撃を和らげながらエネルギーに変え、自然な足運びをサポートするRGS(ローリングゲイトシステム)を採用したソールです。

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さっそくこのソールを、加水分解したニューバランス1400に装着します。

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はい。いかがでしょうか。綺麗に装着することが出来ました。

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後ろから見た雰囲気もかなり変わりました。新しいデザインとも言えそうですね。このVibram® SOLE(ヴィブラムソール) #186C Sphikeの厚みのあるダッディーなソールが、ニューバランス 1400を新しい顔つきにしてくれました。

真っ白なソールとグレイッシュなアッパーのコンビネーションは、なかなかスタイリッシュです。洋服も何に合わせてどう履くかが楽しみになります。


次回は後編、「スニーカークリーニング」について。
アッパーの汚れが、適切なスニーカークリーニングで綺麗になれば、1,800円で購入したニューバランス 1400であっても、完全復活と言えるはずです。

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連載記事

勝川永一

シューズデザイナー / レザーアーティスト

靴メーカー勤務後、渡英。ポールハーデン氏に師事したのち、2004年に帰国。その後、修理職人として働きながら、’07年にブランド「H.Katsukawa From Tokyo」をスタート。2016年にNorthampton Museum and Art Galleryにおいて、勝川永一のコンセプチュアルシューズ作品「Return to the Soil」が、東洋人初めての靴作品として、その美術館コレクションに収蔵される。

勝川永一

シューズデザイナー / レザーアーティスト

靴メーカー勤務後、渡英。ポールハーデン氏に師事したのち、2004年に帰国。その後、修理職人として働きながら、’07年にブランド「H.Katsukawa From Tokyo」をスタート。2016年にNorthampton Museum and Art Galleryにおいて、勝川永一のコンセプチュアルシューズ作品「Return to the Soil」が、東洋人初めての靴作品として、その美術館コレクションに収蔵される。