東京古靴日和#8
「重くて疲れる」トリッカーズのモールトンを、現代的な履き心地に変化させる裏技<後編>

  • 編集:穂上愛

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シューズデザイナーの勝川永一です。
「東京古靴日和」8回目のコラムです。

私は「H.KATSUKAWA」というシューズブランドを展開するにあたって、イギリスの伝統的な紳士靴の本質的なモノづくりから強く影響を受け、そこをベースに独自の視点を取り入れたシューズクリエイションをしてきました。
また、靴を何度もリペアをし長くという習慣は、サーキュレーションという観点からも現代人にとってより大事な習慣となりつつあるのではないでしょうか。
そんな想いで、シューズデザインと並行してリペアやリメイク事業を【The Shoe of Life / シューオブライフ】というリペア店で12年間運営しています。

さて、「重くて疲れる」トリッカーズのモールトンを、現代的な履き心地に変化させる裏技<後編>です。
後編では、軽量化のためのVIBRAMソールを装着し、仕上げていきます。

前編はこちら

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軽量化のためのVIBRAMソール

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今回、軽量化のためのソールとして、2つのVIBRAMソールをセレクトしました。

左がVIBRAM#2021。スポンジ系ソールの定番です。軽量さとベーシックなデザインが秀逸です。
右がVIBRAM#2070です。ゴム系のソールながら、重すぎずまた洗練されたデザインで人気です。

まずは、それぞれの重量を計測していきましょう。

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VIBRAM#2021は、260グラム。なかなか軽いと思います!持った感じも軽量です。

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VIBRAM#2070も計ってみます。370グラム。ゴムなので、ある程度の重さがありました。

VIBRAM#2070のデザインが好きなので、本命はこちらのソールでしたが、今回は軽量化が目的ですので、VIBRAM#2021を採用します。

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古いソールを削り取った状態。ハルボロ・ラバー社が製造した、イギリスを代表するゴム製ソール DAINITE SOLE(ダイナイトソール)が装着されていました。

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新たにVIBRAM#2021を装着するために、ソール面に専用のボンドを塗っていきます。

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ソールを張り合わせるためには、VIBRAM#2021側にも専用接着剤を塗る必要があります。

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20分程度乾かした後、ドライヤーで温め粘着力を出します。

その上で、VIBRAM#2021を張り込んで、圧着していきます。ここは、隙間の出ないようにしっかり圧着することが大事な作業です。

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そして、しっかり張り込んだソールの余分な部分をグラインダーで削り落としていきます。

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しっかり削り込んだら、ソール側面のコバ用のインクで染めていきます。

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そして、ワックスを毛バフに仕込み、ブラッシングで仕上げていきます。

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仕上がりました!!

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ソールが一体型のVIBRAM#2021になってデザインも変わりました。レッドウィングのソールのようなバランスですね。カジュアルな服装にも合わせやすいデザインとなったと思います。

ドキドキしながら重量を計ってみたところ、結果はなんと、660グラムです!!片足で140グラム、両足280グラムの軽量化に成功。一般的な軽いスニーカー1足分を、軽量化することができました。

重い合成ゴム、またはレザーソールを軽量なスポンジ系のソールに交換・リメイクするだけで、これだけ重量が変化するんです。

スニーカーとは違い、カカト周りのしっかりしたレザーシューズを軽量化すると、その作りこまれた心材が入った仕立ての本格的な靴の履き心地が強調されます。

履き心地はスニーカーのように軽く、カウンターがしっかり作りこまれた革靴とのハイブリッドで、なんとも言えない至高の履き心地です!!

騙されたと思って、レザーシューズファンの方には、最近履くことが遠のいているレザーシューズでぜひ試して頂きたい勝川お勧めの修理・カスタムです。

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HOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKEのパンツとトリッカーズのモールトンで過ごす休日

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そしてなによりも肝心なのは、この軽量化したどう履くということです。

今回は、HOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKEのパンツに合わせてみました。ジャケット、Tシャツのセットアップです。
HOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKEは、機能性が高く扱いやすい衣服ですが、プリーツを用いた独自のデザインが上品さを兼ね備えており、アスレチックで遊んだ後に、そのままレストランに行けるという機能とデザインを兼ね備えた画期的な衣類です。先日、悔しくもお亡くなりになられましたが、イッセイミヤケ氏の偉大さを感じます。

次の週末は、軽量化したトリッカーズのカントリーブーツ、モールトンと、HOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKEを合わせて、二子玉川の河川敷でピクニックでもして、その帰りに洒落たカフェでゆっくりとした時間を過ごそうと思います。

この様に、重くて履かなくなってしまったトリッカーズのモールトンも、軽量化で現代都市生活にフィットした履き心地にアップデートすれば、8500円で購入したトリッカーズのモールトンであっても、いつものワードローブの仲間入りができる一足に、完全復活したのではないでしょうか。

みなさんもぜひ、お試しください。

連載記事

勝川永一

シューズデザイナー / レザーアーティスト

靴メーカー勤務後、渡英。ポールハーデン氏に師事したのち、2004年に帰国。その後、修理職人として働きながら、’07年にブランド「H.Katsukawa From Tokyo」をスタート。2016年にNorthampton Museum and Art Galleryにおいて、勝川永一のコンセプチュアルシューズ作品「Return to the Soil」が、東洋人初めての靴作品として、その美術館コレクションに収蔵される。

勝川永一

シューズデザイナー / レザーアーティスト

靴メーカー勤務後、渡英。ポールハーデン氏に師事したのち、2004年に帰国。その後、修理職人として働きながら、’07年にブランド「H.Katsukawa From Tokyo」をスタート。2016年にNorthampton Museum and Art Galleryにおいて、勝川永一のコンセプチュアルシューズ作品「Return to the Soil」が、東洋人初めての靴作品として、その美術館コレクションに収蔵される。