シューズデザイナーの勝川永一です。
「東京古靴日和」6回目のコラムです。
私は「H.KATSUKAWA」というシューズブランドを展開するにあたって、イギリスの伝統的な紳士靴の本質的なモノづくりから強く影響を受け、そこをベースに独自の視点を取り入れたシューズクリエイションをしてきました。
アイデアのなかには製品の歴史や古いものを自ら体験している事も非常に重要です。新しい物を生み出すのには、過去のアーカイブを体感している事も大事です。
そのような思いで、今回も古靴を再生して、アーカイブを体験したいと思います。
また、靴を何度もリペアをし長く履くという習慣は、サーキュレーションという観点からも、現代人にとってより大事な選択肢の一つとなりつつあるのではないでしょうか。
そんな思いで、リペアやリメイク事業を「シューオブライフ」というリペア店で運営しています。
今回は「New Balance(ニューバランス)」「1400」のリペアについての後編です。
前編では加水分解をしたソールを、VIBRAMソールで交換する修理について、ご紹介しました。
後編ではスニーカークリーニングから、補色とお手入れに至るまで、トータルにご紹介いたします。
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![2.jpg](/uploads/690c23a4c12c18229104910327dd46448f2130ae.jpg)
前回でソールVIBRAMに交換したNB1400がこちらです。
あえて、ダッディーなVibram® SOLE(ヴィブラムソール) #186C Sphikeで修理して
デザインイメージを変えてみました。
実は、前回の記事が配信されたYahooニュースのコメント欄では、「オリジナルの方が良い」といったご意見をいくつか頂いておりました。
私としては、新鮮なバランスと加水分解しないソールでのリメイクに満足していましたが、完成されたデザインに見たことのない(今回のNB1400と186C Sphikeソールの組み合わせ)デザインは、良い反応ばかりではないということも感じました。
しかし、忠実にオリジナルに戻すのであれば私が手がける必要も少なく、新たな価値創造という意味で、改めてシューズデザイナー兼リペアマンとして新たな提案がしていければと、思い直す機会となりました。
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じつは、私は国家資格クリーニング師でもあります。
私が運営する靴リペア店で、クリーニングのご要望を様々に頂くなか、「しっかりとした理論と実践が必要だ!」と思い立ち、国家資格クリーニング師になりました。
一般的に「スニーカーを綺麗にする」というと、スニーカー磨きの様な、表面を綺麗にすることを想像される方が多いと思いますが、汚れ方も様々ですし、スニーカーケアの手法も一足一足違います。
今回のケースでは、目に見えない部分まで徹底的に綺麗にしていきたいと思います。
![DSC05406.jpg](/uploads/DSC05406.jpg)
まずは典型的な目に見える汚れ。
![DSC05464.jpg](/uploads/DSC05464.jpg)
こちらも目に見える、顔料の擦れ。
![DSC05409.jpg](/uploads/DSC05409.jpg)
この様なメッシュ部のくすみ汚れ。
これらの目に見える典型的な汚れは、当然綺麗にします。そして、今回は見えない汚れも落とします。
![勝川_DSC00899.png](/uploads/9a4485af35d4e91152ae9b406e60be73451775ee.png)
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見えない汚れとは??
![P5.jpg](/uploads/P5.jpg)
「目に見えない汚れ」すなわち雑菌です。雑菌は、汗や雨水、泥などに含まれる汚れで、路面を歩行する中で増殖していきます。それらの雑菌が臭いのもとにもなります。これらは、クリーニング師として生活衛生的観点で綺麗にします。
今回のクリーニングは、内部から見えない汚れも落とすため、「洗濯機+手仕上げ」のハイブリッドなスニーカークリーニングをしていきます。
![DSC05412.jpg](/uploads/DSC05412.jpg)
まず、頑固そうな汚れ部分に油性の下処理剤を塗ります。
![DSC05417.jpg](/uploads/DSC05417.jpg)
![DSC05427.jpg](/uploads/DSC05427.jpg)
![DSC05431.jpg](/uploads/DSC05431.jpg)
![DSC05435.jpg](/uploads/DSC05435.jpg)
![DSC05444.jpg](/uploads/DSC05444.jpg)
そして、洗い上がりました。
下処理の効果もあり、汚れがしっかり落ちています。
洗濯機を使うことは便利ですが、洗えない素材や洗うことで劣化する素材や状態もありますので、そこを見分ける事が肝です。この見分け方は、お伝えするのが難しくやはり経験値以外の何物でもありません。
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そして、こちらのスニーカー専用乾燥機で一日しっかり乾燥させます。
![DSC05450.jpg](/uploads/DSC05450.jpg)
スニーカークリーニング後は、乾燥が非常に大事です。
せっかく除菌しても生乾きだと、逆に菌が増殖します。
特にインソールの下が乾燥しにくいので、インソールは取り出して乾燥するのが良いと思います。
![DSC05452.jpg](/uploads/DSC05452.jpg)
乾燥後、汚れ落ちをチェックしてみると、しっかり汚れが落ちていました。
![DSC05457.jpg](/uploads/DSC05457.jpg)
ただ水洗いするとレザーの油分が飛んでしまい、パサパサになってしまいます。
ですから、油分補給の必要があります。愛用の油分とラノリン配合の、Mモウブレイ スエードカラーフレッシュスプレーを噴霧し、油分を補給しました。
![DSC05459.jpg](/uploads/DSC05459.jpg)
仕上げにスエードブラシでブラッシングすると、毛足が整い美しい仕上がりになります。
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クリーニングは、一通り完了しましたが、今回は格安で買ったNB1400なだけに、細部はだいぶやれています。
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特に、この履き口の塗料が、歩行時に擦れて剥がれています。こちらは見える部分を綺麗にするという意味で、顔料で塗りなおすことにします。
![DSC05465.jpg](/uploads/f931957eb6a41057f3bbde679a3e383180ae2bab.jpg)
![DSC05467.jpg](/uploads/DSC05467.jpg)
筆で丁寧に塗りました。塗りなおしで、見栄えがかなり良くなりますね。
![DSC05468.jpg](/uploads/DSC05468.jpg)
さすがに、1800円で購入したNB1400のインソールは、再生不能そうです。。。
![DSC05469.jpg](/uploads/DSC05469.jpg)
今回、NBオリジナルインソールはあきらめて、新しくインソールを入れなおしました。
インソールは様々な物が市販されています。高い性能の良いインソールも売られていますので、インソールはいろいろ試してみることをお勧めします。インソールで履き心地が劇的に変わることもあります。
この辺りは改めて、こちらのコラムで詳しくお話したいと思っています。
![DSC05470.jpg](/uploads/DSC05470.jpg)
さて、仕上がりました。見違えましたね。
捨てるしかないような状態のNB1400でも、リメイクすることで、新たに生産するよりも確実に温室効果ガスの排出量は抑えられたのではないでしょうか。
メルカリで1800円で購入したボロボロのNB1400とは思えない仕上がりと、物を大事にする喜びが味わえて、個人的には非常に満足です。
![DSC05472.jpg](/uploads/DSC05472.jpg)
そして、なによりも肝心なのは、このリメイクした「New Balance」の「1400」をどう履くかということ。
今回は、イギリスのグレートヤーモスに本拠地を構える1898年創業の歴史あるワークウェアメーカー「YARMO」のストライプ柄のコックパンツに合わせました。
表参道の古着店「サンタモニカ」で買った、「フルーツ オブ ザ ルーム」の白Tに合わせています。
とてもリラックスした装いです。アメリカ製のNBとイギリス製のYARMOという組み合わせながら、色合わせもシンプルにばっちり整いました。
今度のお休みは、この装いで少年野球をしていた頃、週に2回通っていた駒沢公園の球場周辺をゆっくりウォーキングしようと思います。
連載記事
![](/assets_c/2022/07/oc_katsukawa_300-300-thumb-160x160-38223.jpg)
シューズデザイナー / レザーアーティスト
靴メーカー勤務後、渡英。ポールハーデン氏に師事したのち、2004年に帰国。その後、修理職人として働きながら、’07年にブランド「H.Katsukawa From Tokyo」をスタート。2016年にNorthampton Museum and Art Galleryにおいて、勝川永一のコンセプチュアルシューズ作品「Return to the Soil」が、東洋人初めての靴作品として、その美術館コレクションに収蔵される。
靴メーカー勤務後、渡英。ポールハーデン氏に師事したのち、2004年に帰国。その後、修理職人として働きながら、’07年にブランド「H.Katsukawa From Tokyo」をスタート。2016年にNorthampton Museum and Art Galleryにおいて、勝川永一のコンセプチュアルシューズ作品「Return to the Soil」が、東洋人初めての靴作品として、その美術館コレクションに収蔵される。