東京古靴日和#7
「重くて疲れる」トリッカーズのモールトンを、現代的な履き心地に変化させる裏技<前編>

  • 編集:穂上愛

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シューズデザイナーの勝川永一です。
「東京古靴日和」7回目のコラムです。

私は「H.KATSUKAWA」というシューズブランドを展開するにあたって、イギリスの伝統的な紳士靴の本質的なモノづくりから強く影響を受け、そこをベースに独自の視点を取り入れたシューズクリエイションをしてきました。
また、靴を何度もリペアをし長くという習慣は、サーキュレーションという観点からも現代人にとってより大事な習慣となりつつあるのではないでしょうか。
そんな想いで、シューズデザインと並行してリペアやリメイク事業を【The Shoe of Life / シューオブライフ】というリペア店で12年間運営しています。

さて、今回の古靴は、「トリッカーズ/TRICKER'S」カントリーブーツ「モールトン/MALTON」です。

「トリッカーズ/TRICKER'S」といえば、イングランド最古の製靴業者、ジョセフ・トリッカー(Joseph Tricker)がトリッカーズ社を創業したのは1829年。
また、トリッカーズはロイヤルワラントです。1989年、ウェールズ公チャールズ殿下により英国王室御用達の栄誉を授かりました。
そんな名門中の名門メーカーの代表的なモデルが、こちらのカントリーブーツ「モールトン/MALTON」です。

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本格靴を軽量化して、クオリティを体感するには?

「トリッカーズ/TRICKER'S」はノーザンプトンのメーカーですが、「モールトン/MALTON」ドレスシューズではなく、アウトドア用のブーツです。
当時のイギリス上流階級の紳士が休暇を田舎で過ごす時のために作られたのがその始まりと言われています。
私も若かりし頃にその「モールトン/MALTON」に憧れ、アメ横のハナカワで購入しました。欲しかったC SHADE TAN色のサイズが、自分のサイズよりハーフサイズ小さいサイズしか在庫がない状況でしたが、どうしても欲しくて、親指丸めて履いていました。

しかし、正直なところ最近履く頻度はめっきり減っていました。
というよりも、ほとんど履いていないというのが本当のところです。

いろいろ考えたのですが、シンプルに「重くて疲れる」のがその理由です。
また、「モールトン/MALTON」の靴木型はカントリーらしいボリュームのあるラウンドのシルエット。全体的にゆったりした設定ゆえに、タウンユースでは足が靴の中で泳ぎがちです。それが疲れの原因の一つです。
そこにきて、レザーソールや合成ゴムのDAINITE SOLE(ダイナイトソール)仕様ですと、重さも相まってよりフィットしにくいのです。

そんな「モールトン/MALTON」を、現代的な履き心地に変化させる裏技としてソールの軽量化があります。

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個人的に大好きなソール。しかし正直なところ、重い。

今回題材とする「トリッカーズ/TRICKER'S」「モールトン/MALTON」は、メルカリで8,500円という激安で購入したものです。

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こちらは、ハルボロ・ラバー社が製造するイギリスを代表するゴム製ソール DAINITE SOLE(ダイナイトソール)が装着されたモデルです。

このDAINITE SOLE(ダイナイトソール)ですが、合成ゴムという特性上、決して軽くありません。むしろ重いといえます。
独自の粘りもあり、個人的に大好きなソールです。
しかし、現在の私には、正直なところ重いのです。

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重いというのも個人的な感覚の部分もありますので、今回は計量器で重さをはかってみました。
なんと片足800gです。

ちなみに、現代ではマジョリティであるフットウェア(靴)の代表格・NIKE AIR MAXも計ってみました。

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こちらは480gでした。
倍とまでは言いませんが、これだけ重さに差があるのが可視化されると、余計履く気になれません。

そこで今回、個人的にも体験済みの「軽量化カスタム」をこちらでご紹介します。

簡単に説明しますと、重い合成ゴムまたはレザーソールを軽量なスポンジ系のソールに交換・リメイクします。
スニーカーとは違い、カカト周りのしっかりしたレザーシューズを軽量化すると、その作りこまれた心材が入った仕立ての本格的な靴の履き心地が強調されるのです。
レザーシューズファンの方に、最近履くことが遠のいているレザーシューズでぜひ試して頂きたい勝川お勧めの修理・カスタムなのです。

どのようなソールを装着するかは後にして、ソール部を解体していきましょう。

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うーん、かっこいいですねかっこいいですねDAINITE SOLE(ダイナイトソール)。
重いですけど。。

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ソールの交換の手順としては、まずヒールから外します。

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パコっと取れます。
イギリスのグッドイヤー製法のシューズの特徴の一つとして、現代の靴よりも接着が緩い事があげられます。現代のグッドイヤー製法のシューズは、縫わなくてもいいのでは?と思うほど強力な接着で底付けをしている靴も良く見受けられますが、イギリスのグッドイヤー製法の靴は、それらに比べ接着というよりも、縫いと釘で止めるという気概を感じます。
その証拠に、「トリッカーズ/TRICKER'S」は、履いているとウェルトとアウトソールがズレてきたりします。
ファンとしては、「トリッカーズ/TRICKER'S」の歴史と品質を感じる瞬間です。
ちょっとマニアックでしょうか。。

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その次に、ソールの出し抜いをグラインダーで削り切ります。
これで、ウェルトからソールを剝がせるようになります。

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そして、ペンチでゆっくり剥がします。ソールを張るために、剥がした底面をきれいにグラインダーで整えます。

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綺麗に、DAINITE SOLE(ダイナイトソール)を剥がした後に軽量してみました。
なんと460gでした。
DAINITE SOLE(ダイナイトソール)装着時は800gでしたので、DAINITE SOLE(ダイナイトソール)部だけで片足340gです。
靴の構成の中で、ソールの重さは比重が高いのがよくわかります。

さて、次回後編では、スポンジ系ソールを装着して、軽量化修理
カスタムを完成させたいと思います。

重くて履かなくなってしまった「トリッカーズ/TRICKER'S」カントリーブーツ「モールトン/MALTON」も、軽量化で現代都市生活にフィットした履き心地にアップデートすれば、8,500円で購入した「トリッカーズ/TRICKER'S」のカントリーブーツ、「モールトン/MALTON」であっても、重要なワードローブへ完全復活することでしょう。

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連載記事

勝川永一

シューズデザイナー / レザーアーティスト

靴メーカー勤務後、渡英。ポールハーデン氏に師事したのち、2004年に帰国。その後、修理職人として働きながら、’07年にブランド「H.Katsukawa From Tokyo」をスタート。2016年にNorthampton Museum and Art Galleryにおいて、勝川永一のコンセプチュアルシューズ作品「Return to the Soil」が、東洋人初めての靴作品として、その美術館コレクションに収蔵される。

勝川永一

シューズデザイナー / レザーアーティスト

靴メーカー勤務後、渡英。ポールハーデン氏に師事したのち、2004年に帰国。その後、修理職人として働きながら、’07年にブランド「H.Katsukawa From Tokyo」をスタート。2016年にNorthampton Museum and Art Galleryにおいて、勝川永一のコンセプチュアルシューズ作品「Return to the Soil」が、東洋人初めての靴作品として、その美術館コレクションに収蔵される。