これまでおもにインクルーシブなビジュアル表現について自分なりの考えをまとめてきましたが、今回は、今さらながらではありますが原点回帰し、そもそも私が所属するGetty Imagesが展開するストックフォトサイトとはどんなものか、ということについて、前編と後編の2回にわけてお話したいと思います。
<前編はこちら>
Getty Imagesでは肖像権・著作権の保持に配慮している
たくさんのストックフォトサイトの中から、なぜGetty Imagesが選ばれているかというと、必ずしも高いクオリティの作品を取り揃えているからだけではないと思います。ではなにかといえば、まずひとつにはGetty Imagesが肖像権・著作権に対して徹底的に配慮した作品規定を設けているからではないかと考えています。
たとえば、こちらに1枚の居酒屋の風景の写真があります。

こちらは3年ほど前の撮影イベントで、居酒屋を貸し切り、Getty Imagesの社員や、そのお友達など30名近くをキャステイングして撮影したものです。Getty Imagesのサイト上でこの写真の詳細を確認すると、モデルリリースと、プロパテリリースの2つが取得されていることがわかります。つまり、この写真を撮影するにあたって、まずは居酒屋の許可があること、そして写真内の人物すべてから許可をもらっていることが記載されています。
企業が広告等に写真を使用する際に、この点が重要なキーポイントとなります。モデルや撮影場所、肖像権・著作権保持者から書面での許可が下りているかをGetty Imagesでは厳密に管理しています。コントリビューターの方々にも、コンテンツを作成する際、モデルリリースやプロパティリリースがない作品の販売を許可出来ない事がある旨を周知しています。
コントリビューター契約をしたクリエーターの方たちは、所定のモデルリリースやプロパティリリースをコントリビューターのコミュニティサイトよりダウンロードして使用することが出来ます。日本語、英語含めて20以上の言語のものを用意してあり、Easy Releaseというアプリで生成した電子版を受け付けることも可能となっています。
また、提出作品には、企業ブランドの商標にも気を配る必要があります。たとえば、衣服のロゴ、発売元が特定出来るスマートフォン、コーヒーなどのカップについているロゴなど、もし写り込みがある場合には、最終的に画像編集ソフトで加工をお願いしています。細かいことをいうと、じつは街中の落書きにも著作権は発生します。そのため、作者がわからない場合、とりあえず加工して消すという作業が必要になる場合もあります。
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こちらの写真のタピオカのカップには、ロゴが写っていたので、コントリビューターにポスプロで消してもらいました。同じくシャッターにも落書きがあったため、消してもらいました。また、スマホ画面の中のアプリアイコンやUIなども、コントリビューター自身が制作し、プロパティリリースを提出します。

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一方で、街中で歩く人が大勢写り込んでいるような作品は、自然に発生した群衆とみなされるので、モデルリリースは不要となる場合が多いです。ただし、特定のだれかにフォーカスが当たっている場合、肖像権が発生する為、モデルリリースが必要になります。

街中では、さまざまなビルボードも写り込む可能性がありますが、それが複数個存在していてどこかにフォーカス当たっている状態でなければプロパティリリースが不要となる場合が多いです。ただ、それが特定のアイドルの映画看板などであったりすると、そのままでは販売は許可されないので、加工する必要なども出てきます。
一方で作品には加工をしてはいけないポイントもあります。Getty Imagesではフランスの法律改定に準じて、被写体の体形を痩せさせたり、太らせたりするリタッチを禁止しています。フランスの場合には、そういったリタッチを加えると、その写真に関して免責事項の記載が必要になるのですが、Getty Imagesではそもそも体型などに関するリタッチ自体を根絶していこうという方針をとっています。また、AIによって生成された作品の提出も禁止しています。
このような細かい注意事項は、コントリビューターのコミュニティサイトに情報が集約されています。コントリビューターの方々は、作品づくりにあたり事前にチェックし、入念な準備をしていただいています。
人によっては厳しすぎるという意見をもらうこともあります。ですが、作品づくりをする前にコントリビューターにこういった点をきちんと理解してもらっているからこそ、Getty Imagesは安心だと思ってもらえるのではないでしょうか。
これは競合サイトとの差別化が図れていて、強みになっていると思います。後から問題に気づいたときにも社内の法務部が対処する制度もあります。最終的にはコントリビューターの方の身を守るためでもあるし、顧客の方々を守るためでもあるから、きちんと取り組むべきだと考えています。

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アートディレクターと一緒に作品づくりを行う
Getty Imagesならではの試みとして、もうひとつ上げられるのが、Getty Images社内のCreative Insightsというビジュアルエキスパートから構成されるチーム(私が現在所属する部署です。)のビジュアル調査や分析等をもとに、アートディレクターがコントリビューターの方々といっしょになって作品づくりを行うサポート体制が整っていることだと思います。コントリビューター同士の交流や意見交換などのコミュニケーションの場を設けているのも、Getty Images特有の取り組みです。

前編でもご紹介した通り、コントリビューターの方たちが、すべてプランニングして撮影することもありますが、ビジュアル調査の結果からニーズが高いと判断したものに関しては、Getty Imagesが主導権を持って、スタイリングから撮影場所、キャスティングなどに関わる場合もあります。また、Getty Imagesで長くトップレベルのコントリビューターとして活躍している方々に撮影会に参加していただき、どうやったらより売れるビジュアルを制作出来るのかを学び合う場を設けることもあります。
一方でビギナーの方たちにも、セミナーで学びの場を共有することもたびたびあります。たとえばどうやったらモデルさんをディレクションできるのか、スタイリングはどうしたらいいのか。また、SEO対策ではないですが、どんなタイトルやタグを付ければ検索されやすいかなどを研究するセミナーを開催することもあります。売れっ子になるためにタグの付け方のコツを掴み、教える側に回るコントリビューターの方もいらっしゃいます。こういった交流やみんなで楽しく学んでビジュアル制作する場を提供するのはGetty Imagesならではの試みだと思います。

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だれでもGetty Imagesに寄稿するチャンスがある
コロナ禍では、撮影を行うこと自体が世界的にむずかしい状態でしたが、そのときにGetty Imagesから作品を購入してくださる方がさらに増えました。既存のビジュアルではなくて、何か新しいものが欲しいというシチュエーションでも、各地のコントリビューターたちが、感染対策を徹底しながら、ドローンを飛ばしたりして作品制作が継続して行われました。この時期、イラストレーターやCGアーティストの方々の活躍の場もぐんと広がったのも大きな変化と言えます。オンライン会議で打ち合わせして、納品はスピーディに。その繰り返しでした。とにかくコロナ禍は新しいニーズが爆発的に増え、私自身のやりがいも増していきました。
じつはコントリビューターの選定基準というのは、特別厳しいというわけではありません。もちろん、一定のスキルやセンスは必要になってくるとは思いますが、一定のラインをクリア出来ていれば、あとは違法性がない作品を作れるかどうか、ということのほうが大切になってきます。
最初はハイクオリティの作品が作れなくても、すぐにダメと見切りをつけることはしません。みなさんウェルカムでどんどん色々な人たちと交流して、一緒にいいものを作っていきませんか、というスタイルにしています。実際、最初はあまりパッとしない作品が多かった人が、徐々に力をつけてトップコントリビューターになるという事例もあります。

最近ではUGC(ユーザー・ジェネレイテッド・コンテンツ)というワードが広く知られるようになりました。ユーザー自身が作成・投稿したコンテンツのことを指す言葉です。スマホで撮影したビジュアルが、自然で作り込みすぎない作品として評価され、広告などに多く使用されるようになり、特別な機材がなくても、誰でもGetty Imagesのコントリビューターとして作品を寄稿するチャンスがあるのです。
私はビギナーの方には、まず100枚自分の作品をアップしましょう、とおすすめしています。普段はまったく異なる業種で仕事をされているコントリビューターのみなさんも大勢いますので、興味がある方は是非Getty Imagesのリクルートサイトを覗いてみてください。
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Getty Images/iStock クリエイティブ・インサイト マネージャー
ビジュアルメディアの学歴を持ち、映画業界に従事。2016年からはGetty Images/iStockのクリエイティブチームに所属。世界中のデータや事例をもとに、広告におけるビジュアルの動向をまとめた「Creative Insights」を発信。多くのクリエイターをサポートしながら、インスピレーションに満ちたイメージ作りを目指している。
ビジュアルメディアの学歴を持ち、映画業界に従事。2016年からはGetty Images/iStockのクリエイティブチームに所属。世界中のデータや事例をもとに、広告におけるビジュアルの動向をまとめた「Creative Insights」を発信。多くのクリエイターをサポートしながら、インスピレーションに満ちたイメージ作りを目指している。