女性が共感できる女性像とは? 具体的なビジュアルから現在地を考えます

  • 文:遠藤由理

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Shiho Fukuda, 1061685638 for Project #ShowUs

世界的に男女平等が叫ばれる中、日本の多くのメディアや広告は、女性が共感できる女性像を描写することに苦労していると言えます。日本社会においては、一連の女性蔑視発言や、差別や性暴力を訴える女性たちへの批判、女性の合格者数を抑えるための入試結果の操作、夫婦別姓禁止など、「女性が輝く社会」を目指していると言いながらも、女性差別がなくなる気配はありません。

問題を起こした本人達が謝罪、辞任したからといって、根付く問題は解決されず、前途は私たち一人ひとりの行動や言動にかかっていると言えます。そこで今回は、Getty Imagesで導き出したビジュアルインサイトに基づき、よりインクルーシブな「女性のビジュアル表現」に関して考えてみたいと思います。

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2020年の内閣府男女共同参画局の発表によると、日本の働く夫婦の家事時間は、女性が男性のおよそ3.6倍と言われています。また、エコノミスト誌が発表した「女性の労働環境の質」に基づく国別ランキングにおいて、日本は最下位から2番目というのが実態です。

Getty Imagesサイト上で過去12ヶ月間にダウンロードされたビジュアル分析では、日本の企業は男性よりも女性のビジュアルを2倍以上使用していることがわかりました。しかし、女性は男性よりも家庭シーンにおいて多く登場し、ビジネスシーンで女性がリーダーシップを発揮する姿は、男性の1/2という事実も判明しました。このような視覚的な偏りは、日本社会の偏りと一致していると言えます。

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Ada DaSilva, 1287538929

世界各地にはさまざまな「美の理想」があり、女性は幼い頃から、自分がどのように見えるべきかという、メディアや広告を通した有害な固定観念にさらされています。これが女性の自己肯定感に悪影響を及ぼし、心身の健康や、人間関係、学習・労働意欲などにまでに大きなダメージを与えていると言えます。

若者に至っては、ソーシャルメディアの台頭により、友達やインフルエンサーの非現実的な「美の表現」にさらされる機会がさらに多く、それが自尊心の低下につながる危険性を持っています。

日本のメディアにおいては、大坂なおみさん、バービーさん、SHELLYさん、みたらし可奈さんのような、さまざまなジャンルで活躍されるリアルな女性の姿が受け入れられつつあるように見えます。ただし、ある一定の年齢を超えると「女性の市場価値がなくなる」という残酷な概念や、女性がセクシャルウェルネスに関して語ることへのタブー視などが社会に蔓延っています。

結果、女性がモノ化され、メイルゲイズ(ヘテロセクシャル男性の目線から描かれる女性像)に基づいた「女子力」に女性自身も毒され、自分や他の女性のあるがままの魅力を否定するような悪循環に陥っているような気がします。たとえば、脱毛、減量、アンチエイジング、スイーツ、結婚、家事、育児などに関連したテーマに取り上げられる、古典的な女性像を思い浮かべてみてください。

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CAILIN HILL ARAKI, 1061673636/ Tatyana Rutherston, 1064586202 for Project #ShowUs

さて、英語で「女子力」は「Girl Power」です。瞬時に思い浮かぶのは、90年代に 一成を風靡したイギリスのガールズバンド、スパイスガールズ 。 ベビードール系、セクシー系、スポーティ系、レディース系など、少し怖いけど身近に感じる、20代のお姉さん達が混在するグループでした。

飛び抜けてスリムでもオシャレでもなく、歌が下手な人、笑わない人、いつも怒っている人、無口な人もいました。そんな彼女たちの「ありのままの自分に自信を持っていいんだよ」というポジティブなメッセージが世界中の子供たちに強烈に響いたわけです。

子供ながらに、スポーティ・スパイスの「女力」と漢字で書かれたタトゥーに憧れ、でもなれるのならポッシュ・スパイス(いまのビクトリア・ベッカムです。) がいいなと密かに願い、母に彼女たちが着ていたような洋服や靴を必死にせがんだ記憶が蘇ります。

歌も全曲暗唱できました。周囲の友達には、「そんな髪して、服着ていたらモテないよ。」と笑われたこともありました。まったく気にしませんでしたが、このモテない発言は間違っていません。

いまも昔も日本語の「女子力」は、「Girl Power」の正反対である「男性受けする力」を示します。スパイスガールズ的な存在は主張ばかりする人=文句ばかり言う人と認識され、モテキャラにはなりません。家庭的で、気が利いて、サラダの取り分けなんかも上手な、つくりあげられた女性像ではないからです。

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LOUISE BEAUMONT, 1314453104 for Project #ShowUs

ではこの先、どのようにしてビジュアルを見る力を鍛えていけば、女性の自信や地位向上につながるのでしょうか?「私みたいな」をテーマに、ダヴ社とのパートナーシップによってGetty Imagesで展開するプロジェクト『#ShowUs』は、100%女性とノンバイナリーのクリエイターによって生み出されたコレクションです。

このコレクションを制作する側、そして利用する側双方のためにつくったチェックポイントをご紹介します。

· セルフ・ラブ(自分を愛すること)が描かれていますか?

完璧さを追求するのではなく、しわ、白髪、体形、障害、体毛、傷跡、ニキビ、ホクロなど、その人ならではの特徴を前向きに捉えたビジュアルでしょうか?

・女性が主役として描かれていますか?

女性が自立し、自信を持ち、力を発揮しているビジュアルでしょうか?会議を仕切っているのは誰でしょうか? 40代以上の女性が高いポジションで様々な仕事に従事している姿が描かれていますか?

・女性のスキルに注目していますか?

家族という環境の中であっても、母親という役割だけではなく、他にさまざまな役割を持っているように描かれているでしょうか? たとえば、母で、企業家、趣味はスケートボードなど、様々なアイデンティティや性格が描かれているでしょうか?

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Ameya Jane, 1288289509 for Project #ShowUs

・女性アスリートのスキルが描かれていますか?

アスリートとしての身体能力を示すのではなく、性的に表現されていませんか? 服装や体型の違いにかかわらずすべてのアスリートが健全な自己肯定感を持てる描写でしょうか?

・「女の子らしさ」のステレオタイプを打ち破る若者が描かれていますか?

あらゆる体型、能力、性別、志向を持つ現代の若者が描かれていますか? にきびや、歯列矯正、眼鏡などの若者も描かれていますか? ノンバイナリーやジェンダー・ノンコンフォーミングの若者が描かれていますか?

・ 多様な人種的ルーツを持つ女性が描かれていますか?

その土地に暮らすさまざまなルーツを持つ女性が描かれているでしょうか? あらゆる肌の色、ヘアスタイル、能力、体型、宗教、性的指向、性自認を持つ女性像が描かれているでしょうか?

・障害を持つ女性の日常が描かれていますか?

障害を「克服する」必要があるものとしてではなく、その人のアイデンティティの一部として表現していますか? 仕事風景など日常生活がポジティブに紹介されていますか?

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Shiho Fukuda, 1088894032 for Project #ShowUs

日本では、「空気を読む」という風潮により、蔑視発言があっても、その場が気まずくならないように批判しない傾向があるといいます。ただしそれを見過ごしてしまうと、自分の発言や行動が不適切と気が付かずに生き続ける人を野放しすることになり、いつまで経っても周りが定義するステレオタイプに縛られる社会に生きることになってしまいます。

Getty Imagesの使命は、世界のどこにいようと、ビジュアルを通して消費者の行動喚起につなげること。女性やノンバイナリーのクリエイターの活動支援を目的として立ち上げられた、「#ShowUs」助成金プログラムへの応募が日本語でも可能になりました。第4回目を迎える今回のテーマは「ボディ・ポジティブ」。優秀な企画案の応募者2名には、各5,000ドル、合計10,000ドルの助成金が給付されます。(応募締め切りは10月25日、公式サイトよりオンラインで応募が可能)

『#ShowUs』の取り組みを通して、女性の美しさの定義が広がり、私たちのような身近な人々のライフスタイルがメディアや広告に反映されるようになれば、社会にもポジティブな変化をもたらせるのではないかと期待しています。

遠藤由理

Getty Images/iStock クリエイティブ・インサイト マネージャー

ビジュアルメディアの学歴を持ち、映画業界に従事。2016年からはGetty Images/iStockのクリエイティブチームに所属。世界中のデータや事例をもとに、広告におけるビジュアルの動向をまとめた「Creative Insights」を発信。多くのクリエイターをサポートしながら、インスピレーションに満ちたイメージ作りを目指している。

遠藤由理

Getty Images/iStock クリエイティブ・インサイト マネージャー

ビジュアルメディアの学歴を持ち、映画業界に従事。2016年からはGetty Images/iStockのクリエイティブチームに所属。世界中のデータや事例をもとに、広告におけるビジュアルの動向をまとめた「Creative Insights」を発信。多くのクリエイターをサポートしながら、インスピレーションに満ちたイメージ作りを目指している。