これまでおもにインクルーシブなビジュアル表現について自分なりの考えをまとめてきましたが、今回は、今さらながらではありますが原点回帰し、そもそも私が所属するGetty Imagesが展開するストックフォトサイトとはどんなものか、ということについて、前編と後編の2回にわけてお話したいと思います。
ストックフォトとは、さまざまな場面で使用されることを想定し、あらかじめ用意した写真素材、または動画やイラストなども含むマルチメディア素材のことを指します。
Getty Imagesも、姉妹ブランド「iStock」も、ストックフォトを扱うサイトです。世界には多くのストックフォトサイトが競合していますが、その中でもGetty ImagesやiStock(以下Getty Images) が多くの方々に信頼を得ているのには、自由で多彩な表現を生み出すサポート体制と厳しい作品規定にあると考えています。
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Getty Imagesのクリエイティブを支えるコントリビューター
Getty Imagesでは、素材をご提供いただくフォトグラファーをはじめとするクリエーターの方を、「コントリビューター」と呼んでいます。英語の「Contributor(コントリビューター)」の原型「Contribute」には「貢献する」、「寄稿する」、「投稿する」などの意味があります。
世界中のコントリビューターのみなさんに、写真、イラスト、ビデオ、音楽などの作品を寄稿してもらい、Getty Imagesが希望者に対してライセンスの販売をしています。なお、作品の著作権は、各コントリビューターに帰属しています。
コントリビューターの数は、全世界で50万7千人以上、総作品点数は5億700万点を超えます。世界で作品がダウンロードされ、新聞、雑誌、広告、映画、テレビ、CM、オンラインメディア、書籍など、多岐に渡って使用されています。
以前私は、アートディレクターとして、コントリビューターのみなさんの作品づくりをサポートする仕事をしていました。ビギナーのみなさんには、まずストックフォトの基本に関してお話しするエデュケーショナルセミナーから始めて、中堅の方々には、Getty Images 独自のビジュアル調査VisualGPSの調査結果に基づいたカスタマーニーズや、ビジュアルトレンド等に関するセミナーを開催することもあります。また、撮影では、コントリビューターの撮影現場の裏側までサポートすることもありました。
よく聞かれる質問なのですが、参加しているコントリビューターの方は、必ずしもプロばかりではなく、主婦、学生、会社員で副業として寄稿しているまで多種多様です。近年では、作り込みのないビジュアル作品の需要が高まり、スマートフォンで撮影した作品がビルボードで使用される例もめずらしくありません。
さまざまな立場のコントリビューターがクリエイティブな作品を通して世界とつながること。それをサポートするのもGetty Imagesの役割だと考えています。
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多用される作品には身近な人を被写体とする共通点がある
では、Getty Images上で、近年需要が増えているビジュアル作品にはどのような傾向があるでしょうか。ここからは、実際に私が一緒にお仕事をしてきた、コントリビューターのみなさんの制作の舞台裏や作品の特徴を解説していきたいと思います。
こちらは、ご夫婦フォトグラファーチームによる作品です。
家族で過ごす日常や旅行先での写真、そして時にはご親戚やお友達との楽しいひと時の写真などを販売されています。様々な作品が、世界各国の企業広告で使用され、バナー広告や世界各地の地下鉄広告、ビルボード、ショッピングモールの広告にも使用されています。コントリビューターにとってはGetty Imagesに寄稿することで、さまざまな販売ルートを確保出来るということが大きなメリットになると思います。
こちらは、さまざまなジャンルの作風で活躍されているプロのフォトグラファーの方の作品です。Getty Images にも長年、ご自身の作品を寄稿されています。こちらは、コロナ禍で爆発的に需要が高まった「リモートワーク」や、「ワーケーション」をテーマに撮影したまさに旬の作品と言えます。
お友達やそのご家族をモデルとしてキャスティングして、お知り合いの旅館を貸し切って行ったそうです。ちなみに、本コラムでご紹介した作品はどれも共通して、使用する企業側が文字やロゴを入れやすいようコピースペースという空間がうまく作られています。ベテランになるほどに、コピースペースの作り方は巧みになっていくと思います。
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こちらは、ご夫婦コントリビューターチームの作品。 一人がプロデューサー、もう一人がフォトグラファー、ビデオグラファー業務をこなします。
モデルは、お二人がインスタグラムでキャスティングをした際に出会って以来、長年、Getty Imagesの撮影に協力していただいている方です。昨年行われた聖火リレーや、全国のマラソン大会にも多数参加される市民マラソンランナーでもあり、各地で講演なども行われるアクティビストでもあります。Getty Imagesとの撮影を機に、モデルとしても幅広く活躍されるようになったそうです。このコントリビューターとのコラボ作品は、海外メーカーの広告などで大人気です。
ビデオクリップの作品は音無しで5秒から30秒くらいの作品で納品してもらいます。実際には、その中のほんの2~5秒程度がテレビCM、映画、テレビシリーズに使用されるというパターンも少なくありません。
このスケートボードのシリーズ動画は、オリンピック前、キャスティングを実際のスケートボーダーの方にお願いして実現しました。
通常、Getty Imagesで企画する撮影では、プロデューサー1人体制でロケーションやキャスティングなど全てを担当するのですが、今回はモデルさんの1人にキャスティングディレクターとして関わっていただき、そのお友達やそのまたお友達までキャスティングしていただき、ご自身が幼少の頃から通っていらっしゃるスケートパークへのアクセスも可能になりました。
そのおかげで、今までGetty Imagesには存在しなかった、日本のスケートボーダーの方達のリアルな日常や練習風景の撮影が可能になったというわけです。ちなみに、撮影したのはエストニアのフォトグラファーとビデオグラファーの2人です。モデルのみなさんが華麗にスケートボードで駆け抜けたり、トリックを披露する中、私も含めた全員でゼイゼイ言いながら追いかけて撮影した経験も、今では良い思い出です。
動画だけではなく、冒頭でお見せした写真シリーズも含めて、2日かけてさまざまなシーンを撮影しました。写真シリーズはジャンルを問わずさまざまな媒体に使用され、ビデオに関しては、各クリップ2~3秒が企業コマーシャル、ニュース映像、テレビシリーズなどで使用されました。
こちらはGetty Imagesでビデオワークショップを開催した際に、撮影したシリーズ動画です。モデルさんは、担当プロデューサーのお知り合いの方とそのお友達です。撮影は一日がかりで、このシーンだけでなく、ふたりでご飯を作ったり、掃除をしたり、休日を過ごしているイメージのものを複数のコントリビューターに撮影してもらいました。
このように、動画に関しては購入者が、気に入ったクリップから一部分、イメージに合った箇所をチョイスして使う場合が多いです。
すでにお気付きになったかも知れませんが、コントリビューターのみなさんがモデルとして撮影するのは、プロのモデルさんだけではなく、身近な人が大半であるということもポイントです。自分にとって身近な被写体のふとした瞬間を撮影するような、そんな作り込みのない作品が、近年求められているのだと感じています。
<後編へ続く>
連載記事
Getty Images/iStock クリエイティブ・インサイト マネージャー
ビジュアルメディアの学歴を持ち、映画業界に従事。2016年からはGetty Images/iStockのクリエイティブチームに所属。世界中のデータや事例をもとに、広告におけるビジュアルの動向をまとめた「Creative Insights」を発信。多くのクリエイターをサポートしながら、インスピレーションに満ちたイメージ作りを目指している。
ビジュアルメディアの学歴を持ち、映画業界に従事。2016年からはGetty Images/iStockのクリエイティブチームに所属。世界中のデータや事例をもとに、広告におけるビジュアルの動向をまとめた「Creative Insights」を発信。多くのクリエイターをサポートしながら、インスピレーションに満ちたイメージ作りを目指している。