インクルーシブな「障害を持つ人々のビジュアル表現」について

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    前回のコラムニストの記事で、私が所属するGetty Imagesでは、常にダイバーシティ&インクルージョンを尊重するビジュアル制作に力を入れているというお話をしました。特に日本では、ここ数年、東京オリンピックやパラリンピックに向けて、競技やそれに関わるアスリートという表面的な要素だけではなく、日本に暮らす多様なコミュニティや、そこに属する人々のライフスタイルにフォーカスを置いたビジュアル作りをしてきました。今回は、Getty Imagesで導き出したビジュアルインサイトに基づき、よりインクルーシブな「障害を持つ人々のビジュアル表現」に関して考えてみたいと思います。

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    JGalione, 820589428

    2018年に厚生労働省が行った調査によると、日本の障害者数は900万人以上。人口の7.4%がなんらかの障害を持って生活していることになり、そのうち知的障害を持つ人は、身体的障害を持つ人の約2倍とも言われています。その一方、このように世界中で障害者人口が多いにも関わらず、メディアやマーケティングにおいては、パラリンピックスポーツ関連以外の場面で、障害を持つ人々を目にすることが少ないのが現状です。現に2020年に日本のGetty Imagesサイト上でダウンロードされたビジュアルのうち、障害者のアイデンティティを持つ人が含まれているビジュアルは1%弱。そのうち身体的な障害を示すビジュアルが全体の58%を占めていました。なお、使用されるビジュアルは、ステレオタイプに限定されていることが多く、たとえば、車椅子を使用している人がケアされる姿や、義肢などの補装具のみに焦点が当てられたものが多く、日常生活の生き生きとした姿が描かれているものはごく一部でした。

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    Trevor Williams, 1159734714

    少し前の話になりますが、オーストラリアのコメディアンであり、障害者人権活動家であった故ステラ・ヤングさんがTED Talkにおいて、「非障害者に感動を与えてくれる存在」として描かれる障害者像を「感動ポルノ」と批判しました。さらに印象的だったのは、障害者が乗り越えなければならないのは実は、「自分たちの障害や病気ではなく、障害者を特別視し、モノとして扱う社会だ」という彼女の指摘。同様に2016年日本のNHK教育テレビの『バリバラ~障害者情報バラエティー~』という番組においても、「障害者を題材にした感動的な番組」をどう思うかというアンケートを取ったところ。障害者の90%が、そういった番組に不快感を表すと回答した一方、非障害者の45%が「感動する」と回答。当然のことながら、障害を持つ人たちは、特別な存在としてではなく、日常的な存在として描写される事を望んでいるということがわかります。

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    Tdub303, 1222518350

    映画『37セカンズ』そして、Netflix『スペシャル 理想の人生』に見られるように、障害を持つ人々は、それぞれ複数のアイデンティティや能力を持っているにも関わらず、ゴーストライターとして、ひっそりと社会に存在することを強いられたり、ジムでワークアウトをするだけで、「すごい」と感動されたりなど、エイブリズム(能力主義)や、「こうあるべき」という社会規範のよって、「生きづらさ」を抱えさせられています。この2つの作品に共通して言えるのは、「インターセクショナリティ (交差性)」すなわち、人種、社会階級層、障害、ジェンダー、セクシャリティなど複数の要因が交差することにより、差別や抑圧が起こる社会的な枠組みを捉え、当事者が直面する問題や、解決方法を、共存する周辺の人も巻き込んでより確かな形で表現している点だと言えます。主人公たちが、社会へと飛び出し、悩みながらも、障害があること、ジェンダーやセクシャリティなど、自分自身をオープンに表現できるようになる姿に共感し、さらに理解を深めたいと考えるきっかけになった方も多いと思います。また、東海テレビのキャンペーンにおいても『見えない障害と生きる。』という形で取り上げられていましたが、さまざまな種類の「見えない障害」を理解することも、よりインクルーシブな社会を築くための一歩と言えます。

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    Eri Miura, 1169055097

    では、企業やブランドがダイバーシティ&インクルージョンのビジュアル化に取り組む際、障害者を除外しているケースが多い現在、我々消費者はどのようにしてビジュアルを見る力を鍛えていけばよいでしょうか? Getty Imagesでは、米国Verizon Media社と15の障害者慈善団体とのパートナーシップを組み、多様性の視覚的効果を向上させるためのトークニズム(物事をうわべだけで片付けようとすること)から脱却し、障害者の人々が共感できるビジュアルを制作・提供することを目的とした「Disability Collection」を展開しています。そのコレクションを制作する側そして利用する側、双方のためにつくったチェックポイントをご紹介します。

    ●その人の障害以上のものを表現していますか?その人の多面的な経験、日常生活、人間関係が描かれていますか?
    ●障害を「克服する」必要があるものとしてではなく、その人のアイデンティティの一部として表現されていますか?

    ●義肢や車椅子などの器具や補装具、その人の障害のみにフォーカスせずに、その人のさまざまな活動が描かれていますか?

    ● 知的障害など、目に見えない障害を持つ人が描かれていますか?

    ステラ・ヤングさんの言葉通り、変わらなければならないのは障害を持つ人々を取り巻く社会であり、その先、我々ひとり一人が異なる背景や経験を理解し、大切にすることが必要です。障害者の人々の日常やあるがままの魅力をビジュアルで目にすることによって、より多くの人々の固定観念を打ち砕き、理解を促すことができるのではないかと考えます。

    遠藤由理

    Getty Images/iStock クリエイティブ・インサイト マネージャー

    ビジュアルメディアの学歴を持ち、映画業界に従事。2016年からはGetty Images/iStockのクリエイティブチームに所属。世界中のデータや事例をもとに、広告におけるビジュアルの動向をまとめた「Creative Insights」を発信。多くのクリエイターをサポートしながら、インスピレーションに満ちたイメージ作りを目指している。

    遠藤由理

    Getty Images/iStock クリエイティブ・インサイト マネージャー

    ビジュアルメディアの学歴を持ち、映画業界に従事。2016年からはGetty Images/iStockのクリエイティブチームに所属。世界中のデータや事例をもとに、広告におけるビジュアルの動向をまとめた「Creative Insights」を発信。多くのクリエイターをサポートしながら、インスピレーションに満ちたイメージ作りを目指している。