日本の伝統工芸を発信するCraft x Tech Tokaii Project 、ロンドンで展示を開催

  • 編集・文:井上倫子
Share:
CxT_Tokai_Kudan_GroupPhoto.jpg九段ハウスでの展示で撮影された、東海プロジェクトのクリエイターと産地の方たち。Photo by Noritoshi Kuroki

日本の伝統工芸と国内外のクリエイターによるプロジェクト「クラフトテック(Craft x Tech)」。東北エディションに続く第2弾「Craft x Tech Tokai Project」は今年5月に歴史的建築物である東京・九段ハウスにてその成果を発表した。さらに、今年9月には作品がロンドンデザインフェスティバルにて発表されるという。九段ハウスでの作品を振り返りながら、今後の展望について、ファウンダー/クリエイティブディレクターであるタンジェントの吉本英樹が語る。

既存の工芸を更新するCraft x Tech

アート&デザインスタジオ「タンジェント」を主宰する吉本英樹によって立ち上げられ、キュレーターとしてマリア・クリスティーナ・ディデロも参加しているクラフトテック。まずは6組のクリエイターたちの作品を振り返ろう。また、これまで東海プロジェクトでクリエイターたちがそれぞれの産地を訪れた様子は、以下の記事に掲載されている。

【美濃和紙】イタリア×シンガポールの視点で見える新しい魅力
【尾張七宝】消えゆく伝統を次世代へ。デザイナーと職人が挑む新しい工芸のかたち
【美濃焼】伝統に敬意を払い、多様性を問い直す工芸
【瀬戸染付焼】風景と時間の延長にある焼き物
【有松鳴海絞り】色鮮やかな伝統工芸に、ベサン・ローラ・ウッドが魅せられた
【伊賀組紐】アフリカの芸術家アタン・ツィカレが、伊賀くみひもに見た触覚の哲学

---fadeinPager---

九段ハウスで披露された6つの革新的なコラボレーション

『Fushi』美濃焼 × デイヴィッド・ケオン(David Caon) 

シドニーを拠点とするデザイナーのデイヴィット・ケオンは、岐阜県東濃地方を中心に生産される美濃焼の「不動窯」とコラボレーションし、コンソールテーブルと照明を発表した。陶磁器特有の接合部や構造的強度をあえて美的な「節(ふし)」として捉え直し、モジュール構造のプロダクトへと結実させた。タンジェントの吉本はこう語る。

07_MinoYaki_DavidCaon_Fushi_01.jpg

コンソールテーブルと照明。最初は「酒升」を積み重ねたような四角いモジュールというアイデアからスタート。しかし歪みなどを考慮する中で現在の円柱・竹の節のフォルムへと進化していった経緯があるという。Photo by Masayuki Hayashi

「デヴィッドは普段は飛行機の内装などをデザインしているため、0.1mm単位の精度でのプロダクトにこだわります。一方で手作業で製作する焼き物は寸法に多少のズレが出る。精度に対する感覚の違いがある中で、職人さんが対応できる限界を見極め、それ以外の部分は内部の金属構造をどう設計すれば全体として成立するかを検証していった経緯があります」

しかし結果として人の手で作られる焼き物のなかでも、かなり精度の高い製品に仕上がり満足しているという。

07_Mino Yaki x David Caon.jpg
伊藤洋平⚫︎不動窯3代目。慶應義塾大学卒業後、愛知県立名古屋高等技術専門校 窯業校を経て2006年より家業に従事。 右:デイヴィッド・ケオン●(David Caon)インダストリアルデザイナー。 2009年にシドニーでデザイン事務所を設立。南オーストラリア大学を卒業後、ミラノでジョージ・ソウデンやジャージー・セイモア、パリでマーク・ニューソンのもとで研鑽を積む。Photo by Noritoshi Kuroki

『Grid Unwoven』美濃和紙 × ランザヴェッキア+ワイ(Lanzavecchia + Wai)

日本人にとって馴染み深い「障子」を再解釈した照明を発表したのは、シンガポールとミラノを拠点とするランザヴッキア・ワイだ。ここで使われている和紙は、ユネスコ無形文化遺産に登録された「本美濃紙」に代表される、美濃和紙。和紙を使った表現活動を続ける職人・千田崇統が制作した。

08_MinoWashi_L+W_GridUnwoven_01.jpg
和紙工房の近くを流れる板取川は、デザイナーたちにとって大きなインスピレーションとなった。その川の水の流れを和紙で表現したという。Photo by Masayuki Hayashi

「繊維が厚く見えている部分に紙の原料液を何度も何度も重ねてかけ、濃淡を出すことで線のように見せています。『漉く(すく)』という従来の美濃和紙のイメージからは少し離れるかもしれませんが、それが新しい和紙の解釈につながるのではないかと思っています」と千田はコメント。立体的な三次元構造の中に和紙の柔らかな光と影の表情を閉じ込め、素材が持つ新たな空間的可能性を得た。

08_two-shot_Mino Washi x Lanzavecchia + Wai.jpg
左:千田崇統●1983年岐阜県生まれ。2011年市原達雄に師事し美濃手漉き和紙の技術を学び、独立。原料の栽培も行い、伝統を活かしつつ表現の幅を広げている。 中央、右:ランザヴェッキア+ワイ(Lanzavecchia + Wai)●イタリア出身のフランチェスカ・ランザヴェッキア(中央)とシンガポール出身のハン・ワイ(右)が2010年に設立したスタジオ。エルメスのディスプレイ、ザノッタの家具などで知られる。Photo by Noritoshi Kuroki

『Kataginu』有松・鳴海絞 × ベサン・ローラ・ウッド(Bethan Laura Wood)

ロンドンを拠点に、カラフルなプロダクトを発表してきたベサン・ローラ・ウッド。日本の伝統装束の「肩衣」から着想を得た照明を発表した。制作を手掛けたのは、浴衣で有名な有松・鳴海絞の技術を使った製品を展開しているブランド・suzusanだ。

09_ArimatsuNarumiShibori_BethanLauraWood_01.jpg板締め絞り、鎧段帽子絞りという、昔からある伝統的な技法を使い染め上げられた。Photo by Masayuki Hayashi

染め物で生まれる風合いと、ベサンらしい鮮やかな色彩感覚を融合させ、ダイナミックでグラフィカルな造形美を表現した。suzusanの代表である村瀬弘行はこうコメントする。

「今回彼女の提案するカラーコンビネーションは、普段の僕らの仕事や日本の生活様式の中からでは出てこないようなものでした。そして照明という用途も、また形状も、想像もしなかった形でした。ただ、それは単に人を驚かすアイデアということではなく、緻密に考え抜かれた先に出てきたもので、それはデザイナーという人々の生活を豊かに、社会を幸せにする役割を持った人の真摯な姿に触れたようでした」

09_Arimatsu Narumi Shibori x Bethan Laura Wood.jpg
左:ベサン・ローラ・ウッド(Bethan Laura Wood)●デザイナー。1983年英国生まれ。ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)を卒業後、2009年にスタジオを設立。色彩、質感、形を幾層にも重ねる多層的なデザインアプローチと、職人技への深い敬意を込めた物語性のある作風で知られる。 右:村瀬弘行●「suzusan」クリエイティブディレクター。1982年、愛知県名古屋市有松の絞り染め職人の家系に生まれる。20代で渡欧し、ドイツのデュッセルドルフにてアートを学んだ後、2008年に自身のブランドを設立。Photo by Mark Cocksedge

『Kasane』尾張七宝 × フィリップ・マルアン(Philippe Malouin) 

尾張七宝と聞くと、華やかな装飾が施された壺、皿といった室内装飾品が思い浮かぶ。しかしデザイナーのフィリップ・マルアンが作り上げた作品は非常にシンプルなものだった。マルアンはこう語る。

10_OwariShippo_PhilippeMalouin_Kasane_01.jpg
京都・銀閣寺の庭園にある砂の造形「向月台」がインスピレーション源だという。Photo by Masayuki Hayashi

「「装飾」という言葉には今でも少し抵抗がありますが、今回のコラボレーションでは、そのテーマと向き合わざるを得ませんでした。というのも、七宝は本質的に、装飾や表面と深く結びついた技法だからです。そこで私は、伝統的な模様づくりの方法ではなく、より直感的で、自分にとって自然な手法を選びました。フェルトペンで完全にランダムな線を引き、自分がデザインした素地の形に合わせて作った紙の表面に、その線を自由に描き重ねていったのです。その段階では、それは装飾というより、むしろ一つの所作や手の痕跡のように感じられました」

10_Owari Shippo x Philippe Malouin.jpg
左:安藤重幸⚫︎1972年、名古屋市生まれ。1880年創業の安藤七宝店を代々経営する安藤家の長男。 右:フィリップ・マルアン(Philippe Malouin)⚫︎イギリス系カナダ人デザイナー。2008年にスタジオを設立。オランダのデザインアカデミーアイントホーフェン卒業後、国立高等工業デザイン学校(フランス)やモントリオール大学でも学ぶ。Photo by Noritoshi Kuroki

彼が手で描いた一つずつ異なる模様をよく見ると、黒い釉薬の周辺は銀線に縁取られている。尾張七宝の精密な有線七宝の技術が使われているのだ。製作を担当した安藤七宝店の代表、安藤重幸は「いい意味で職人技術を惜しみなく無駄遣いした驚くべき作品」とコメントした。

『Chair in Japanese Nuki and Dami style, The Everyday at the Atelier (Standard / Child Scale)』瀬戸染付焼 × 寒川裕人(EUGENE STUDIO) 

マルアンの作品に続き、意外な作品を発表したのが、美術家のユージン・スタジオと瀬戸染付焼の窯元・眞窯の加藤真雪とのコラボレーションだ。

瀬戸染付焼は瀬戸焼の一種で、太い筆を用いて繊細な絵柄を描く工芸品だ。制作を担当した真窯では食器を作っているが、寒川が製作したのは椅子と茶器だった。耐久性の問題で実際に座ることはできないが、デザイナーではなくアーティストの彼が椅子を選んだことが意外だった。 

11_SetoSometsukeYaki_EugeneKangawa_Chair_01.jpg
右の椅子は一見すると均一な青色に見えるが、筆を使って1点ずつ「濃み(ダミ)」という技法で描かれている。Photo by Masayuki Hayashi

寒川は工房だけでなく周囲の環境も感じ取る中で、彫刻などではなく、寒川と加藤との日常の延長にあるようなものにしようと考えたそうだ。そこで寒川のアトリエで使っている椅子、加藤の研究生時代に作った茶器をモチーフにしたという。

「椅子に描かれているのは、窯元周辺に今生きている植物をスケッチして描いていただいたものです。よく見ると筆跡やグラデーションがしっかり残っており、窯の火の通りや色の濃淡によって、同じ青でもパーツごとに異なる表情を見せています。こうした異なる要素や手技の揺らぎを共存させることが、これまでの歴史と今後の未来をつなぐ上で非常に良い試みになるのではないかと考えました」

11_two-shot_Sometsuke Yaki x Eugene Kangawa, EUGENE STUDIO.jpg
左:寒川裕人(Eugene Kangawa)●美術家。1989年米国生まれ。光や時間、歴史などの抽象的な概念を、絵画や大型インスタレーションを通じて物理的に定着させる作風で知られる。 右:加藤真雪●染付窯屋 眞窯 4代目。1981年 愛知県瀬戸市の窯元・眞窯の長女に生まれる。多治見市陶磁器意匠研究所で陶磁器デザインを学んだ後、眞窯にて家業に従事。Photo by Noritoshi Kuroki

『Yamollo』伊賀くみひも × アタン・ツィカレ(Atang Tshikare)

南アフリカ出身のアタン・ツィカレは、 帯締めなどに使われる伊賀くみひもとコラボレーション。日本の伝統と有機的なアフリカンデザインが交差する、ユニークな照明を発表した。

12_IIgaKumihimo_AtangTshikare_Yamollo_01.jpg
糸伍で制作した組紐を重ねた照明。あかりを灯すと紐の隙間から光がこぼれる。Photo by Masayuki Hayashi

伊賀にある「だんじり会館」を訪れたアタンは、そこで見た「大御幣(だいごへい)」という、たくさんの紙が垂れ下がった道具が印象に残ったという。さらに日本の富士山をはじめとする山のイメージや、アタンの故郷である南アフリカで、暖炉や火を囲むような伝統的な風景の記憶など、多様な要素が重なり合ってコンセプトが形作られたという。制作を担当した糸伍の松田智行はこう語る。

「今回は7種類の異なる柄やグラデーションを用いて組み上げています。これだけの多様な柄やグラデーションが、本当に1つの作品としてまとまるのだろうかと最初は不安もありました。しかし、そこはさすがクリエイターの表現力であり、これほどまでに素晴らしい作品として完成したことを心から嬉しく、誇らしく思っています」 

12_Iga Kumihimo x Atang Tshikare.jpg
左:アタン・ツィカレ(Atang Tshikare) ●アーティスト、デザイナー。1980年南アフリカ・ブルームフォンテーン生まれ。ケープタウンを拠点に活動。ブロンズ、ウッド、石などの自然素材を巧みに操り、神話的な物語を宿した彫刻的な家具やアートピースで知られる。 右:松田智行(Tomoyuki Matsuda) ●糸伍 代表取締役。1975年三重県伊賀市生まれ。伊賀くみひもの老舗「糸伍」の4代目。Photo by Noritoshi Kuroki
---fadeinPager---

プロジェクトの進化と、次なる舞台「ロンドン」へ

吉本は、今回の東海エディションの成果をこう振り返る。「1回目の東北、2回目の東海を経て、我々タンジェントは大きく成長したと思います。単なる作品展示にとどまらず、その裏側にあるストーリーを含めた全体のコミュニケーションを、前回の東北に比べてかなり緻密に作り上げることができました」

20250604145920_L1092714 (1).jpg
美濃焼の工房にデザイナーのケオンと訪れた吉本。Photo by Noritoshi Kuroki

今回の九段ハウスでの展示では、デザイナーたちのスケッチや制作に使用する「型」などプロセスを見せるコーナーもつくった。これにより、人の手で作る伝統工芸で表現することの難しさへの理解も深まった。 一方で、前回から一貫している部分もあるという、それは、デザイナーたちの思考や言語と、職人の言語を“翻訳”することだという。

「外国人のデザイナーがほとんどでしたが、仮に彼らが日本語で会話をしていたとしても、言葉が指している対象や抽象・具体のレベルが噛み合っていなかったり、デザイナーのやりたいことと職人さんが技術的にできることの間に大きなギャップがあったりします。職人のみなさんがが得意なことや限界を把握した上で、それをただデザイナーに伝えて表現の幅を狭めさせたり、安易に妥協させたりしないようにするのも、僕らの役割です」

20250528160843_L1091306.jpg
安藤七宝店の工房を訪れたマルアンは、七宝の製作も見学した。Photo by Noritoshi Kuroki

世界へと発信するクラフトテック、今後の展開は?

東北、東海と続いてきたクラフトテックだが、今後はどの地域で行われるのだろうか?

「続けてきたおかげで、以前は直接話せなかったようなキーパーソンとも直接コミュニケーションが取れるようになりました。次はどの地域でやるのかはまだ未定です。「東北」「東海」と同じパッケージをそのまま第3弾、第4弾と繰り返すだけでなく、よりスケールの大きなコラボレーションも考えています」

九段ハウスでの展示を終えたクラフトテックは、次なる舞台へと羽ばたく。2026年9月、イギリス・ロンドンで開催される「ロンドンデザインフェスティバル」への参加と、イギリスのヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)での展示が決定している。

歴史あるV&A博物館という特別な空間で、日本の工芸と現代テクノロジーが紡ぐ新たな物語が、再び世界を魅了することになるだろう。

London Design Festival 2026 | Craft x Tech Tokai Project

開催期間:2026年9月12日(土)〜9月末   
開催場所:V&A South Kensington, Medieval & Renaissance, Room 64b, The Simon Sainsbury Gallery (Cromwell Road London, SW7 2RL)
開室時間:10時〜17時45分  ※18日のみ22時まで
無料
https://londondesignfestival.com/activities/craft-x-tech-tokai-project