【外国人が驚いた美濃和紙】イタリア×シンガポールの視点で見える新しい魅力【Craft x Tech Tokai Vol.1】

  • 写真:黒木紀寿 編集&文:井上倫子
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08_two-shot_Mino Washi x Lanzavecchia + Wai.jpg左:千田崇統●1983年岐阜県生まれ。2011年市原達雄に師事し美濃手漉き和紙の技術を学び、独立。原料の栽培も行い、伝統を活かしつつ表現の幅を広げている。warabipapercompany.com 中央、右:ランザヴェッキア+ワイ(Lanzavecchia + Wai)●イタリア出身のフランチェスカ・ランザヴェッキア(中央)とシンガポール出身のハン・ワイ(左)が2010年に設立したスタジオ。エルメスのディスプレイ、ザノッタの家具などで知られる。www.lanzavecchia-wai.com

全国各地の伝統工芸の産地と、世界で活躍するデザイナーやアーティストがタッグを組み、アート作品を発表するプロジェクト「クラフトテック(Craft x Tech)」。タンジェント(Tangent)の代表でデザイナーの吉本英樹がディレクションを手がけ、デザインキュレーターのマリア・クリスティーナ・ディデロがキュレーションを行い、2024年5月に東京・九段ハウスで第1弾となる東北プロジェクトが発表された。そして26年5月には第2弾となる東海プロジェクトが発表される予定だ。その東海プロジェクトの6つの産地を訪れたクリエイターたちの様子を、連載形式で紹介する。

 第1回目は、イタリア出身のフランチェスカ・ランザヴェッキアとシンガポール出身のハン・ワイが、美濃和紙の産地、岐阜県美濃市の紙漉き工房・ワラビーペーパーカンパニーを訪れた様子をレポート。 

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不思議な縁で結ばれた、ランザヴェッキア+ワイ

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2012年に自発的に開始した高齢者向け家具・アクセサリーのデザインプロジェクト「No Country for Old Men」。杖に机が付属する「Together Canes」など。ELLE DECOインターナショナルの「Young Design Talent of the Year」などを受賞した。 photo: Davide Farabegoli

オランダのデザイン・アカデミー・アイントホーフェンで出合い、イタリア人のランザヴェッキアはミラノで、シンガポール人のワイはシンガポールとふたつの拠点で活動を続けているふたり。ヨーロッパとアジアというふたつの視点を持つ彼らはビジネスパートナーであり、プライベートではそれぞれにパートナーがいるという。ワイは語る。

「僕らの誕生日は1日違い。今回、美濃を訪れた日がちょうど僕たちの誕生日で、千田さんたちに祝ってもらいました。お互いに双子座だからなのか、フランチェスカとは不思議と通じ合う部分があると思っています」

 ワイは言葉で考えるタイプ、ランザヴェッキアはそれを形にしていくタイプだと言う。クラフトテックのディレクターの吉本はこう語る。  

「彼らのデザインは、インダストリアルからアート、また小物から空間まで幅が広い。自分の主張を常に貫き通すというよりも、与えられたお題から、イタリアとシンガポールという二つの異なる視点を通じて、色々な世界を引き出すことが得意なクリエイターではないかという印象を持っています」

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シャルル・ド・ゴール空港のエルメスのディスプレイ。2023年ホリデーシーズンを彩った。photo: Charles Maze

今回、クラフトテックのプロジェクトでは有松・鳴海絞や瀬戸染付焼など6つの産地が参加している。「美濃和紙」は他の産地の工芸品に比べ、食器や浴衣などひとつのプロダクトではなく、照明、障子、お札などさまざまなものになりうる「素材」であることが大きな特徴だ。吉本は語る。

「美濃和紙は、長良川・板取川流域で受け継がれてきた手漉き和紙で、楮(こうぞ)などの天然繊維の素朴さと繊細な風合いが魅力。そのプリミティブな素材の可能性を広げられるのは、6組のデザイナーの中でも、イタリアとシンガポールというふたつの視点をもつ彼らが適していると思いました」  

美濃の自然が生み出す、和紙の可能性

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左:千田の工房で和紙制作を行ったランザヴェッキア。右:和紙の素材を撹拌する千田。工房のあるワラビーランドでは、宿泊しながら楮の畑から紙漉きの工程までを学ぶことができる。 

今回の滞在では、美濃和紙の歴史を学ぶ博物館を訪れたり、和紙職人の千田崇統の工房で自身も紙漉きを行った。普段はプラスチックなど材料のクオリティをコントロールしやすいものを扱うことが多いというランザヴェッキアは、和紙についてこう語る。  

「千田さんによって手で作られるこの和紙は、一つひとつ風合いが異なり、それがプロダクトの印象を左右するものになります。それは非常にチャレンジングで興味深いことでもあるんです」  

また、普段から和紙の照明を愛用し、和紙が作る魅力を日々の生活の中で感じているというハンは、こうコメント。  

「今回、美濃に滞在できたことは、自宅で毎日眺めている和紙の照明の原点に来ることができたようで、とても嬉しく思っています。和紙の照明は眺めるだけでリラックスでき、魅力を深く知っているつもりでしたが、壁や床材などにも使えることに驚きました。それに、土を混ぜることで色をつけたり模様を描いたりと様々な表現ができることも。表現の可能性は宇宙のように広がっていると思います」 

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左:千田の作品の障子。実は模様を描いたり色を付けることも可能だ。右:長良川の土を混ぜ着色し独特の模様を描いた。壁紙として利用。

日本に来日するのは2回目だという彼らだが、今回のように日本の風土をじっくりと学ぶ機会は初めてだったという。  

「今回の滞在では美濃の豊かな自然の静けさや、時間の蓄積をしっかりと知ることができました。また、和紙を作る上で水が非常に重要であること、長良川や雨とのつながりも感じていました」とランザヴェッキア。 

職人の千田は自ら和紙の原料となる楮(こうぞ)を育てるところから取り組んでおり、自然そのものを肌で感じ知って欲しいと語る。  

「和紙を作る上では水、火、そして土が大切なんです。当たり前のことですが、紙も野菜と同じで土からできているんですよね。そういった自然も含めたプロセスを伝えたかったんです」 

 来年発表する作品はどのようなものを目指しているのだろうか。ワイは語る。  

「まず、明かり(照明)と対話するようなものづくりを目指したいと思っています。土や草花を混ぜるなどのテクニックを知り、幅広い表現ができることを知ったので、千田さんと一緒に、空気や水、光などこの土地で感じたものを和紙で追求していけたら。そして、僕らがつくるプロダクトは人々に驚きや発見を与えるユニークなものになるでしょう。それをきっかけに、この美濃という土地にまで興味を持ってもらえるようなものにしたいですね」

クラフトテック(Craft x Tech)

https://craft-x-tech.com