【ウイスキー入門】「アードベッグ 10年」で理解する、アイラモルトのピートと味わい

  • 写真:野口花梨
  • 文:西田嘉孝
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スコッチウイスキーの聖地として知られるアイラ島。スコットランド西岸に連なるインナー・へブリディーズ諸島の最南端に位置する小さな島は、大麦やピート、そして豊かな水資源に恵まれ、古くから島民たちによるウイスキーづくりが行われてきた。

日本の淡路島ほどの大きさの島に、2025年12月現在、10の蒸留所が稼働する。そんな島でつくられるアイラモルト(アイラ島産モルトウイスキーの総称)の大きな特徴が、よく「薬品のような」とも表現されるピート香や、燻した煙を思わせるスモーキーなフレーバー。その特徴を最も体現するアイラモルトの代表格が「アードベッグ」だ。

島の住人だったジョン・マクドゥーガルが1815年に創業したアードベッグは、1980年代からのウイスキー不況下で2度の閉鎖を経験するも、1997年のグレンモーレンジィ社による買収をきっかけに復活。以降は、そのピーティで個性的な味わいが世界中で愛されるシングルモルトウイスキーとなり、“アードベギャン”と呼ばれる熱狂的なファンを増やし続けている。

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「アードベッグ 10年」の熟成にはアメリカンオークのバーボン樽を使用。ダンネージ式のウエアハウスでは他にも、様々な樽での熟成が行われる。
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蒸留所はアイラ島南岸の海沿い立つ。2025年には、アードベッグが運営するブティックホテル「アードベッグハウス」も蒸留所近くにオープンした。

そんなアードベッグのフラッグシップとなるのが「アードベッグ 10年」。同製品がリリースされた2000年は蒸留所の復活を象徴する年でもあり、この年にはいまや世界130カ国に広がるアードベッグ愛好家組織であるアードベッグコミッティーも発足。約18万人のファンが集うコミッティーはWebで登録ができる会員組織で、国別割合を見ると日本の会員が世界最多を占めるという。

口に含んだ瞬間に広がるピーティかつスモーキーな香味は、乾燥時にふんだんにピートを焚き込んだヘビリーピーテッド麦芽での仕込みによるもの。一方、スコットランドでも希少(アイラ島では唯一)な精溜器がスピリッツスチル(再溜器)に取り付けられているのもアードベッグの特徴。そうした精溜器の働きや伝統的な木桶での発酵などが、フルーティで繊細な酒質の素となっている。

テイスティングノート

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グレンモーレンジィと同様にビル・ラムズデン博士が最高蒸留・製造責任者を務め、数々の実験的な製品もリリース。アイラ島で毎年5月の最終週に行われるアイラ・フェスティバルに合わせて「アードベッグ・デー」も開催され、限定のアードベッグがお披露目されるなど、ファンの楽しみとなっている。

強烈なスモーキーさやピーティさと、その対極にある繊細な甘さとの調和がアードベッグの魅力。多くのウイスキーファンを虜にする、そんな“ピーティパラドックス”を、まずは「アードベッグ 10年」で体感してもらいたい。

アードベック

www.mhdkk.com/brands/ardbeg



Photograph by

野口花梨

1999年、大阪府生まれ。高校から写真を撮り始める。現在はポートレートをメインに、暮らしにまつわる自然風景や動物、料理など幅広いジャンルの撮影を行なっている。2022年3月に個展「あたたかい身体」をギャラリー千年にて、25年5月に個展「コーリーの導き」を229galleryにて開催。
Instagram:@nk_photo

連載「ウイスキーの肖像」

 

西田嘉孝

ウイスキージャーナリスト

ウイスキー専門誌『Whisky Galore』 やPenをはじめとするライフスタイル誌、ウェブメディアなどで執筆。2019年からスタートしたTWSC(東京ウイスキー&スピリッツコンペティション)では審査員も務める。

西田嘉孝

ウイスキージャーナリスト

ウイスキー専門誌『Whisky Galore』 やPenをはじめとするライフスタイル誌、ウェブメディアなどで執筆。2019年からスタートしたTWSC(東京ウイスキー&スピリッツコンペティション)では審査員も務める。