【ウイスキー入門】“はじまりのシングルモルト”はこの一本。これからの飲み手にお薦めしたい「ザ・グレンリベット12年」

  • 写真:野口花梨
  • 文:西田嘉孝
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現代のスコッチウイスキーに大きな影響を与えた18世紀初頭から1820年代までの密造時代。収税人の目を逃れ、ウイスキーをつくるのに理想的な条件が揃ったスペイサイドのリベット川沿いの谷には、200以上の密造者が集ったという。なかでも当時、ウイスキーづくりの名人として知られたのがジョージ・スミスだった。

「ザ・グレンリベット」は、稀代の密造者であり傑出したウイスキー職人だったジョージ・スミスが生み出したウイスキーだ。1824年にスぺイサイド地方リベット渓谷で初めての政府公認蒸留所、後にザ・グレンリベット蒸留所を創業したジョージ。他の密造者から命を狙われるほどの反発に遭いながらも、ジョージが下したこの勇気ある決断が、結果的に密造時代を終焉に向かわせる契機となった。

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リベット渓谷に立つザ・グレンリベット蒸留所。グレンリベットはスコットランドに伝わるゲール語で静かな谷を意味する。

その後はジョージがつくるウイスキーの品質や名声にあやかろうと、「グレンリベット」の名を冠した蒸溜所やウイスキーが横行。一時は「グレンリベット」の名が高品質なウイスキーの証のようにスコットランド中で使われたが、1880年から4年間を掛けて争われた裁判で、スミス家のグレンリベットのみに本物の証として定冠詞の「THE」を付けることが認められた。

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2018年には第三蒸留所が完成。現在の年間生産能力は2100万リットルで、同じスペイサイドのグレンフィディックと並びスコットランド最大規模を誇る。

スペイ川沿いに数多くの蒸留所がひしめき、現代ではスコッチのモルトウイスキーの一大生産地となったスペイサイド。同エリアでつくられるスペイサイドモルトに多く見られる特徴が、華やかでフルーティな香味とバランスに優れた味わい。

そんなスペイサイドモルトの美点を体現する一本として、数々リリースされるザ・グレンリベットの中でもまず試してもらいたのが「ザ・グレンリベット12年」だ。

テイスティングノート

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熟成にはアメリカンオークのバーボン樽をメインに、ヨーロピアンオーク樽も使用。香りでまず感じるのは熟したフルーツやフレッシュな草花、飲めばバニラやハチミツのような芳醇なスイートさが口の中に広がっていく。飲み口は驚くほどにスムースで、やわらかで少しビター感を伴う余韻も含め、味わいのバランスは秀逸だ。

比較的ボディがしっかりしているためロックやソーダ割りにしても味わいの骨格が崩れず、さまざまなスタイルで楽しめる。とはいえ、ウイスキー初心者にこそぜひストレートで味わってほしい、シングルモルトの美味しさと奥深さを教えてくれる一本だ。

ザ・グレンリベット 12年

www.theglenlivet.jp



Photograph by

野口花梨

1999年、大阪府生まれ。高校から写真を撮り始める。現在はポートレートをメインに、暮らしにまつわる自然風景や動物、料理など幅広いジャンルの撮影を行なっている。2022年3月に個展「あたたかい身体」をギャラリー千年にて、25年5月に個展「コーリーの導き」を229galleryにて開催。
Instagram:@nk_photo


Text by

西田嘉孝

ウイスキージャーナリスト。ウイスキー専門誌『Whisky Galore』 やPenをはじめとするライフスタイル誌、ウェブメディアなどで執筆。2019年からスタートしたTWSC(東京ウイスキー&スピリッツコンペティション)では審査員も務める。

連載「ウイスキーの肖像」