【ウイスキー入門】ジェムソン「シングルポットスチル」から、アイリッシュウイスキーの製法と味わいを知る

  • 写真:野口花梨
  • 文:西田嘉孝
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イギリス領である北アイルランドと、南のアイランド共和国でつくられるアイリッシュウイスキー。19世紀頃までは名実とともにスコッチを凌駕した“アイリッシュ”の特徴といえば、大型のポットスチルや伝統の3回蒸留などに由来する、軽やかな味わいと飲みやすさ。そんなアイリッシュのトップブランドとして、多くの人々に愛されているのが「ジェムソン」だ。

かつて世界のウイスキー産業の中心地として知られたアイルランドの首都ダブリンで、スコットランド移民のジョン・ジェムソンが蒸留業を開始したことがジェムソンのスタート。19世紀当時、「ダブリンのビッグ4」と呼ばれたボウ・ストリート蒸留所でつくられるジェムソンのウイスキーの品質は、すでに広く国外にも知られていたという。

しかし20世紀に入ると、アイルランドの独立運動や、最大の市場であったアメリカでの禁酒法施行などの影響を受け、アイリッシュウイスキーが大きく衰退。多くの蒸留所が閉鎖を余儀なくされ、アイルランドの蒸留所が北のブッシュミルズと南のミドルトンの2つに集約される中、ジェムソンの生産拠点はコーク州のミドルトン蒸留所に移された。現在は、同地の新ミドルトン蒸留所で生産されている。

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現在は見学ツアーが行われる旧ミドルトン蒸留所。ボウ・ストリート蒸留所の一部も現在はジェムソン博物館として公開されている。
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1975年に操業を開始した新ミドルトン蒸留所。複数の巨大なポットスチルとグレーンウイスキー用のコラムスチルを備えたアイリッシュ最大の蒸留所だ。

日本でも多くのパブやバーで出合える定番の「ジェムソン スタンダード」をはじめ、さまざまな種類があるが、奥深きアイリッシュ入門としてぜひ試してもらいたいのが「ジェムソン シングルポットスチル」だ。

「ジェムソンスタンダード」が、新ミドルトン蒸留所のグレーンウイスキーとポットスチルウイスキーを使ったブレンデッドウイスキーであるのに対し、「ジェムソン シングルポットスチル」は、その名の通り100パーセント“ポットスチルウイスキー”。もともとモルト(大麦麦芽)に対して課税される麦芽税への対抗策として生まれ、アイルランドで伝統的につくられてきたポットスチルウイスキーは、ポットスチルでの3回蒸留に加え、大麦麦芽だけでなく未発芽大麦なども原料に使うのが特徴だ。

テイスティングノート

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アイリッシュ伝統の製法を採用しながら、熟成には通常のジェムソンで使用するバーボン樽やシェリー樽の他、3種の新樽(アイリッシュオーク、ヨーロピアンオーク、アメリカンオーク)も使用する。「ジェムソン シングルポットスチル」に感じられるのは、フレッシュなフルーツからドライフルーツ、甘いファッジを思わせる濃厚な甘さや、心地よいスパイスとオークの余韻。

アイリッシュのポットスチルウイスキーに特有のオイリーさや複雑さ、そしてスムースでなめらかな飲み口も堪能できる、アイリッシュウイスキーの入門編としてはもちろん、上級編としても相応しい一本だ。

ジェムソン

www.jamesonwhiskey.com/ja-jp/



Photograph by

野口花梨

1999年、大阪府生まれ。高校から写真を撮り始める。現在はポートレートをメインに、暮らしにまつわる自然風景や動物、料理など幅広いジャンルの撮影を行なっている。2022年3月に個展「あたたかい身体」をギャラリー千年にて、25年5月に個展「コーリーの導き」を229galleryにて開催。
Instagram:@nk_photo

連載「ウイスキーの肖像」

 

西田嘉孝

ウイスキージャーナリスト

ウイスキー専門誌『Whisky Galore』 やPenをはじめとするライフスタイル誌、ウェブメディアなどで執筆。2019年からスタートしたTWSC(東京ウイスキー&スピリッツコンペティション)では審査員も務める。

西田嘉孝

ウイスキージャーナリスト

ウイスキー専門誌『Whisky Galore』 やPenをはじめとするライフスタイル誌、ウェブメディアなどで執筆。2019年からスタートしたTWSC(東京ウイスキー&スピリッツコンペティション)では審査員も務める。