イギリス領である北アイルランドと、南のアイランド共和国でつくられるアイリッシュウイスキー。19世紀頃までは名実とともにスコッチを凌駕した“アイリッシュ”の特徴といえば、大型のポットスチルや伝統の3回蒸留などに由来する、軽やかな味わいと飲みやすさ。そんなアイリッシュのトップブランドとして、多くの人々に愛されているのが「ジェムソン」だ。
かつて世界のウイスキー産業の中心地として知られたアイルランドの首都ダブリンで、スコットランド移民のジョン・ジェムソンが蒸留業を開始したことがジェムソンのスタート。19世紀当時、「ダブリンのビッグ4」と呼ばれたボウ・ストリート蒸留所でつくられるジェムソンのウイスキーの品質は、すでに広く国外にも知られていたという。
しかし20世紀に入ると、アイルランドの独立運動や、最大の市場であったアメリカでの禁酒法施行などの影響を受け、アイリッシュウイスキーが大きく衰退。多くの蒸留所が閉鎖を余儀なくされ、アイルランドの蒸留所が北のブッシュミルズと南のミドルトンの2つに集約される中、ジェムソンの生産拠点はコーク州のミドルトン蒸留所に移された。現在は、同地の新ミドルトン蒸留所で生産されている。
日本でも多くのパブやバーで出合える定番の「ジェムソン スタンダード」をはじめ、さまざまな種類があるが、奥深きアイリッシュ入門としてぜひ試してもらいたいのが「ジェムソン シングルポットスチル」だ。
「ジェムソンスタンダード」が、新ミドルトン蒸留所のグレーンウイスキーとポットスチルウイスキーを使ったブレンデッドウイスキーであるのに対し、「ジェムソン シングルポットスチル」は、その名の通り100パーセント“ポットスチルウイスキー”。もともとモルト(大麦麦芽)に対して課税される麦芽税への対抗策として生まれ、アイルランドで伝統的につくられてきたポットスチルウイスキーは、ポットスチルでの3回蒸留に加え、大麦麦芽だけでなく未発芽大麦なども原料に使うのが特徴だ。
テイスティングノート

アイリッシュ伝統の製法を採用しながら、熟成には通常のジェムソンで使用するバーボン樽やシェリー樽の他、3種の新樽(アイリッシュオーク、ヨーロピアンオーク、アメリカンオーク)も使用する。「ジェムソン シングルポットスチル」に感じられるのは、フレッシュなフルーツからドライフルーツ、甘いファッジを思わせる濃厚な甘さや、心地よいスパイスとオークの余韻。
アイリッシュのポットスチルウイスキーに特有のオイリーさや複雑さ、そしてスムースでなめらかな飲み口も堪能できる、アイリッシュウイスキーの入門編としてはもちろん、上級編としても相応しい一本だ。
ジェムソン
Photograph by
野口花梨
1999年、大阪府生まれ。高校から写真を撮り始める。現在はポートレートをメインに、暮らしにまつわる自然風景や動物、料理など幅広いジャンルの撮影を行なっている。2022年3月に個展「あたたかい身体」をギャラリー千年にて、25年5月に個展「コーリーの導き」を229galleryにて開催。
Instagram:@nk_photo


