文字盤も針も持たず、ムーブメント自体が回転して時を示すという大胆な構造で知られるユリス・ナルダンの「フリーク S」に、鮮やかなブルーと深みのあるレッドのエナメルモデルが加わった。いずれも世界限定50本。技術と工芸がひとつに結びついた、メゾンの革新精神を象徴する新作である。
2001年に初代「フリーク」が発表された時、時計界は大きな衝撃に包まれた。リューズさえ排した構造の中で、回転するムーブメントが時間を刻むという発想は、それまでの常識を根底から覆したのである。ユリス・ナルダンはその精神を継承し、以降も挑戦を続けてきた。その到達点のひとつが、ふたつの傾斜したシリコン製テンプと世界最小の垂直ディファレンシャルを組み込んだ「フリーク S」だ。特許取得のグラインダー自動巻き機構を備え、効率的なエネルギー伝達を実現するなど、技術の粋を凝縮した“究極のタイムオンリーウォッチ”に仕上がっている。
ムーブメントには「キャリバーUN-251」を搭載。20度の角度で配置されたふたつのテンプを支える373個の部品が、複雑な機構を緻密に構成している。72時間のパワーリザーブを確保し、高精度と信頼性を長期にわたって維持できる点も特筆に値する。
今回の新作では、スイス最古のエナメル工房「ドンツェ・カドラン」が製作を担当した。ギヨシェ・フランケ技法による18Kホワイトゴールド製アワーディスクに、ブルーとレッドのエナメルを幾層にも焼き付けることで、光の角度によって異なる表情を見せる、深みのある色彩を生み出している。しかも、このアワーディスクはムーブメントの一部として常に回転しており、そのような働きを持つパーツにエナメル加工を施すには、極めて高い精度と根気が求められる。焼成と研磨を何度も繰り返すプロセスは、まさに科学と芸術の融合といえるだろう。
ケースには軽量で耐久性に優れたチタンを採用。ブルーエナメルにはアンスラサイトのラバーストラップ、レッドエナメルにはホワイトのラバーストラップを合わせ、先進性と洗練を両立させている。その姿は、ハイテク素材とクラフトマンシップが調和する現代のオートオルロジュリーの理想像を体現しているようだ。
構造の95%が“動き”のために設計されたこの腕時計は、まるで生命を宿すかのように鼓動し続ける。革新と伝統、技術と美。その両極を自在に往来しながら、「フリーク S エナメル」はユリス・ナルダンが掲げる“腕時計製造の自由”という理念を、かつてない深度で体現している。
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