極限への挑戦は、時に「なにかを加える」のではなく「なにかを取り去る」ことから始まる。スイスの独立系時計マニュファクチュールであるユリス・ナルダンがWatches & Wonders 2025において発表した「ダイバー エアー」は、まさにその哲学を体現している。総重量52g以下という信じがたい軽さを実現したこの機械式ダイバーズウォッチは、時計内部の80%を「空気」が占める革新的設計で、常識の壁を打ち破った。

「可能なことは、もちろん実現する。不可能なことも、必ず成し遂げるだろう」
この言葉は1876年に残されたポール=ダヴィッド・ナルダンの言葉だが、約150年後の現代においても、その精神は脈々と受け継がれている。「ダイバー エアー」は2021年発表の「ダイバー X スケルトン」の半分以下という驚異的な軽量化を実現。新キャリバー「UN-374」は、スケルトン構造の空間に三角形の強固なフレーム構造を採用することで、5000Gという強烈な衝撃にも耐える堅牢性を獲得している。
単に軽いだけではない。約90時間のパワーリザーブを誇るフライングバレル、200メートルの防水性能、そして交換可能な超軽量ファブリックストラップ(オレンジとホワイトの2本付属)といった実用性も兼ね備える。まさに「ハイホロロジー」「ハイテクノロジー」「ハイパフォーマンス」の三位一体を実現した傑作だ。
「ダイバー エアー」の真の革新性は、その構造設計だけにとどまらない。ユリス・ナルダンはこの時計において、かつてない規模でサステイナブル素材を導入している。ミドルケースとムーブメントブリッジには90%リサイクルチタン、サイドパーツにはリサイクル漁網とアップサイクルカーボンファイバーの混合素材、発光ベゼルインサートにはセーリングボートから回収されたカーボンファイバーを100%アップサイクルした「CarbonFoil」を採用。脱進機にはアップサイクルされたシリコンウェハーを使用するなど、時計製造における循環型エコシステムの可能性を広げている。
これらの素材は、各分野のエキスパート企業と連携して開発された。ユリス・ナルダンは素材サプライヤーに頼るだけでなく、革新的な素材開発のパートナーシップを構築することで、時計産業全体に新たな風を吹き込んでいるのだ。
"機械式時計はもはや革新の余地がない"——そう考える向きもあるだろう。しかしユリス・ナルダンは、「限界に挑戦することがDNAの一部」と宣言し、時計製造の新たな地平を切り拓き続けている。44㎜のケース径でわずか46gという時計本体の軽さは、装着した瞬間に「これまでの常識」が覆される体験をもたらす。この革新的タイムピースは空気のように軽いが、その存在感は決して軽くはない。
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