すぐ解雇されるのは本当か? Netflixが大成功した理由がわかる、ド...

すぐ解雇されるのは本当か? Netflixが大成功した理由がわかる、ドキュメンタリー映画とビジネス書。

すぐ解雇されるのは本当か? Netflixが大成功した理由がわかる、ドキュメンタリー映画とビジネス書。

映画『NETFLIX/世界征服の野望』 は2020年12月11日(金)よりヒューマントラストシネマほかで公開。© NotApollo13, LLC. 2018

いまや世界190カ国以上でサービスを展開し、日本国内の会員数も500万人を超える、動画配信サービスのNetflix(ネットフリックス)。その成功の秘密を知ることのできる2つの作品がある。

まず観てほしいのは、2020年12月11日公開の映画『NETFLIX/世界征服の野望』 だ。2019年に出版された本『NETFLIX コンテンツ帝国の野望 ―GAFAを超える最強IT企業―』の著者ジーナ・キーティングが脚本を執筆し、Netflixの現役社員も含む関係者たちのインタビュー映像を通して、同社の創業から現在に至るまでを追ったドキュメンタリーだ。

NetflixがもともとオンラインでのDVDレンタルのサービスからスタートした会社だということはご存じの方も多いかもしれないが、そこからどのように時代の流れを読みながら動画配信事業へとピボットし、成功していったかがドラスティックに描かれる。

筆者は試写にて一足早く拝見したのだが、Netflixという会社の歴史がこれ以上ないというほどにわかりやすくまとまっていたし、Netflixの共同創業者や社員たちが当時のことをイキイキと語る姿からは、なぜだか元気がもらえた。また、レンタビデオ事業時代のライバル会社だった今はなき「ブロックバスター」の元経営陣や、フランチャイズ経営者たちのインタビュー映像も、現在のNetflixとの対比として味わい深い。

しかしこの映画、1つだけ気になるのは、Netflixの共同創業者であり今もなおCEOを務めているリード・ヘイスティングスが登場しないこと。過去のニュース映像などは差し込まれるが、直接のインタビューは取れてないようで、その点がどうしても”主役不在感”を感じてしまう。(キービジュアルの男性は共同創業者のマーク・ランドルフで、現在は退社している)。

すぐ解雇されるのは本当か? Netflixが大成功した理由がわかる、ドキュメンタリー映画とビジネス書。

Netflixの共同創業者で初代CEOのマーク・ランドルフ。IPO(新規株式公開)後の2003年に同社を去った。© NotApollo13, LLC. 2018

そう感じた人は、今年10月に発売された『NO RULES(ノー・ルールズ)世界一「自由」な会社』(日本経済新聞出版)を読んでみてほしい。この本は、Netflixについて書かれたビジネス書は数多くあれど、CEO本人が大部分の執筆に関わっているおそらくほぼ唯一の本なのではないだろうか。

こちらも前述の映画と同じくNetflixの成功の秘密に迫る…といった方向性ではあるのだが、主に書かれているのはNetflixの「社内カルチャー」について。最高の人材たちが最高のパフォーマンスを発揮するために、Netflixが現在に至るまで試行錯誤の上につくりあげてきたカルチャーとはどのようなものなのか? ずばり「最強軍団」をつくりあげる方法を丁寧に解説しているのである。

すぐ解雇されるのは本当か? Netflixが大成功した理由がわかる、ドキュメンタリー映画とビジネス書。

『NO RULES(ノー・ルールズ)世界一「自由」な会社』の執筆には会長兼CEOのリード・ヘイスティングスのほか、ビジネススクールのINSEAD(インシアード)教授であるエリン・メイヤーが参加している。

一部本の中身に紹介をすると、まず「ノールール」というタイトルの通り、Neflixには普通の会社にあるような社内制度がほとんどない。たとえば、

・出張規定
・経費規定
・休暇規定

一見すると、これでうまくいくのか?と思うし、休暇規定がないということについては、超ブラック企業なのでは?と思ってしまう。

それでもうまくいくのは、Netflixには「フリーダム&レスポンシビリティ(自由と責任)」のカルチャーが根付いているからだ。組織の承認プロセスは一切なく、あるのは「Netflixの利益を最大化する」という使命だけ。そのためにはどうすることが最適なのかを各自が考えて動けば、ルールなど必要ないという考え方だ。

あらゆる意思決定に関しても同様で、通常の会社なら何人もの上司や管理職のハンコが必要な大プロジェクトも現場レベルで進めることができる。上司には「コントロールではなくコンテキストによるリーダーシップ」を徹底させ、部下には「上司を喜ばせようとするな」という指針を与える。一切のコントロールを廃止することで、メンバーに「自由と責任」のカルチャーが根づき、スピード感を持ったイノベーションを実現することができるのだ。

また、Netflixの特異なカルチャーとして紹介されているのが「フィードバック・サイクル」。Netflixは、社員同士の率直なフィードバックを奨励している。同僚、上司、部下など関係なく、いつだって相手に対して面と向かって、「もっとこうしたほうがいい」「あの時のあの行動はするべきではなかった」など、感じたことを率直に伝えるのだ。そうすることがNetflixの成長につながるから。

いやいや、そんなの絶対に険悪になるじゃん! と思ってしまうが、いかにしてそうならずに社員同士がフィードバックし合えるカルチャーを醸成してきたのかについて、詳しく解説されている。率直なコミュニケーションをとるイメージのあるアメリカ人ならまだしも、日本人には絶対に無理なのでは? という疑問にも、この本の中でしっかり答えてくれている。世界中にオフィスを置くNetflixにおいて、“極端な例”として日本が紹介されていて面白い。

また、Netflixは非常に優秀な人材が集まり、給与も業界最高水準として知られているのだが、その分最高レベルのパフォーマンスが求められる。「ほかの会社と違ってわれわれは並の成果には十分な退職金を払う」というギョッとする方針があるほどだ(Netflixでは最低でも4ヶ月分の退職金が支払われる)。

Netflixのマネジメント層は、「キーパーテスト」と呼ばれる手法を使い、常々自問自答しなければいけない。「Netflixを退社して同業他社の同じような仕事に転職する」と言ってきたら引き留めるのはどの部下か?「引き留めない」と思ったのであれば、容赦なく退職を言い渡す義務が上司にはある、ということ。

なかなか厳しい世界だなーと思うが、「Netflixはいわばプロスポーツチーム」である、という説明には非常に納得をした。プロスポーツチームでは結果が出なければ解雇されることは当然だし、活躍すれば多大な収入が得られる。最高レベルの試合で勝利することよりも雇用の安定を求める人には向いていないが、それでも勝てるチームに所属することに価値を置く人には、Netflixは最高の環境だと言えるのかもしれない。

※こう書くとそんなにすぐクビになるのか?と思うだろうが、実際Netflixの年間離職率は11〜12%で、業界水準とほぼ変わらないらしい。

普段とても楽しく利用しているNetflixだが、他のサービスと比べても頭ひとつ抜けている理由が今回紹介した映画や本を読んで分かった気がする。そういえばつい最近、俳優のエレン・ペイジがトランスジェンダーであることを公表し、「エリオット・ペイジ」に改名するという出来事があったのだが、その日のうちにNetflixにあるペイジの全出演作品のクレジットが改名後の名前に置き換わっていたという。そうした対応の早さもさすがだ。

といった感じで、もしNetflixという会社自体に興味のあれば、まず映画を観てNetflixの歴史を知り、創業者兼CEO自らが執筆した本を読んでさらに理解を深める、という順番をおすすめしたい。(編集YSK)


【関連記事】
音楽の聴き方を変えた企業、スポティファイの実態に迫る。
動画配信サービスの覇者“ネトフリ”が、 成功をもぎ取った戦略のすべて。