いま注目すべき腕時計をデザインの視点から切る、雑誌『Pen』で好評連載中の「並木教授の腕時計デザイン講義」。今回のテーマは「ゴールドケース×顔付きのムーンフェイズ」。遊び心と風格が宿る“ムーンフェイズ付きのドレスウォッチ”に注目!

腕時計のムーンフェイズは、特別な存在だ。多くはゴールド製の輝く月は、複雑機構でありながらグラフィカルな要素のほうが際立っている。しばしば「ムーンフェイス」と誤記されるのは、満月上に顔を描いた印象が強いからだろう。正しい英語である「フルムーンフェイス」は、ブランドごとに趣向を凝らされ、表情も異なるのが楽しい。18世紀のパリで活躍した天才時計師アブラアンールイ・ブレゲは、ムーンフェイズを駆使した。フランス語ではフェイズとフェイスはまったくの別語だが、顧客にはイギリス国王もいた彼は、英語の偶然が産んだウィットにも気づいていたはずだ。
なぜ月に顔が描かれるのかは、古代から神格化されてきたことにもゆえんがあるだろう。ギリシャ神話やローマ神話でも擬人格を付与されてきたが、月の模様も文化によって異なる解釈を生み、ムーンフェイズの意匠に影響を与えてきた。日本人は餅をつくウサギを見るが、アメリカでは本当に〝人の顔〟を見る人が多い。
ゴールドケースにローマンインデックスを添えたドレスウォッチは、優美な大人の風格を醸し出す一方で、懐中時計時代からのクラシックの王道をいくだけに〝マジメ〟に見えすぎてしまうことも。そこで大人の遊び心を加える隠し味がムーンフェイズの顔だ。
現代のムーンフェイズではプリント、レーザー加工、手彫りと表現技法も実に豊かだ。文化的アイコンである月が上質なゴールドケースと出合う時、魅力はいっそう深まって見えるだろう。
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1.BREGUET(ブレゲ)
クラシック 7235
多様な表示要素をアシメトリーに配置する、ブレゲ独特のエキセントリック・ダイヤルのムーンフェイズ搭載モデル。18世紀の創業者の時代からムーンフェイズはブレゲのお家芸であり、さまざまな表情を生み出してきた。新開発素材のブレゲゴールドにギョーシェを施した文字盤から、はっきりとした目鼻立ちのフルムーンフェイスがのぞく。
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2.BLANCPAIN(ブランパン)
ヴィルレ コンプリートカレンダー
2025年に刷新されたドレスウォッチコレクション「ヴィルレ」を象徴する、コンプリートカレンダーモデル。星々をバックに流し目を送る18Kゴールドのフルムーンフェイスは、サテンの地にポリッシュで輪郭線を走らせて描いた。ブランパンのムーンフェイズとひと目でわかる魅惑のキャラクターだ。レッドゴールドにブラウンの組み合わせが優雅な印象を醸す。
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3.NAOYA HIDA & CO.(ナオヤ ヒダ&コー)
NH TYPE 3B-3
ブルーの鉱石の中に露出している含有鉱物を銀河に見立てた、ラピスラズリ製ムーンディスクが背景に浮かぶユニークなフルムーンフェイスは、すべてイエローゴールドに手彫りしたもの。熟練の彫金職人を社内に擁するブランドの個性とアドバンテージが光る。11個のローマンインデックスも同じく手彫りで、細部にまで職人技が宿る。2025〜26年に5本程度を生産予定。

並木浩一
桐蔭横浜大学教授/時計ジャーナリスト
1961年、神奈川県生まれ。1990年代より、バーゼルワールドやジュネーブサロンをはじめ、国内外で時計の取材を続ける。雑誌編集長や編集委員など歴任し、2012年より桐蔭横浜大学の教授に。ギャラクシー賞選奨委員、GPHG(ジュネーブ時計グランプリ)アカデミー会員。著書に『ロレックスが買えない。』など多数。



