いま注目すべき腕時計をデザインの視点から切る、雑誌『Pen』で好評連載中の「並木教授の腕時計デザイン講義」。今回のテーマは「カラーダイヤル×スモールセコンド」。伝統を守りながら更新する“新時代のドレスウォッチ”に注目!

スモールセコンドは、ドレスウォッチの王道を象徴する意匠だ。懐中時計の時代から続く伝統的な構図であり、センターセコンドが一般化する以前のスタンダードであった。長らく姿を消していた時期もあったが、クラシック回帰の潮流のなかで、再び存在感を強めてきた。6時位置に配された小秒針表示は、文字盤全体に静謐なバランスをもたらす、ドレスウォッチの決定的アイコンといえる。
そのスモールセコンドが近年、思いがけない変化を遂げつつある。カラーダイヤルとの出合いが、その佇まいに新しい奥行きを与えているのだ。最初はブルーから広がった静かなトレンドは、グリーン、サーモン、サンドベージュなどへと彩りを増し、長らくホワイトやシルバーが常識とされてきたドレスウォッチのコードを着実に更新しているのである。
興味深いのは、色彩の強さを受け止める上で、スモールセコンドという古典的構図との相性が実によいことだ。センターセコンドの長い針がダイヤル全体を動き回らないため、視覚的な安定が保たれる。さらに小秒針のスペースが文字盤の余白を分節し、ほどよい緊張感と落ち着きを同時に生み出す。鮮やかな色彩も品よく受け止め、全体に調和と均衡を与えるのは、このレイアウトゆえだろう。
歴史あるコレクションにおいても、カラーダイヤルを纏ったスモールセコンドは、過去を引用しながら未来を映す存在だ。それは、「伝統の更新」を最前線で牽引する、〝新時代のドレスウォッチ〟とも言えるだろう。
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1.PARMIGIANI FLEURIER(パルミジャーニ・フルリエ)
トリック プティ・セコンド
絶妙なテクスチャーを見せるマットダイヤルは、時計師ミシェル・パルミジャーニが復活させた17世紀の技法を用い、ソリッドゴールドに手作業でグレイン加工を施したもの。一段窪ませたスモールセコンドには彫り込みのインデックスを配した。砂丘を意味する「デューン」カラーの文字盤は、ル・コルビュジエの建築的多彩主義に影響を受けている。
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2.JAEGER-LECOULTRE(ジャガー・ルクルト)
レベルソ・トリビュート・モノフェイス・スモールセコンド
奥深いグリーンのダイヤルはサンレイブラッシュ仕上げで、静かな洗練さを湛える。1931年誕生の初代「レベルソ」をリファインしたモデルで、ヒストリックなスモールセコンドの採用はその文脈から必然だ。大胆なカラーダイヤルもまた、初期モデルの仕様を踏襲したもの。ホワイトやシルバーが一般的だった時代に、「レベルソ」は鮮やかなカラーをいち早く取り入れた先駆者でもある。
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3.IWC SCHAFFHAUSEN(アイ・ダブリュー・シー シャフハウゼン)
ポルトギーゼ・オートマティック 40
サンバースト仕上げを施した印象的なダイヤルカラーは、空と海が溶け合う水平線を思わせる「ホライゾンブルー」。ロジウムメッキの針とアプライドインデックスが引き締め役となり、上品な調和を生む。スモールセコンドは細かな同心円が連続するアズラージュ仕上げで、青の色彩に奥行きを添える。ストラップは、イタリアのハンドメイドシューズの名門サントーニ社製。

並木浩一(桐蔭横浜大学教授/時計ジャーナリスト)
1961年、神奈川県生まれ。1990年代より、バーゼルワールドやジュネーブサロンをはじめ、国内外で時計の取材を続ける。雑誌編集長や編集委員など歴任し、2012年より桐蔭横浜大学の教授に。ギャラクシー賞選奨委員、GPHG(ジュネーブ時計グランプリ)アカデミー会員。著書に『ロレックスが買えない。』など多数。



