スイスの高級時計メゾン、ジャガー・ルクルトが、才能の裏側に隠された瞬間を探求する新たなプログラム「The Hour Before」を始動した。これは映画、スポーツ、音楽など、さまざまな分野で活躍するアーティストたちに焦点を当てた短編ドキュメンタリーシリーズだ。
人生を変えるようなキャスティングへの期待、幕が上がる前の静寂、記録を破る前の孤独なトレーニング、曲を生み出す創造的なひらめき。このシリーズが捉えるのは、目に見えず、祝福されることもないが、才能が試され、選択がなされ、創造性に火がつく瞬間だ。誰も知らない時間の中で、献身が静かに運命をかたちづくっていく——その過程をありのままに映し出していく。
第1回目のゲストは、映画『スーパーマン』でレックス・ルーサー役を演じ、大きな話題を呼んだ英国俳優、ニコラス・ホルト。彼は、ジャガー・ルクルトのグローバル・アンバサダーとしても活躍している。
「静けさ」が生み出す創造の瞬間

ホルトにとって、「The Hour Before」とはなにを意味するのか。
「僕にとっては“静けさ”です。頭の中でイメージを反芻しながら、心と身体を落ち着かせていく時間。必要以上に考えすぎないようにして、ただその瞬間に存在できるよう整えることですね」
演技は“いまここにいること”がなにより大事だという彼にとって、この準備の時間は欠かせない。大事なシーンに臨む際の心境について尋ねると、こう答えた。
「大事なシーンは、アスリートが100m決勝に挑む瞬間に近いですね。緊張もあるけれど、それは“ちゃんと届けたい”という気持ちの裏返し。準備と集中のバランスを整えることで、ようやく“いまこの瞬間”に入っていける」

「DCユニバース」の第1作目として大きな話題となった2025年の映画『スーパーマン』で、主人公クランク・ケント(スーパーマン)の宿敵であるレックス・ルーサー役を演じたホルト。出演したことによる反響を次のように語った。
「今回演じたレックス・ルーサーに、こんなに温かい反応をいただけたことが本当に嬉しいです。ジェームズ・ガンの脚本は素晴らしく、彼のもとで演じること自体がとても刺激的でした。レックスというキャラクターは、強烈な執着心と憎悪を抱えながら、その裏に「なぜ彼はそうなったのか」という歪んだ理屈がある。その複雑さが、多くの方に響いたのではないかと思います。来年撮影される『Man of Tomorrow』で再び彼を演じられることを楽しみにしています。1作目の準備やリサーチで見えてきた“未開拓の部分”がまだたくさんあるので、早く彼の世界に戻りたいですね」
劇中でのスキンヘッドも大きな注目を集めた。
「息子が僕の髪をバリカンで刈ってくれたあの動画が話題になりましたが(笑)、きっと数カ月後にはまた同じことをしてもらうことになるでしょう。役作りで外見を大きく変えると、周囲の反応が一気に変わるので、こちらの気持ちも自然とキャラクターに寄っていくんです。さらに今回は、レックスの“圧倒的な競争心”や“自分はアルファでありたい”という欲求を体現したくて、かなり鍛え込みました。スーパーマンには敵わないと知りながらも、人間の限界まで自分を追い込む——彼ならそうするはずだと感じたからです」
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子役から青年へ、役者としての転機となった作品とは?

子役からこの業界に入って活動していたホルトだが、自身が考えるキャリアの転機は2007年〜08年に放送されたテレビドラマ『Skins』だったという。
「当時16〜17歳で、初めて“大人の世界に足を踏み入れる役”でした。また、その作品がトム・フォード監督の『シングルマン』につながり、“ヤングアダルト期”のキャリアが一気に開けました。脚本が届いた時は、てっきりシド役だと思っていたので、トニーという狡猾で少し陰のあるキャラクターを求められたのは衝撃で。でもその挑戦が、自分の幅を広げるきっかけになりました。いつから役者が人生の中心になると気づいたのか? それは、はっきりとは覚えていません。ただ、3〜4歳の頃、兄が舞台でマーリンを演じていた姿を見た時、『人はまったく違う存在になれるんだ』という魔法のような感覚があったのは覚えています。その瞬間、心のどこかでスイッチが入ったような気がします」
役を演じ分ける俳優として多忙の日々を送る一方で、俯瞰した視点の重要性も説く。
「人生そのものが変化の連続ですよね。旅先、人との出会い、役を通じて得る経験——すべてが自分をアップデートしてくれます。子役として育った僕は、とても健全で普通の学校生活を送っていた一方で、大人の世界で仕事をするのは不思議な体験でもありました。その切り替えには時間が必要だったし、どこか“部外者の視点”を持ちながら生きてきたように思います。いまでもパーティーに行くと「自分はここにいるべきなのかな」と感じることがあります(笑)。そういう感覚が、役づくりにも生かされているのかもしれません」

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腕時計は舞台へ向かう“最後のピース”

『レンフィールド』『ノスフェラトゥ』など、身体的な変化が求められる役では、準備の段階から深い集中が始まる。
「肉体をつくり込む過程が、同時に精神的な集中や瞑想のような時間になっていくんですね。そうやって積み重ねた“細部”が、最終的に大きなブレイクスルーを生む瞬間につながっている気がします」
ジャガー・ルクルトとのパートナーシップについて、役者として「細部へのこだわり」「構造」という共通点をホルトは挙げる。
「ジャガー・ルクルトの“発明性”と“精密さへのこだわり”には、役者として強く共鳴します。僕もキャラクターに新しい解釈を加えたり、まだ誰も見たことのない表現を探したり、細部への探求から創造性が生まれると思っているので、とても自然なつながりを感じました。演技では直感を大切にしています。でも、思うようにいかない時は“構造”が助けになる。時計も同じで、直感的に美しいと感じたものが、構造を知ることでさらに深い魅力に変わる。ジャガー・ルクルトの時計はまさにそうですね」
ジャガー・ルクルトのアンバサダーとして同社の時計を多数保有するホルトだが、メゾンを象徴する一本は「レベルソ・トリビュート・クロノグラフ」だという。
「自分のコレクションの中では、『レベルソ・トリビュート・クロノグラフ』がその象徴ですね。クラシックな『レベルソ』の美しさと、緻密なクロノグラフ機構の革新性。そのバランスが本当に完璧だと感じています。時計は“自分がなにを大切にしているか”を表すものだと思っています。もちろんデザインの美しさもありますが、より根源的な部分——価値観や物語——を表現してくれる存在ですね」

撮影現場での時計の役割について、ホルトはこう振り返る。
「衣装に身を包んだあと、最後に時計を手渡される瞬間がありました。それはまるで“最後のピース”。時計をつけた瞬間、完全にレックス・ルーサーとして立ち上がり、セットへ向かう準備が整うんです」
ウォッチメイキングと同様に、映画においても、卓越性は情熱と忍耐、そして絶えず完璧を追い求める姿勢から生まれる。ジャガー・ルクルトの「The Hour Before」は、そうした献身の瞬間に光を当て、インスピレーションを届けることを目指したプログラム。第2弾にもぜひ注目したい。

ジャガー・ルクルト
TEL:TEL:0120-79-1833
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