1925年のパリ万博から今年で100年。“アールデコ博”とも言われたこのパリ万博は、アールデコ躍進のきっかけとなり、腕時計の造形にも大きな影響を与え、多くの名作を生み出してきた。そのDNAは世紀を超えていまも息づく。今回はジャガー・ルクルトの「レベルソ」を見ていこう。
2025年は腕時計の“名作”が改めてフォーカスされた1年であった。そして、名作と呼ばれる腕時計には、一つひとつの物語がある。時代を超えて受け継がれる100本の腕時計、その“物語”を読み解いていこう。
『未来へ受け継ぐ 名作腕時計、100の物語』
Pen 2025年12月号
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直線の美が昇華した、モダン様式の到達点
腕時計のアールデコの成熟期、1931年に誕生した傑作がジャガー・ルクルトの「レベルソ」である。
モダンデザインの重厚な底流が透ける角形シルエットは、現代でもまったく色褪せることのないアールデコの痕跡だ。ケース外郭の輪郭線からガラス縁、ダイヤル上のレイルウェイミニッツトラックに至るまで、直交線と平行線が幾度も繰り返されている。その幾何学的構成こそが「デザイン」であり、ケース上下に刻まれた3本の直線が「装飾(ゴドロン)」であることを示し、世間にそれを認めさせた。しかも「レベルソ」は腕時計の機械部分をそっくり反転して、裏返しにすることができる。
ポロ競技中に着けたままでいるという着想は、機能主義と芸術的感性の両方を満足させる、まさにアールデコだ。古びることなく、今日でもさまざまなバリエーションを拡大するコレクションの背骨には、不朽のアールデコ精神が生きている。
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「レベルソ・クラシック モノフェイス」
初代のデザインコードを継ぐケース上下のゴドロン装飾様式、レイルウェイミニッツトラック、ツートーン仕上げのダイヤル、バトン針。初期からさまざまなダイヤルがつくられたが、そのクラシックなスタイルを現代に継承するモデル。ケース反転時に現れる台座内部にはペルラージュ仕上げを施すなど、反転時計のデザインを磨き上げてきたメゾンの誇りが光る。
「レベルソ・トリビュート モノフェイス」
初代とほとんど同じサイズと形状を採用したモデル。ケースの小型化がトレンドの現在に呼応するかのようなサイズと、誰の手首にも自然と収まる理想的なプロポーションが身上だ。ダイヤル外周に敷設された角形のレイルウェイミニッツトラック、先端を尖らせたバーインデックス、短い剣型のドフィーヌ針。どのディテールにも、アールデコ後期の成熟した華やかさが薫る。
「レベルソ・トリビュート デュオ・トゥールビヨン」
両面に異なる表示を持つ「デュオ」を、トゥールビヨンを搭載したウルトラスリムキャリバーのプラットフォームに統合したマニュファクチュールの渾身作。どちらの面からも、トゥールビヨンの異なる表情を楽しめる。クレードル(反転ケースを支える外枠)にはミラーポリッシュ仕上げディスクを備え、トゥールビヨンを通して光を反射させる劇的な効果を生む。
「レベルソ・ハイブリス メカニカ・キャリバー185」

「レベルソ」誕生90周年記念で製作された、計4面の超複雑時計。表面は永久カレンダーでビッグデイトとデイ/ナイト表示を配し、フライングトゥールビヨンがのぞく。裏面はデジタルジャンピングアワーを備えたミニッツリピーター。クレードルには3種の月齢表示、ケースバックには南半球のムーンフェイズを装備。
「レベルソ・トリビュート・ジオグラフィーク」
表面にはグランドデイト表示、裏面にはワールドタイマーを装備する。1998年発表のモデルを再解釈した、2025年の最新作だ。ケース上部にはシームレスにプッシャーが装備され、ワールドタイムを1時間毎にジャンプさせる調整を容易に行える。世界地図はレーザー彫刻とハンドラッカーを組み合わせて仕上げられ、視覚的にも美しい。

並木浩一(桐蔭横浜大学教授/時計ジャーナリスト)
1961年、神奈川県生まれ。1990年代より、バーゼルワールドやジュネーブサロンをはじめ、国内外で時計の取材を続ける。雑誌編集長や編集委員など歴任し、2012年より桐蔭横浜大学の教授に。ギャラクシー賞選奨委員、GPHG(ジュネーブ時計グランプリ)アカデミー会員。著書に『ロレックスが買えない。』など多数。

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