1931年の誕生以来、ジャガー・ルクルトの「レベルソ」は不変のスタイルを貫いてきた。そしてクオーツショックを乗り越えた90年代に入ると、創造性のキャンバスとなった反転ケースはさらなる扉を開く。もうひとつの文字盤という、グランドメゾンがなせる技術革新だ。それは、唯一無二のダブルフェイスの誕生である。独創的な反転ケースに秘められた、美と技術の深遠なる世界を探る。
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時計界を牽引してきた、精度の追求と飽くなき革新の精神
始まりは精度だった。高精度のパーツ製造工具の発明がきっかけとなり、時計工房を設立。さらに精密測定機器の開発によってムーブメント製造を担い、マニュファクチュールへ。まさにメゾンの成長は精度の追求とともにあった。
レベルソの反転ケース構造もそのひとつであり、精度に支えられた機構の革新性は、角形ムーブメントの開発にも注がれた。そして新たな扉を開いたのが1994年に発表された「レベルソ・デュオ」。無垢の面にもうひとつの文字盤を設け、機能を加えたのだ。
単純かつ明快な発想ではあるものの、実現には高度なマニュファクチュールの技術を要する。「レベルソ・トリビュート・ジオグラフィーク」もその証しである。
初代オリジナルのデザインに、グランドデイトとスモールセコンドのネオクラシックな意匠を配し、その裏には、クラフツマンシップ漂う装飾性にあふれたワールドタイマーを備えるのだ。
さらに精度の追求は、ジャイロトゥールビヨンを搭載した「レベルソ・ハイブリス・アーティスティカ・キャリバー179」に至る。
90年以上前、レベルソの未来像をここまで思い描いただろうか。唯一言えることは革新の精神を継承し、いつの時代も挑戦を続けてきた結晶ということだ。
革新的な自社製ムーブメントを内に秘めた、美しきワールドタイマー


ステンレス・スチールケースとピンクゴールドケースの2色で展開される「レベルソ・トリビュート・ジオグラフィーク」。サンレイ仕上げのブルーダイヤルとチョコレートダイヤルの内には、ともに新開発のムーブメント「Cal.834」を搭載する。独自のグランドデイトや裏側のワールドタイマーの機構をモジュラーではなく、完全一体型で開発した。
表面に備えたグランドデイトは、2枚の日付ディスクを重ねずに並列にし、一桁の数字が終わった瞬間に隣の数字と連動し、日付を変えるという革新的な機構だ。裏面のワールドタイマーは昼夜付き24時間表示リングが回転し、各都市の時間帯を表す。
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独創のジャイロトゥールビヨンとデュオコンセプトを一体化し、装飾美術をも融合したメゾンの最高峰モデル


「ハイブリス」コレクションはメゾンの最高峰の技術革新と芸術性を結集し、とりわけ、「アーティスティカ」は美術工芸を際立たせる。多軸トゥールビヨンと装飾技術を融合し、ダブルフェイスの端緒となった「レベルソ・デュオ」を彷彿させつつ、裏面には24時間表示も備える。畝模様にラッカーを塗布したプレートはまさにアートの域と言えるだろう。
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反転式のキャンバスに芸術性を表現する、“メティエ・ラール”の真髄
時を刻み続ける文字盤の裏には、時間を超越したアートが息づく。「メティエ・ラール(匠の技)」と名づけられた専門工房が「レベルソ」を芸術の極みへと昇華させる。
アールデコが薫る「レベルソ」のエレガンスを、さらにアートへと高めるのがケースの裏側に施した伝統装飾だ。「レベルソ・トリビュート・エナメル『シャー・ナーメ』」は、裏面をキャンバスに見立てた創造性と、インドでのポロ競技を発祥とする「レベルソ」の文化的背景を結びつけた。
描かれているのは、16世紀に制作されたペルシャの叙事詩『シャー・ナーメ』の挿絵であり、そこには馬上の戦士とともに馬は神聖なものとして崇められている。それはポロの起源を想起させるのだ。

インドへと伝わったペルシャ細密画を再解釈し、エナメル細密画、グラン・フー・エナメル、パイヨンエナメル装飾、ギョーシェ彫りという4つの卓越した技で再現したのが、メゾンのマニュファクチュール内に設けた「メティエ・ラール(匠の技)」工房だ。
1996年に創設し、それまで個別のフロアで作業していたエナメル装飾、手彫り彫金、ジェムセッティングといった多彩な専門技術を一カ所に集めることで、互いのスキルと自由な発想を融合して作品を生み出している。
「レベルソ」の原点であるポロの本質を捉えるとともに、メティエ・ラールを通し、ポロが生まれた古代ペルシャへのロマンとオマージュを捧げるのだ。
エナメル細密画とパイヨンエナメルの技法を、1枚に凝縮する

文字盤にはひし形パターンのギョーシェ彫りにグラン・フー・エナメルを施し、深みのある緑を表現する。ケース裏もトーンを統一し、馬上から野生のロバを捕らえんとする躍動感ある姿と、植物の鮮やかな色合いも美しい。背景はパイヨンエナメルによる金箔が全体を引き立てる。
グラン・フー・エナメルの黒艶に映える、ハンドエングレービング

ブラック文字盤は、何層にもグラン・フー・エナメルを重ね、24時間をかけた焼成から生まれる黒艶がピンクゴールドに美しく映える。ケースバックは同じくグラン・フー・エナメルのブラックを背景に、馬のモチーフをハンドエングレービングで描く。完成に1面80時間を要する。
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革新的な複雑機構とクラフツマンシップが融合した、「レベルソ・トリビュート・ミニッツリピーター」
最高峰の複雑機構であるミニッツリピーターを角形ケースで実現した革新への挑戦は、「レベルソ」を機械的&美的の両側面における唯一無二の存在へと高めた。

レベルソ・トリビュート・ミニッツリピーター/手巻き、18KPGケース、ケースサイズ51.1×31㎜、パワーリザーブ約48時間、アリゲーターストラップ、3気圧防水、世界限定30本。¥54,560,000(参考価格)優美なデザインの表面には、アールデコの芸術様式が息づく。光を受け、まるで模様が動いているかのようなバーレイシードパターンのギョーシェの上に、ティールブルーのグラン・フー・エナメルを施す。ギョーシェ彫りに4時間、エナメル加工には8時間を要する。「メティエ・ラール」工房が匠の技を駆使した美術工芸の前面を反転させると、もうひとつの顔が現れる。スケルトナイズされた文字盤は、精緻なミニッツリピーターの機構を露わにし、美しい音色とともに動作も楽しめる。
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