スポーツ界におけるインクルーシブなビジュアル表現とは? 消費者の7割が「女性アスリートのリアルな姿」を求めている【後編】

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    7月20日に、FIFA 女子ワールドカップ(W杯)オーストラリア&ニュージーランド大会が開幕しました。「なでしこジャパン」をはじめ、各国の女性アスリートの活躍が期待されています。一方で、開幕に向けては、日本で試合の放映権がなかなか決まらなかったり、賞金総額の男女差が大きいことが話題になったりと、スポーツ界におけるジェンダーによる差が改めて浮き彫りになっているように思います。

    また、女性アスリートのビジュアル撮影という点では、盗撮や性的な要素を強調した形での撮影、そういった画像のネット上での拡散といった女性アスリートを侮辱するような行為が度々起きてきました。スポーツ界やアスリートからも撲滅に向けた声が上げられ、7月13日には、そのような行為を処罰する法律「撮影罪」(性的姿態等撮影罪)も施行されたところです。

    前編ではスポーツ界におけるインクルーシブなビジュアル表現について考えてみました。後編では、より身近なスポーツに励む女性のビジュアル表現について考えていきます。

    ■ランニングやヨガ。iStockで人気のスポーツをする女性のビジュアルとは

    近年は、多くの女性がスポーツを楽しみ、女性アスリートの人気も高まっています。スポーツ界においても平等が重視されるようになっていて、例えば、2022年のデロイトの調査によると、女性スポーツのスポンサーシップ投資は、全世界で10億ドル(1100億円)を超えると予想されています。スポーツに励む女性の姿が増加していく中で、どのようなビジュアル表現が必要なのでしょうか。

    ここで、日本で過去10年間、iStock 人気の「スポーツに励む女性」のビジュアルを見てみましょう。2013年から 2022年まで、スリムな女性がランニングやヨガ、筋力トレーニングなどの運動をしているビジュアルが一貫して人気でした。10年前は、女性が減量する姿がメインに据えられ、それこそが良いもののように捉えられてきましたが、徐々に、筋力トレーニングやリラクゼーション、体と心のバランスの取れた「ホリスティック・ウェルネス」を取り入れた、よりバランスの取れたアプローチへとシフトしていきます。

    2019年にはeスポーツが台頭しました。VisualGPSの調査結果においてもeスポーツは、スポーツの持つ感動的な効果を、より観客も参入しやすい形で経験できる競技として、最もインクルーシブなスポーツであると捉えられています。特にZ世代、ミレニアル世代といった若者層に受け入れられている、世界のエンターテインメント業界で最も急速に成長しているセグメントの一つとなっています。

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    2013年にiStockで人気の「スポーツをする女性ビジュアル」
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    2019年にiStockで人気の「スポーツをする女性ビジュアル」
    1129493258,adamkaz,GettyImages

    近年では、60歳代以上の層が運動する姿も当たり前のように見られています。スポーツをする女性のビジュアルは、女性自身のスポーツへの関心の広がりや憧れとともに、フィットネスやウェルビーイング、個々の成果を求める姿などを反映しています。

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    ■「ボディ・ポジティブ」なビジュアルで女性のエンパワーメントを高める

    過去 10年間、iStockで人気のビジュアルを分析しましたが、まだまだ社会や他人が決めた「理想的な外見・体型」にとらわれない「ボディ・ポジティブ」といった多様な体型を表現したビジュアル人気が限定的であると言えます。インクルーシブなビジュアルを活用することで、あらゆる体型の女性のエンパワーメントにつながるのではないでしょうか。

    さらに、ビジュアルには20代や30代など若い世代が主に登場し、50歳代以上の女性や子どもの描写も限られています。さまざまな年齢層の女性をビジュアルに登場させることで、年齢にまつわる固定観念を打ち破り、世代を超えたスポーツへの参加を促し、女性の多様な経験を伝えることができます。

    また人気のビジュアルのほとんどが、ランニング、ヨガ、筋力トレーニングなどの限られた運動に偏り、プロのアスリートや競技スポーツの表現が不足しています。プロのアスリートやコーチに着目することで、向上心のあるロールモデルを提供し、スポーツにおける女性の活躍を幅広く紹介することができるのではないでしょうか。

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    ■スポーツを楽しむ女性の姿を表現するビジュアルのポイント

    多くの消費者がスポーツに励む女性の姿がビジュアルではリアルに表現されることを望んでいます。その一方で、人気のビジュアルにはまだ偏りがあることがわかりました。スポーツを楽しむ女性のビジュアル表現に関するポイントをまとめましたので、ぜひ参考にしてみてください。


    1.ボディ・ポジティブを取り入れていますか
    スリムな女性ばかりではなく、さまざまな体型の女性を取り入れることで、インクルーシブな女性の美しさを表現しましょう。


    2.多様な年齢層を反映していますか
    生涯スポーツへの参加を奨励し、年齢にまつわる固定観念を打ち破り、将来の世代にインスピレーションを与えるため、50歳代以上の世代や子どもたちの割合を増やしましょう。


    3.多様な女性の姿を表現していますか
    特定のスポーツや活動に偏ることなく、さまざまなスポーツや活動を行う女性を反映させましょう。


    4.様々なレベルのアスリートが反映されていますか
    プロのアスリートやコーチ、プロ以外でもスポーツを実践している個人にスポットを当て、スポーツに携わる女性の献身や功績、多様な経験を紹介しましょう。


    5.女性の真の姿や感情を捉えていますか
    スポーツの厳しさ、勝利する喜びなど様々な感情を紹介することで消費者に親近感を与えましょう。


    6.ホリスティック・ウェルネスが表現されていますか

    減量や成功に焦点を当てるだけでなく、メンタルヘルスケアやセルフケアを念頭に置いた、心身のウェルビーングのより幅広い側面を取り入れましょう。

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    連載記事

    遠藤由理

    Getty Images/iStock クリエイティブ・インサイト マネージャー

    ビジュアルメディアの学歴を持ち、映画業界に従事。2016年からはGetty Images/iStockのクリエイティブチームに所属。世界中のデータや事例をもとに、広告におけるビジュアルの動向をまとめた「Creative Insights」を発信。多くのクリエイターをサポートしながら、インスピレーションに満ちたイメージ作りを目指している。

    遠藤由理

    Getty Images/iStock クリエイティブ・インサイト マネージャー

    ビジュアルメディアの学歴を持ち、映画業界に従事。2016年からはGetty Images/iStockのクリエイティブチームに所属。世界中のデータや事例をもとに、広告におけるビジュアルの動向をまとめた「Creative Insights」を発信。多くのクリエイターをサポートしながら、インスピレーションに満ちたイメージ作りを目指している。