人々の共感を得られる、インクルーシブな「男らしさ」を表現したビジュアルとは? 時代とともに変化する「男性像」【前編】

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    1300190353, Maskot, Getty Images

    6月18日は「父の日」です。みなさんが持つ「お父さん」のイメージはどのようなものでしょうか。スーツを着て働く真面目なお父さんや休日に子どもと遊ぶ無邪気なお父さんなど、お父さんにも様々なイメージがあると思います。

    今回は「父の日」にちなみ、「男らしさ」(マスキュリニティ、Masculinity)という観点から、時代とともに変化している「男性像」に焦点を当てます。現在のポップカルチャーを形成しているアジア諸国における男らしさに着目しつつ、日本の歴史や文化的背景から、その時代のビジュアルトレンドを分析。令和の時代に人々の共感を生む「男らしさ」をご紹介します。

    ■アジア各国の伝統的な「男らしさ」と現代的な「男らしさ」

    アジアにおける男らしさの表現について考える場合、日本、韓国、中国といったアジアの主要国の文化や歴史の影響を検証することが欠かせません。
    ご存じの通り、これらの国々は、アジア地域だけでなく、世界のポップカルチャーをけん引するなど近年では大きな影響力を持っています。これらの国々は、文化的慣習や信条に違いがあるのはたしかですが、男らしさに関して、多くの類似点があることも分かっています。

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    1410952053, Maki Nakamura, Getty Images

    日本

    伝統的な男らしさというと、経済的な成功のために懸命に働き、感情を表に出さず、家事や育児に参加しない、いわゆる「サラリーマン」というイメージがありました。かっちりとしたスーツを着て仕事に励み、アルコールやたばこを嗜む姿もかっこよく見えたかもしれません。
    一方最近では、感性や創造性を大切にする「草食系」、育児や家事を手伝う「イクメン」といった言葉も登場し、物腰が柔らかく平和主義的、身だしなみやファッションにもこだわり、カジュアルで流行を取り入れたスタイルを好み、もはや性別にこだわらないといった考え方を受け入れる傾向が強くなっています。

    韓国

    近年、優しさ、繊細さ、感情的な開放感を重視する「ソフト・マスキュリニティ」の傾向が強まっています。韓国ドラマの人気は、このような男らしさのイメージを促進する上で重要な役割を果たしました。
    男性役の多くは、伝統的な「男らしさ」がありながらも、思いやりがあり、自分の感情を大切にしている様子が描かれているからです。この傾向は、韓国の女性の社会進出が徐々に進み、性別役割分担に対する社会の考え方の変化も反映しています。

    中国

    伝統的な男らしさは、儒教の影響を強く受け、性的役割分担をもとにした強さの中にありました。
    しかし近年では、社会的な意識の変化だけでなく、2018年に中国で多数の女性がメディアや学術界などの著名人のセクハラや暴行を公に告発した#MeToo運動の影響を受け、“男はこう振る舞うべき”といった有害な男らしさや性別に基づく暴力の問題を浮き彫りにし、男性がセンシティブさや感情を表現する、よりインクルーシブな姿が描かれるようになりました。

    そしてこういった日本、韓国、中国の文化や歴史の影響は、マレーシア、インドネシア、タイなど他のアジア地域の男性らしさの表現にも見られます。韓国や日本のポップカルチャーの人気は、他のアジア諸国の若い男性のスタイルやファッショントレンドにも影響を与え、多くの人が「韓国風」や「日本風」のルックスを取り入れています。

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    1426454950, Carlina Teteris, Getty Images

    ■アジア諸国における男らしさの相違点

    似ている点

    ・多くのアジア諸国では、男性の優位性や男性らしさを重視する伝統的なジェンダーステレオタイプがあります。
    ・男女平等の必要性や性的役割分担の弊害に対する認識が高まっています。
    ・“有害な男らしさ”についての議論や、より健全な男らしさの表現について議論が活発化しています。
    ・日本では2000年代前半に「草食系男子」、韓国では2000年代後半に「コンミナム」(=美男子、イケメン)が流行するなど、より多様でステレオタイプのない男性らしさを表現する傾向が続いています。

    異なる点

    ・男性らしさの変遷に影響を与える独自の文化的・歴史的背景があります。例えば、日本には力強い武士の伝統が色濃く残り、韓国は儒教と西洋文化の両方の影響を受けています。
    ・LGBTQ+の権利やジェンダー規範に従わないジェンダー・ノンコンフォーミングに関する議論の進捗に違いがあり、台湾はアジアの中でも先進的ですが、多くの国は法的な制限や社会的な規範が今も拭えません。例えば、日本と韓国は、他のアジア諸国と比較して、ジェンダー平等を受け入れるのが遅れているなどの点が挙げられます。
    ・欧米文化の影響は国によって異なります。例えば、韓国は欧米のポップカルチャーの影響を強く受けていますが、日本は独自のポップカルチャー文化の影響が強いようです。

    アジア地域では、性別役割分担という伝統的なステレオタイプが今も少なからず影響しているようですが、徐々に伝統的な、力強い「男らしさ」から、柔らかく優しい印象の「男らしさ」が主流になってきており、それが世界からも注目されるアジアのポップカルチャーを形成していて、社会的にも大きな影響を与えていることが分かると思います。

    後編では、日本における「男らしさ」のビジュアルコミュニケーションについて、歴史的な変遷を踏まえて具体的に見ていきます。

    1493879354, staticnak1983, Getty Images

    <後編に続く>

    連載記事

    遠藤由理

    Getty Images/iStock クリエイティブ・インサイト マネージャー

    ビジュアルメディアの学歴を持ち、映画業界に従事。2016年からはGetty Images/iStockのクリエイティブチームに所属。世界中のデータや事例をもとに、広告におけるビジュアルの動向をまとめた「Creative Insights」を発信。多くのクリエイターをサポートしながら、インスピレーションに満ちたイメージ作りを目指している。

    遠藤由理

    Getty Images/iStock クリエイティブ・インサイト マネージャー

    ビジュアルメディアの学歴を持ち、映画業界に従事。2016年からはGetty Images/iStockのクリエイティブチームに所属。世界中のデータや事例をもとに、広告におけるビジュアルの動向をまとめた「Creative Insights」を発信。多くのクリエイターをサポートしながら、インスピレーションに満ちたイメージ作りを目指している。