アナろぐフィールドワーク#15
世界のトップDJが愛用する、浦和発のレコードバッグKLIPTED。SNSをきっかけに広がった、カスタマーとの熱いつながり

  • 文:MOODMAN

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MOODMANと申します。3回に渡りまして、私も愛用しておりますアナろぐアイテム「KLIPTED」のレコードバッグについて、職人である富田浩太郎さんのインタビューをお届けしております。

第2回目になる今回も、浦和にありますKLIPTEDの工房にてお話を伺いました。なぜKLIPTEDのレコードバッグが海外のDJたちに人気があるのか。きっかけはなんだったのか。徐々に明らかになっていく、富田さんの異色の経歴についても興味深いことだらけで、あっという間に時間が過ぎたひとときでした。

きっかけはコロナ。革職人から自作のカバン作りに

富田浩太郎(以下、富田):もともとの話をしますと僕、革職人なんです。フランスに某ブランドがありまして、そこの日本法人みたいなところの、カバンの修理をする部署にいて。

MOODMAN:みなさんご存知の某ブランドですよね。

富田:はい。そこのブランドは旅行用のトランクから、女性がもつポーチから、何から何まで作るような大きな会社だったので、そうすると、カバンの知識が一通り全部、革のこと以外も、生地などについても一通り勉強できたので、まずその下地があって。そういう技術的なことを一通りわかると自分でもやってみたいってなってくるじゃないですか。

MOODMAN:なるほど。

富田:そんなときに友達がマルシェっていうんですかね、イベントで大きい公園を借りて、そこにいろんなご飯屋さんとか、お酒出す人とか、モノ作る人が集まって、DJがいて音出すみたいなイベントをやっていて。そこに最初はDJで誘われて。そのときに自分もDJ以外にも参加してみようかなと。ちょっと自分で作って売ってみようかな、みたいなことがきっかけだったんです。

MOODMAN:最初からDJバックを作られていたんですか?

富田:いや、最初は本当に小さいポーチみたいなやつですね。レコードバッグに関しては、ずっと頭の中に構想はあったんですけど、仕事がもうすごい忙しくて、作る時間がなくて。その時に世の中がコロナで動かなくなるんです。

MOODMAN:きっかけはコロナだったんですね。

富田:コロナで会社が止まってしまったんです。1、⁠2カ月ぐらい休みあったのかな。その時期に自分の中でアイディアが固まっていたので、それを一気に形にしてみたんです。

MOODMAN:なるほど。

インスタグラムから始まった海外への販売

富田:で、作ったレコードバッグをインスタグラムに載せて、そしたら周りの友達が少し買ってくれて、自分の中ではそこで終わりにしようと思ってたんですけれど。ある日、スペインのDJから連絡もらって、スペインに1個送って、翌月にイタリアのDJとイギリスのDJから連絡もらったんですよ。

MOODMAN:いきなり海外なんですね。

富田:そのイギリスのDJと、イタリアのDJが結構有名な人で。その2人に荷物が同じ日に届いたんですよね。で、インスタグラムに載せてくれて、その晩、夜寝て朝起きたらDMが100件ぐらい来ていて。フォロワーもそれまで30人ぐらいしかいなかったんですよ。いきなり1000人ぐらいになっていて。その勢いで、これはチャンスだと思って会社を辞めちゃったみたいな。

MOODMAN:最初のスペインのDJの人は何で知ったんですかね。知り合いとか?

富田:いや何でもないですね。ハッシュタグをおって。

MOODMAN:「#recordbag」とか?

富田:そうです、そうです。その人が日本に1回来たことがあるって言っていて、ハードディガーなんですが、日本でレコードを大量に買って自分の国に送ったりしてたらしいんですよ。だから、発送の仕方に詳しくて。スペインのリッキーさんっていう人なんですが、その人から海外発送のやり方を教えてもらって知恵をつけて。
そのすぐ後に、イギリスとイタリアからオーダーが来たので、教えられたやり方で送った、という感じですね。あるんだこんなことっていう。

MOODMAN:本当ですね。それにても、インスタの影響力、すごいですね。自分も「KLIPTED」のレコードバッグを買うまで、おそらく何年もレコードバッグについては悩んでいたんですよね(笑)。昔、使ってたレコードバッグは、レコードだけでDJやった時代のギアなので、レコードの収納量は多いのですが、重たいし、持ち運びにくい。やはり「#recordbag」で調べたりして、いろんな人の現場を見てたんですけど。なんかあんまりピンと来るものが無かったんですよね。レコードをすごく大量に持ってくスタイルのものが多かったから。

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最近では、バックパックを工房まで直接引取りに来るお客さんもいるそうだ。写真はカリフォルニアから工房まで、ピックアップに訪れたDJのUriさん。

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デジタル時代のDJスタイルとレコードバッグ

富田:おそらく今は、DJをする際にレコードとUSBを併用して使ってる人が多いので、そんな時代背景にちょうどピタリとはまったのかもしれないです。実際に買った人の話を聞いてみたことがあるのですが、「エアバッグクラフト」っていう会社のレコードバッグをご存知ですか?

MOODMAN:お弁当箱型のレコードバッグですよね。僕も買おうか迷っていたやつです。

富田:あのバッグは2つにパカッと本体と蓋の部分に分かれて、レコードボックスとして現場で使用できるタイプなんですよね。「エアバッククラフト」だけだと、本体は満杯、蓋側は空な状態になります。この空いている側に入れるレコードを別途、持っていきたいと。それが叶えば、レコードだけで、ロングセットができるんですね。インスタを見ているとお客さんは「KLIPTED」のバックパックと「エアバッククラフト」の2個持ちでツアーに出る方が多いです。

MOODMAN:なるほど。その使い方、良いですね。「エアバッグクラフト」もずっとチェックしていて、無駄がないし、現場で使いやすそうだし、いいなと思ってたんですけど、レコード以外に物が持っていけないのがネックだなと思ってたんです。そうか、併用している人がいるのか、

富田:ツアーに行って、現地でレコードを買って持って帰ってくるときにレコードが入るとか。着替えにプラスして、レコードが入るとか。かつ機内持ち込みができるとか。自分はそこを狙っていなかったんですが、そのニーズにぴったりはまった。そういう感じかなと思うんですよね。

MOODMAN:ちょうど機内持ち込みサイズなところはほんとに重宝しています。僕の場合はさらに釣具も機内持ち込みが可能なサイズで揃えているので、そっちの趣味のものもぴったり入るっていう(笑)。

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カバン作りをはじめるまで

MOODMAN:ちなみに、もともと職人さんとして、某ブランドで働いてたわけじゃないですか。何年ぐらい働かれていたんですか。

富田:15、6年だと思います。

MOODMAN:バッグの修理がメインだったんですか?

富田:そうですね、修理もしてたし、100年以上続いてる老舗なので、すでに廃盤になっている商品を、一から作るみたいな機会もあるんですよ。

MOODMAN:いわゆる復刻ですか?

富田:そうですね。おそらく、なんていうんですかね。すごくお金持ちのお客様だと思うんですが、そういう人のためにスペシャルで一つ作るみたいな。量産じゃなくて、一個作るみたいなこともやっていました。そういう仕事をやってるうちに、いろいろとできるようになってくるんです。

MOODMAN: KLIPTEDのバックパックのような、アウトドア向けの商品と言いますか、素材のものって、自分で作るようになってからですか。

富田:そうですね。修理の仕事をするメリットって、例えば街で売っているカバンを見るじゃないですか。そうすると、それが頭の中で分解できるんですよね。バラバラにすると、こうなって、こうなって、こうなって…って言う癖がつくんです。
写真などを見せられて、これと同じものを作ってほしいとか。場合によっては、もう原型留めてなかったりするんですよ。それの新品な状態なものを作るって、結構想像力を働かせないといけない仕事なんです。そういう訓練を日々していたので、頭の中で、こうなって、こうなっている…っていうアイディアができたら、まぁまぁ作れちゃうんですよね。

MOODMAN:展開図が浮かぶ感じなんですかね。職業病ですね(笑)。そもそもの話なんですが、バックを作る道に入ったのは何だったんでしょうか。バックが好きだったからとか、そういう根源的な「好き」を知りたいんですが。

富田:もともとは僕、音響の専門学校に行っていまして。音響の方に進むのかと思いきや、学校で学んでいるとですね、音楽業界の闇みたいなものを、在学中にたくさん見てしまいまして(笑)。音楽はやっぱり好きなので、純粋でいたいなという思いが強くなりまして、同時通訳の会社に入るんですよ。

MOODMAN:これまた意外ですね。

富田:はい。同時通訳機器を扱う会社です。講演とか学会などの音響技師でした。同時通訳する人がいてそれを無線で飛ばす。多分、今はもうそんなやり方しないと思うんですけど。

MOODMAN:なるほど。テクニカルなスタッフですね。

富田:そうです。テクニカルっていうとこまでいかず、1年も経たずに、サラリーマンの世界にも馴染めず、辞めてしまいまして(笑)。自分、手先だけは器用で、趣味でプラモデルとかすごく作ってたんですよ。どっちかっていうとその方向を生かした方がいいんじゃないのかと思いまして「from A」を読んだところ、鞄屋さんが載っていたんです。で、面接を受けたらまさかの採用で。うそーと思いましたけど(笑)。

MOODMAN:そのときは特に何か、技術があるわけではなかったんですね。

富田:何もなかったですね。最初はただのバイトで入ったんですけれど、自分は手を動かすのは好きですし、なにしろギアが好きだったんです。ということもあって、やってたらだんだん仕事が面白くなってきて、そのままそこで社員になり、気がつけば15、6年ですね。
途中からは教育係みたいな立場になっていて、自分でこなすっていうよりも、下の人に教えるみたいなポジションになり。自分の中でも何かそんなに面白くなくなっていたこともあり、自分で何かしたいなっていう。その欲の方が強くなってきて、それで自分でちょこちょこ作り出した、という感じですね。

MOODMAN:なるほど

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自分がただ使いたくて作っていた

富田:それ以降、自分がやっていることと自分の好きなものを結びつけて、モノを作る。その連続をずっとやってきました。でも別に作ったものを誰かに見せるわけでもなく、自分でただ使いたくて作っているだけみたいな。ちょっと友達が欲しいと言ったら作るぐらいの感じだったんです。自分で独立したい。独立するぞって思ってやっていたかというと全然そんなことはなくて。
ただ本当に、手を動かしてものを作るのが好きなだけで、ずっと来た感じです。だからコロナがなかったら、多分、バックパックは作れてないです。コロナ自粛期間の休み中にこれ作って、インスタに載せたら、想定外に大きなリアクションを色々な国の方々から頂いたので、コロナ自粛期間明けで会社に戻ったときに、辞表を出しました。

MOODMAN:すごい。決断、早いですね(笑)。

富田:すいませんやめさせていただきます、みたいな。もう、みんなびっくりみたいな(笑)。

MOODMAN:なかなか辞める選択肢を選ばない会社ですよね。

富田:そうですね。居たら安泰ですよね。

MOODMAN:そうですよね。すごいな(笑)

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海外のDJからのダイレクトメール

富田:最初の頃に、先ほども触れたイタリアのDJの人から連絡もらったときに、僕、その人のファンで、その人のミックスを家で聞いていたところだったんですよ。家でミックスを聞きながらカバンを作っていて。ダイレクトメールが来たのでインスタグラムで見てみたら、その時、ミックス聞いていた本人なんですよ。

MOODMAN:引きが強いなぁ。

富田:当時まだ会社員だったので、ファンなので作ったら一個送るよって言って。別に売るっていう感じじゃなくて、あげますみたいな感じで送ったら、多分その人が恩義を感じてくれて、SNSに載せてくれて、周りの人にも広げてくれて。その人はいろいろな国にへツアーに行く方なので、彼と共演したローカルのDJからもDMを頂きました。
お客さんもいろいろ紹介してくれたのですが、途中で僕がいきなり「会社辞めちゃった」って言い出したんで、その方も「ちょっと大丈夫か」っていう。「お前、それはまずいぞ」っていう(笑)。なんていうんですかね、途中から人となりみたいな話になって。子供がいてとか、こういう仕事やっててとか、カバンとも関係ない話をいろいろしていたので、多分心配してくれて、お客さんを紹介してくれたんだと思います。

MOODMAN: SNSきっかけで出会って、人情で繋がる。いいですね、なんか。

富田:この人が使ってくれたら広がるよとか、そういうことまで考えていろいろな人を紹介してくれて、本当恩人ですね。

MOODMAN:すごい展開ですよね

富田:すごい展開だと思います。

MOODMAN:引きが強いんだな。ほんと、すごいですよね。

富田:全然関係ないんですが、引きというか、最近、運だけな気がしてて(笑)。僕、ここ(眉間)に毛が一本すごく長いのが生えてるんですけど。これ、生えてるときはすごく運が強くて、これはとりあえず抜かないようにしようと(笑)。

MOODMAN:そういえば、僕も自分の誕生日に思い切ってDMをして、注文をしたじゃないですか。その誕生日が、富田さんのお子さんと一緒だったんですよね。

富田:はい、娘と一緒なんですよ。それもびっくりでしたが、あの時はもう大ピンチの時だったんです。海外しかお客さんがいないっていう状態だったのに、戦争起こっちゃって送れなくなってしまって。日本じゃ自分のことなんか誰も知らないし。会社を辞めて、ちょっとしか経っていないのにいきなりつまずくみたいな。もうバイトを探さないとだめかなと思っていたときに、いきなり「ムードマンと申します」というDMが来て、マジかと思いました(笑)。

あと、商品を送った当日が、ムードマンさんのDOMMUNE出演の日だったので、DJ中にバンバン映っているし。その日もDMをたくさんいただけて。これで首の皮1枚つながったという。その節はありがとうございました。

MOODMAN:いやいや、よかったです。そんな苦境とは知らず(笑)、在庫ありますか、次の入荷はいつになりますか、みたいなメール送ったんですよね。たまたまでしたが、日本在住のDJとしては、最初期のカスタマーだったんですね(笑)。

富田:そうですね。本当そうなんですよ。

MOODMAN:僕も富田さんの強い引きに吸い寄せられたんだと思います(笑)。

(アナろぐフィールドワーク#16に続く)

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KLIPTED

公式サイト https://klipted.com/
Instagram https://www.instagram.com/klipted/
Twitter https://twitter.com/klipted
YouTube https://www.youtube.com/@klipted1168

アナろぐフィールドワーク

MOODMAN

DJ・クリエーティブディレクター

1970年、東京都生まれ。80年代末からDJとして活躍。90年代半ばより広告業にも従事する。記念すべき第一回目のDJをつとめたライブストリーミングスタジオDOMMUNEにて、レギュラー番組「おはようムードミューン」を不定期実験配信中。町工場の音楽レーベル「INDUSTRIAL JP」は6年目に突入し、ASMRに特化した新プロジェクトも始動。Penオリジナルドラマ「光石研の東京古着日和」では音楽監督を務める。レコード、ポストカード、ボードゲームなど、アナろぐものをひたすら集め、愛でている。


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1970年、東京都生まれ。80年代末からDJとして活躍。90年代半ばより広告業にも従事する。記念すべき第一回目のDJをつとめたライブストリーミングスタジオDOMMUNEにて、レギュラー番組「おはようムードミューン」を不定期実験配信中。町工場の音楽レーベル「INDUSTRIAL JP」は6年目に突入し、ASMRに特化した新プロジェクトも始動。Penオリジナルドラマ「光石研の東京古着日和」では音楽監督を務める。レコード、ポストカード、ボードゲームなど、アナろぐものをひたすら集め、愛でている。


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