アナろぐフィールドワーク#12
マネ展を堪能したあと、練馬でレコードを探す

  • 写真・文:MOODMAN

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MOODMANと申します。昨年末になりますが、練馬区立美術館に立ち寄った際に、中村橋駅を起点にアナログ求めてフィールドワークしてまいりましたので、ご報告させていただきます。

11:00AM 中村橋

練馬で西武鉄道池袋線に乗り換えて一駅、中村橋で下車しました。まだお昼前ですが、さすがベッドタウン、街は家族連れで溢れかえっています。駅から徒歩3分で美術館に着きます。

中村橋1.jpg
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11:05AM 練馬区立美術館 マネ展

練馬区立美術館で開催されている「日本の中のマネ」展に伺います。本日が最終日ということで、激混みも覚悟していましたが、開館すぐのタイミングだったからかちょうど良い空き具合です。

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19世紀フランスを代表する画家でありながら、あまり語られることのないエドゥアール・マネ。マネ自身の作品はもちろん、マネが影響を受けた作品、影響を与えた作品を通じて、みなさんの頭の中でわりとぼんやりとしか結ばれていないマネのイメージに、輪郭をつけていこうという試みのようです。

ポップミュージック好きとしては、マネといえば「草上の朝食」でしょう。1981年、マルコム・マクラーレンがセックス・ピストルズの次に仕掛けたバンド、バウ・ワウ・ワウのファーストアルバムのジャケットに引用したあの絵です。

マネ展_2.jpg

ジャズ好きの人であればちょっと時代は遡って、UKのビックバンド、ニュー・ジャズ・オーケストラが1969年にリリースしたセカンドアルバムが、やはり「草上の朝食」のオマージュでした。こちらのグループは、後にグラハム・ボンド・オーバニゼーションやコロシアムなど、UKにおけるジャズとロックのハイブリット化につながるグループです。つまり、ひと癖ある人がマネを真似る。

「草上の朝食」は展示されてはいませんでしたが、なぜひと癖ある人がマネを真似るのか、その理由が作品を追うことでなんとなく分かってきます。それにしてもキャプションをここまで読み込んだ展覧会は久しぶりです。解説に流れがあり非常に読みやすい。展覧会のクライマックスとも言える3階の森村泰昌さん、福田美蘭さんの展示を見終わったときには、美術解説書を一冊通読したような充実感でした。

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12:30PM 古書クマゴロウ

展覧会の余韻につつまれつつ、街の散策をはじめることにします。練馬区立美術館から徒歩3分ぐらい。サンツ中村橋商店街通り(中杉通り)沿いの古本屋さん「古書クマゴロウ」に到着しました。まずは店頭の激安コーナーをチェック。

クマゴロウ1.jpg

店内は何かが待ち受けていそうな雰囲気。一歩、足を進めた瞬間に、以前から探していた音楽関連の書籍を発見しました。お値段もお手頃です。マニアックな品揃えながら、ご家族連れが頻繁に来店しているのも微笑ましいポイント。

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こちらのお店では音楽本を3冊、コミックソングの7インチを1枚購入しました。良いスタートです。

13:20PM 旧・としまえん

サンツ中村橋商店街通りを抜け、豊島園方面に向かいます。せっかくなので、旧・としまえんの敷地に沿って歩いてみることにします。

高い塀で囲われていますが、おそらく流れるプールがあったあたり。以前は水際ではしゃぐ子供の声などが聞こえていたのかな、などと妄想サウンドスケープしながら、すっかり静かな住宅街を歩きます。

豊島園の塀.jpg

としまえんといえば、閉園の前日にチケットがなぜか一枚取れたので、約20年ぶりに一人で訪れまして、ハイドロポリスを心残りなくなるまでリピートしました。
流れるプールの傍で感慨に耽っていたところ、小さいスピーカーからブッダブランドが流れていたのが印象に残っています。2023年にはハリー・ポッターをテーマにしたエンタメ施設が開園予定。

豊島園の横の道・豊島園の入り口.jpg

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13:30PM BBQレコーズ

BBQレコーズは、都営大江戸線の豊島園駅付近にありました。松屋の2階。マンションの一室です。大きな看板がないので気をつけていないと通り過ぎてしまうかもしれません。

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2007年にオンラインストアとしてはじまり、豊島園にお店をオープンしたのは2017年とのこと。<デリシャスヴァイナル>をもじったアイコンから推測できる通り、ヒップホップやR&B、ソウル、ファンクが中心。隅々まで見させていただいて、今回はダンスホールの12インチを1枚、日本のクラブミュージックの12インチを2枚、ディスコクラシックのブートレッグを2枚購入しました。買いやすいお値段でした。営業日は、金、土、日、祝日とのこと。

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14:20PM 九品院 蕎麦食い地蔵

BBQレコーズ近くに「蕎麦食い地蔵」なるお地蔵さんがあるということで、九品院というお寺に立ち寄ることにしました。想像していたお寺とは異なり、なんだか高級蕎麦屋のような門構え。門をくぐると、蕎麦を食べながら歓談している銅像が…。

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意外と新しめたなと思っていたら「蕎麦食い地蔵」はその銅像とは別でして、新築の祠に祀られていました。

蕎麦地蔵の祠.jpg

1657年の明暦の大火の後、お坊さんの姿になって、夜な夜な浅草広小路の蕎麦屋に通っていたというお地蔵さま。昭和初期に、神田、浅草あたりからこちらの地に移ってきたとのこと。東京都内には他にも、深大寺のそば守観音、江東区深川のソバ切り稲荷など、ソバにまつわる民間信仰いくつかあるそうです。気になります。

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15:00PM 百年の二度寝

豊島園から大江戸線で江古田に移ります。江古田で降りたのは、久しぶりです。まずは本屋さん「百年の二度寝」に。趣向別に並んでいるので好きな本が探しやすいです。食の歴史の本を二冊購入。

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15:30PM ココナッツディスク江古田店

江古田といえばココナッツディスクです。久しぶりに訪れましたが、セレクトが今っぽい。気になるレコードばかりですが、値段が今っぽいため(笑)、予算を考えつつムードミュージックのアルバムを2枚、ジャズを1枚、日本のテクノのシングルを1枚。あと音楽関係書籍1冊購入いたしました。今日は音楽本が当たりかもしれません。

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江古田で食事を…と思っていましたが、中途半端な時間になってしまったので、西武池袋線で池袋に向かいます。

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16:30PM ディスクユニオン池袋店

池袋ではディスクユニオンに伺うことにしました。この街のディスクユニオンに訪れるのは実は初めてです。5Fのスイーツパラダイスに向かうと思しき女子の行列に並んで、エレベーターを待ちます。ちょっと恥ずかしいですね。

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フロアに着くと、いつものディスクユニオンの感じで、ほっとします。ジャンルは関係なく、片っ端からチェック。大型店舗はいつもそうですが、その店舗の常連さんから人気がなさそうなジャンルを中心に狙います。

結果、00年代のテクノアルバムを3枚、12インチシングル3枚、日本のジャズアルバム1枚、日本のゲームのサントラ1枚、そして音楽資料を一冊購入しました。

ディスクユニオン1.jpg

17:30 PM フロリダ亭

心地よい疲労感が襲ってきました。ここらで喧騒から離れたかったので、雑司ヶ谷方面に。フロリダ亭で、バナナリーフカレーをいただくことにしました。

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フロリダ亭2.jpg

マンションのロビーをそのまま活かしたような不思議なインテリア。居心地が良いのでしばしば寄らせていただいておりますが、オープン当初に比べて若干、謎めいた感じが減り、垢抜けてきた気がします。私が慣れてきただけかもしれません。ビールとAセットを注文。

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さて、お腹も満足したので、本日はこれまで…と思っていたところ、雑司ヶ谷の大鳥神社にて、酉の市が行われていました。今年もそんな季節になりました。せっかくなので、仮設テントの飲食スペースで、一杯だけいただくことにいたします。コンパクトながら充実した1日に感謝。ではまた。

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練馬で出会ったレコードと本 5選

■The Carmets 「Moog Electrical Sounds」

GSバンド、アウトキャストのオルガニストであった穂口雄右さんによる、MOOGを使ったインスト集です。1973年の作品。この時期は各国からMOOGものがリリースされておりますが、その基本マナーに則りつつ、耳障りのいいヒットポップスを自由に奏でています。穂口さんはキャンディーズなどを手がけた作曲家・編曲家としても有名なお方。あと、せんだみつおさんの同級生。この作品は、ジャケ違いがいくつかリリースされています。

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■Shirley Scott 「Blue Seven」

1965年に<PRESTIGE>から発表された、オルガン奏者シャーリー・スコットさんのリーダー・アルバム。シャーリーさんは同年、ゲイリー・マクファーランドさんのアレンジで、代表作「Latin Shadows」を発表しており、比べると本作は地味めなイメージでしたが良盤でした。以降、<IMPULSE>でオリバ―ネルソンさんと組むきっかけになった作品とのこと。オルガンものはここ数年、人気がないのか安価で手に入るので嬉しい限りです。

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■Torrent Alexander Duo 「X-plorations」

ハモンドオルガン全盛期の1967年に発表された、デラックスシアタ-オルガン「ハモンドX-66」のデモンストレーションアルバムです。X-66は当時の価格で600万円ぐらいした高級機種とのことで、心なしかジェントルな音がします。シェイ・トレントさん、アクセル・アレキサンダーさんは、球場オルガニスト。こちらの作品も、オルガンものですね。エキゾな香りが漂う良盤です。

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■吉岡忍『フォーク・ゲリラとは何者か』

新宿駅西口地下広場で起こった「フォークゲリラ」についてのルポ。若々しい文章と編集のため、読みにくいところもありますが、そこも含めて当時の空気が痛いほど伝わってきます。フォークゲリラの起源については諸説あるようですが、さまざまな人が一つの場所に集まりムーブメントとなる。音楽の現場が生まれる時のカオスは、あまり今と変わりないかもしれません。

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■黒沢進『資料日本ポピュラー史研究 初期フォーク・レーベル編』
黒沢進さんによる日本ポピュラー音楽研究の名著です。1986年刊。なぜかお店の片隅に安価で眠っていました。URC、ベルウッド、エレックのディスコグラフィーももちろんですが、早川義雄さん、大瀧詠一さんなど当事者からのインタビューが豊富に掲載されています。この資料は後に「日本フォーク紀」に集約されますが、やはりディスコグラフィーは同人誌スタイルが読みやすいです。

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アナろぐフィールドワーク

MOODMAN

DJ・クリエーティブディレクター

1970年、東京都生まれ。80年代末からDJとして活躍。90年代半ばより広告業にも従事する。記念すべき第一回目のDJをつとめたライブストリーミングスタジオDOMMUNEにて、レギュラー番組「おはようムードミューン」を不定期実験配信中。町工場の音楽レーベル「INDUSTRIAL JP」は6年目に突入し、ASMRに特化した新プロジェクトも始動。Penオリジナルドラマ「光石研の東京古着日和」では音楽監督を務める。レコード、ポストカード、ボードゲームなど、アナろぐものをひたすら集め、愛でている。


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1970年、東京都生まれ。80年代末からDJとして活躍。90年代半ばより広告業にも従事する。記念すべき第一回目のDJをつとめたライブストリーミングスタジオDOMMUNEにて、レギュラー番組「おはようムードミューン」を不定期実験配信中。町工場の音楽レーベル「INDUSTRIAL JP」は6年目に突入し、ASMRに特化した新プロジェクトも始動。Penオリジナルドラマ「光石研の東京古着日和」では音楽監督を務める。レコード、ポストカード、ボードゲームなど、アナろぐものをひたすら集め、愛でている。


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