東京車日記 いっそこのままクルマれたい! 特別番外地


『東京車日記』も連載が始まってちょうど1年が経ちました。そこで「対談でもやってみますか」ってなったんだけど、もともとこの連載は友人同士でクルマについて語ってる調の気軽な読み物として始まった訳さ。だから対談相手も友人で、かつクルマについて語れる人ってなった時に、まっ先に思いついたのが写真家の佐内正史さんだった。佐内さんとは作家と編集者という関係で、かれこれ15年ぐらいになるかな。佐内さんの自分の黄色いスカイラインを撮った『俺の車』にはめちゃくちゃ影響受けてたし、赤いGT-Rを撮った『赤車』では先行して連載してた雑誌で担当してたから思い入れは深いんだ。
でも、ただクルマを語ってもらうんじゃ全く意味がない。クルマが似合って、そのクルマが本人をいろいろ語りだす感じがよかった。それと佐内さんは写真家だから、クルマを通して撮影という作業が見えてくれば面白いんじゃないか、と思った訳。
7月のある暑い日、俺は都内の佐内さんの事務所を訪れた。本人からは「クルマ乗ってきて」というリクエストもあり、自分の車で出かけた。佐内さんはシャワー浴びたてでシャンプーの匂いをさせながら、相棒のペンタを片手に現れた。そして最近はまってるという小津映画の影響からか、笠智衆のモノ真似をしながらバシバシ写真を撮りだしたのだった。
お互いのクルマの前で

青木佐内さんがこのカマロを撮るの2回目だよね。
佐内うん。前に撮ったのはベタ焼きでどこかにあるよ。でも、このクルマを撮るのは今日みたいな夏がいいかも。
青木俺も夏向きだと思うね。もともとこのクルマは買った時からココナッツの匂いがしててさ。まったくココナッツの匂い好きじゃなかったんだけど、それで好きになったんだよ。
佐内それいい話じゃん。夏になると海の家に行きたくなるじゃん。ココナッツの匂いを嗅ぎたくなるよね。本物のココナッツの匂い。あれはコパトーンの匂いを超えて、本物のココナッツの匂いなんだよ(笑)。あ、小津さん意識してローアングルで撮ろうか。
青木小津安二郎?
佐内そう。いままでちゃんとは見てなかったんだけど、最近見てたら面白くて。笠智衆の『おじいさん』って写真集知ってる?
青木いや、知らないわ。
佐内俺もネットで見ただけなんだけど欲しいんだよね。

青木そうなんだ。じゃ、次は佐内さんのクルマにいこう。この2台の違いについて教えてほしいな。
佐内こっち(黄色いスカイライン)は「部屋」だな。こっち(赤いGT-R)は「スポーツカー」だな。こっち(黄色いスカイライン)は2年以上、洗車してないな。
青木意外だな! 佐内さんはしっかり洗車してるイメージあるけどね。
佐内伊賀くん(スタイリストの伊賀大介氏)と『マッドマックス』を観に行ったらさ。(映画の車を見て)「やっぱり洗車しちゃダメっすね」って言ってて「ああ、そうかもな」って思ったのがきっかけ。それまで半年ぐらい洗車してなかったんだけど、そこからまったく洗車しなくなったんだ。
青木『マッドマックス』の影響ね。確かにあれは洗車してるクルマじゃないもんね。
佐内うん。でもこのクルマも綺麗でしょ。
青木2年も洗車してないとは思えないね。風雨にさらされてても綺麗になるんだな(笑)。こっちのGT-Rは「部屋」みたいな感じにはならないの?
佐内ならないね。
青木GT-Rを買った時は「被写体」として買ったって言ってたじゃん?
佐内両方そうだけどね。なんとなく買ったんじゃなくて、完全に撮るために買ってるからね。動機はね。乗ってると違うんだけどね。モノへの情みたいなのが出てくるからさ。中学から使ってるマグカップと一緒。俺、まだ持ってるからね。メンソレータムのイラストが入ってるやつ。
青木そう。それだ。モノへの愛情なんだよな。佐内さんは人一倍、深いよね。
佐内モノは人間よりシンプルだからね。こっちの一方的な思いだけで済むじゃん。人間はそうはいかないからね。難しいでしょ?人間。
青木うん。難しい。
佐内難しいよね。クルマだと駐車場でずっと待ってたりするからさ。
青木それ、いい話だな。
佐内人だとそうはいかないでしょう。待たせたら、「ごめーん」って言わなきゃならない。でも俺はクルマにも言うよ。「遅くなってごめん」って。
青木マジで!? 素敵すぎるじゃん!
