無限の可能性を秘めたポルシェのE V初号機、タイカン ターボの驚異のシンクロ率とは

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    東京車日記いっそこのままクルマれたい!

    第127回 PORSCHE TAYCAN TURBO / ポルシェ タイカン ターボ

    無限の可能性を秘めたポルシェのE V初号機、タイカン ターボの驚異のシンクロ率とは

    構成・文:青木雄介

    編集者。長距離で大型トレーラーを運転していたハードコア・ドライバー。フットボールとヒップホップとラリーが好きで、愛車は峠仕様の1992年製シボレー カマロ改。手に入れて11年、買い替え願望が片時も頭を離れたことはない。

    ローンチコントロール使用時の0-100㎞/hは、わずか3.2秒を誇るタイカン ターボ。

    スポーツカーを得意とするポルシェが、ライバルに先駆けて販売したEV(バッテリー蓄電式の電気自動車)の4ドアスポーツがタイカン。キャッチフレーズは「Soul, electrified(電動化された魂)」で、サンタナの名曲「Soul sacrifice」にかけているのか、かけていないのかわからないけど(笑)、ポルシェの本気をひしひしと感じるキャッチだよね。

    その自信を裏付けるようにハイエンドモデルのタイカン ターボが、イチ早く販売された。このタイカン ターボ。マイクロソフトの共同創設者にして環境アクティビスト、そして大のポルシェ党で知られるビル・ゲイツが手に入れて絶賛しているのね。「世界で最も尊敬される人物」の常連として、トップ3に頻繁にランクインする彼が褒めるなら間違いなしってことで(笑)、さっそくタイカン ターボに試乗したんだ。

    乗ってみると、モーターのピーキーな出力特性を生かしたスポーツカーなのは想像通り。アクセルを踏み込むと、前後に配置された2基のモーターが強力なトルクで車体を前進させる。足まわりは3チャンバー式のエアサスで、同門のパナメーラやカイエンでもお馴染みの仕様だ。なによりフロアに敷き詰めたバッテリーを鎧のように固めたことで、フロアのシャシー剛性が非常に高い。低重心なのはもちろんだけど、静音設計にも貢献していて、静かで異次元のパワーを秘めたスポーツサルーンとしての特性が際立つ。

    その乗り味は動き出す瞬間から始まる、分厚くて切れ目ないトルクに象徴されているのね。立ち上がりは鋭く、瞬間移動するような加速感に、もはや比べられるエンジンは存在しないって感じ。さらに超の付く低重心化がもたらすハンドリングの素晴らしさには、思わず絶句させられたんだ。

    タイカン ターボのスポーツ性能が最も際立つのは峠の上りで、ドライバーに息をつく暇も与えず、貪欲に頂上を目指してコーナーをクリアしていく。このヒルクライムにおけるタイカン ターボの走りは、最大出力に勝るスーパースポーツにさえ引導を渡すはず。

    電動化が引き出した、スポーツ性能の進化に驚く。

    タイカンはそのキャッチフレーズ通り、まさに「電動化された魂」であり、漫画『進撃の巨人』におけるトリガーである「壁の中の巨人」の始動にも似て、「敵いっこないわ……」と多くのペトロールヘッズ(ガソリンエンジン至上主義者)を絶望の底へと叩き落すに十分なのだ。

    そんなタイタンもといタイカンは(笑)、電動化によって、ポルシェがもともともっているスポーツ性能をより研ぎ澄ます進化を果たしたと言えるだろう。

    もとよりポルシェは、「ポルシェを着る」という言葉があるように、身体性の延長としてのクルマづくりを得意としてきた。4輪がしっかり路面を捉えるトルクベクタリングの精緻なマネジメントを進化させ、動力さえも電子制御することにより、エヴァンゲリオン風に言えば(クルマとドライバーの)「シンクロ率がより高まった」と感じられるんだ。そしてポルシェが先陣を切り、自信をもってEVスポーツを世に突きつけた理由は、そのシンクロ率の高さにあることが、すごくよくわかるのね。

    この一体感を象徴するのが、Eスポーツサウンドというタイカン独自のSFチックな疑似出力音。アクセルペダルの出力値を聴覚で認識させてくるので、迫りくるコーナーにひたすら没頭させてくれる。サウンドで高まる没入感とシンクロ率。「もうずっと上り坂だけでいい」と思えるほどですよ(笑)。しかし頂上にたどりつくと、ハタと気づかされるんだ。「これってゲームの熱狂と一緒じゃん!」ってね。

    将来的にサウンドを変えてジェットエンジンの音にすることも可能だろうし、ノイズキャンセリングで無音状態にすることも可能だろう。いっそ運転だって、ジョイスティックのコントローラーでこと足りるかもしれない。モニターで囲って、モルモットがクルマになった話題のアニメ『PUI PUI モルカー』の世界に改変することだって可能かもしれない(笑)。っていうか、おそらく可能ですよ。

    EVは、積極的にフィクションの世界に足を踏み入れているんだ。それもノンフィクションのリアルな手触りに少しずつフィクションを混ぜ込んで、新感覚のリアリティを獲得しようとしている。移動それ自体を除けば、VRが視覚で脳を錯覚させるフィクションとは反対の裾野から、同じ頂を目指しているとも言える。

    昨今の高級車はもちろん、ハイパワーなスポーツカーでさえ静音が施され、本来のエンジン音をアレンジしたフィクショナルな方向に向かっている。そのトレンドの先端にいるのは、現在のところ、「このタイカンに他ならない」と確信したんだ。

    とはいえ、賢明なビル・ゲイツにも見落としがあったかもしれない(笑)。買わない理由を見つけるのが難しいタイカンだけど、ダウンヒルはやっぱりエンジンの不在を痛切に感じるんだ。ブレーキングは、9割の制動力を回収するというアクセレーター(回生ブレーキ)が主役だから、よく効きはするもののポルシェの代名詞とも言える剃刀のような切れ味まではいかない。

    シフトワークを一切使用しないで、フットブレーキだけで坂を下る2.3トンのスポーツカーを想像してほしい。せめて回生ブレーキの強弱をパドルシフトで変えられるようにしてほしかったというのが実感なんだ。この時ばかりは内燃機関の咆哮とトランスミッションのアナログさが、恋しくてしかたなかった。爆発しつづけるエンジン。その熱い心臓の鼓動は、合理化が進む時代においても、魅力が消え去ることはない。そんなエンジンの個性が、よりいっそう明確になる時代が来たって気がするんだな。

    • タイカンはポルシェのエンブレムに描かれた馬の名前が由来。

    • 最大150kWを出力する急速充電スタンド「ポルシェターボチャージャー」という独自の充電網を整備。

    • タッチパネル化が進んだ近未来的なインテリア。

    • リアに加速効率を高める2段のシフトを備える。

    • ルーフからリアエンドのフライラインが美しい。

    • テールパイプはなくとも、一目でポルシェとわかる特徴的なデザイン。

    ポルシェ タイカン ターボ
    ●サイズ(全長×全幅×全高):4963×1966×1381㎜
    ●エンジン形式:永久磁石同期式モーター2基
    ●最大出力(オーバーブースト時):680PS
    ●最大航続距離:450㎞
    ●駆動方式:4WD(4輪駆動)
    ●車両価格:¥20,231,000(税込)~

    ●問い合わせ先/ポルシェ コンタクト
    TEL:0120-846-911
    www.porsche.co.jp