絶対に負けられない戦いにニューフェイスを投入!? 新型4シリーズは、新しいBMWクーペの序章になる。

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    東京車日記いっそこのままクルマれたい!

    第127回 BMW M440I XDRIVE COUPÉ / BMW M440i xドライブ クーペ

    絶対に負けられない戦いにニューフェイスを投入!? 新型4シリーズは、新しいBMWクーペの序章になる。

    構成・文:青木雄介

    編集者。長距離で大型トレーラーを運転していたハードコア・ドライバー。フットボールとヒップホップとラリーが好きで、愛車は峠仕様の1992年製シボレー カマロ改。手に入れて11年、買い替え願望が片時も頭を離れたことはない。

    新型4シリーズの4WD化された6気筒モデル。

    BMWクーペの真打ともいえる、新しい4シリーズに乗った。それも伝家の宝刀、直列6気筒モデル。新型は4ドアモデルである3シリーズとの差別化を図るため、シャシーを共有しながらも全長・全幅を拡幅し、エクステリアで新たな個性を見せた。その最たるポイントが、大きな反響を呼んでいるフロントのキドニー・グリルだ。

    「1930年代のスポーツカー、BMW 328にインスピレーションを受けた」とは言うものの、縦方向に長いこと以外に、意匠で似たところは見受けられない。従来のものと比較すると、大型化されたことに加え、グリル内はフィンからハニカムグリルに変更された。なんにせよ、このキドニー・グリルの大改変はBMWの歴史に刻まれる大事件と言えるはず。

    兄弟分の新型3シリーズと並べると、それがよくわかる。新しいキドニー・グリルは、BMWのお約束的な見慣れたソレとは一線を画す、ゲームチェンジャーの役割を果たしている。なぜ、このデザインが必要だったのか? 「売れるから」という判断とは別に、明確に2ドアの4シリーズと4ドアの3シリーズを別物にしたかったからなんだと思う(M3は同じ大型グリルになるけど)。

    まぁ、BMWとしてはさまざまな意図があるんだろうけど、BMWの新型クーペを乗り継いできたオーナーやファンはそうはいかない。「なにしてくれちゃってるの?」という、聖域を侵された怒りにも似た反応をしているのが手にとるようにわかる。これって、サッカー日本代表のユニフォームをめぐる賛否両論にそっくりなんだよね(笑)。2012年に、胸に赤い縦線(結束の一本線)を入れたユニフォームは、猛批判を浴びたけど、新しい監督の下で攻撃的サッカーに移行したことを示す必要なデザインだった。その批判でさえもある種の通過儀礼ってやつで。つくり手が「俺たちは変わるぞ」と言っても、受け手である思い入れの深い層は「そうはいかない」ってことはよくあるんだよね。

    個人的には、キドニー・グリルのリニューアルは大正解だったと思う。なぜなら新型4シリーズのみならず、BMWスポーツの走りを新しい解釈で表現し、従来のクーペの美しさに加えて、観る者を二度見させるようなエッジィを与えているからなんだ。うん。どこから見ても攻撃的。そもそも同じスポーツクーペでも、2ドアと4ドアではパーソナリティが全然違う。走りを愛するドライバーなら、2ドアクーペがやっぱり本命で、BMWにおいては歴史的に見ても「絶対に負けられない戦い」がそこにあるっていうヤツですよ(笑)。

    はい。そんな440i xドライブに乗ってみると、性能がよすぎて、上位モデルであるM4に乗るのが待ち遠しくなるスポーツクーペだった。でも街乗りで普段使いするなら、この直列6気筒モデルで十分すぎてお釣りがくる。普段は静かだけど、アクセルを踏み込むと自慢の直列6気筒が迫力のあるサウンドを聴かせてくれるでしょ。そこは387馬力、500ニュートンメートルの爆速クーペ。キレのある走りは、スマートなスポーツクーペを「毎日乗りたい」って諸兄にぴったりなんだ。

    リニアな操作感を残し、4WDへとアップデート

    走行モードでいうと、ドライバーの走行スタイルに応じてエンジンの出力量や足まわりを変える「アダプティブ」が最適なポジションで、クルーズ走行から追い越し時の胸のすく加速まで、BMWクーペの真打というところを見せてくれる。進化という点では、4WD化されても、BMWクーペの乗り味の上質さをきっちりアップデートしてきたって感じかな。その上で街乗りにも嬉しいリニアな操作感を実現している。控えめながらもエンジンの存在感が際立っていて、飽きのこない乗り味を追求してきた印象だね。

    特に足まわりは、速度や路面状況に合わせて硬さを変える、アダプティブMサスペンションの進化も大きく感じられた。BMWは純正でランフラットタイヤを履いているわけだけど、どうにもばね下重量が気になるし、サイドウォールの厚みで乗り心地も硬質になるのが特徴なのね。このランフラットタイヤの性質を抑えるように、ばね下重量を軽減し、入力に対して高い減衰力とスタビライザーによってフラットな乗り心地にしているんだな。

    たとえば首都高3号線下りの連続した段差って、大概の高級車は上屋にショックが伝わるんだけど、新型4シリーズのいなし方は見事だったね。将棋の棋士が駒を打つ時みたいに明確な音がするので、段差の存在は理解できる。音はすれども上屋は揺れず。このマナーがあらゆる速度帯で生きていて、素知らぬ顔をして仕事をこなす職人みたいなのね。すごいクールだな、と。

    それと特徴的なのはステアリング。最適化されたサーボトロニック付きのバリアブルスポーツステアリングが、高速や街中では文句なしの出来のよさなのね。このシステムは簡単に言うと、ステアリングの重さや切れ角を速度やコーナリングで可変させることで、低速では扱いやすく、コーナーでは機敏なステアリングを演出する。

    昨今のBMWがご執心のスポーツステアリングなんだけど、スポーツモードで峠を攻めてみると、舵角の少ない操舵感には「慣れが必要」と感じられるんだ。X6 MのようなSUVではありがたく感じた、先んじてアンダーを出さないステアリングがスポーツクーペだと妙に気になる……。まぁ、M4のようにサーキットで限界走行を試す人はいないと思うし、起伏のある連続コーナーとかはむしろ、機敏な操作感がバチっとハマるからね。このスポーツモードは乗り手の好み次第なのかも。

    ただ、これってすごく示唆的で、上位モデルのM4の走りを予感させもする。M4にはM8と同じくFR(後輪駆動)モードが搭載される。M8のスポーツ4WDモードはトラクションコントロールの冴えを感じこそすれ、今回乗った4シリーズのように舵角が絞られる感覚はなかったから、M4もおそらく一緒なのだろう。ということは、少ない舵角で曲がるシビアなステアリング特性は、FRモード非搭載の4WD車の特徴と言える。FRモードがあれば、アンダーを出さない運転特性はカバーできるからね。

    なるほど。FRモードという大技使いの上位モデル。4シリーズで満足とは言わせない、MがMである理由はこんなところに隠されている。440iとの違いを、新型M4に早く乗って比べてみたいね。

    • フルデジタルのメーターパネル。高速道路渋滞時ハンズオフ機能やリバースアシストなど先進のドライブ支援機能が満載。

    • Mモデルのみに使用される新感覚のアルミニウムテトラゴン・トリム。

    • ドア、ハンドル、ウェルカム・ライト・カーペットなど多彩なアンビエントライトで夜のドライブを演出する。

    • 2ドアならではの流麗なラインで、美しい佇まいに目を奪われる。

    • スポイラーやエプロンでMシリーズのスポーティさを醸し出す。

    • リアビューはフロントとは対照的にオーソドックスな印象に。

    BMW M440i xドライブ クーペ
    ●サイズ(全長×全幅×全高):4775×1850×1395㎜
    ●エンジン形式:直列6気筒DOHCターボ
    ●排気量:2997㏄
    ●最高出力:387PS / 5800rpm
    ●駆動方式:4WD(フロントエンジン4輪駆動)
    ●車両価格:¥10,250,000(税込)~

    ●問い合わせ先/BMWカスタマー・インタラクション・センター
    TEL:0120-269-437
    www.bmw.co.jp