東京車日記 いっそこのままクルマれたい! 特別番外地

そのローアングルに感傷なし

青木佐内さん、最近興味のあるクルマはありますか?

佐内ないね。ただ最近、映画の寅さんとか観ていて、いまとは全然クルマが違うでしょ。クルマを見て、はっきり「昔だな」とは思う。クルマが違うことで昭和の時代を感じるかな。そういう興味はある。

青木ああ、クルマで時代を感じるっていうことか。

佐内うん。下町とかさ、商店街とかまだ旧いビルが残ってるところとかはあるじゃない。でもクルマは残っていないからね。

青木旧車ファンは結構多いけど、現在の東京の街の風景ではないからね。

佐内いつも東京は撮ってるからさ。旧い商店街はあるけど、クルマだけがないんだよね。だからクルマに時代を感じるんだと思う。80年代のスターレットとかファミリアとかはいまでもたまに見るかな。フェンダーミラーからドアミラーに変わる頃かな。ま、単純に旧いって思うだけの話だよ。「旧い」って感じるのがクルマかな。

青木佐内さんは「懐かしい」って方向にはいかないんだろうな。冷静に見てるからな。

佐内冷静っていうかね。「夢を追う旅人」ってエレカシのジャケ写を最近撮ったんだけど、「感傷を写したくないな」っていうのがすごくあった。写真ってやっぱり感傷が写るからね。『赤車』も感傷がないのよ。感傷って、なにかの隙間に入ってくる時がある。仕事でミスするみたいな感じで。そこにつけ入れられるって感じで入ってくる。『俺の車』はちょっとあるじゃない?

青木あるある。確かに。そこがいいんだけどね。宮本さんの写真いいじゃないですか。

佐内ローアングルなんだよ。

青木うはははは。本当だ。そう。クルマもローアングルがいいよ。やっぱり基本。

佐内ローアングルは感傷に繋がらないんだよ。『赤車』もローアングルじゃん。

青木確かに! おっしゃる通り。

佐内青木くんのクルマもあのカーボンのボンネット以外は、ほぼローアングルで撮ったんだけど、ただあんまり下げ過ぎるとクルマが派手だから、バカみたいになっちゃうんだよね。でもそこは少しだけ品をあげたよ。

青木うははは。ありがとう。でもいま俺、ゾクっとしたよね。確かにローアングルは感傷がないね。

佐内『俺の車』は感傷的なところがあるよね。でも『赤車』は全然なくてさ、たとえばこの宮本さんと『赤車』の写真が並んでても、おかしくないでしょう。それを最近気づいたんだ。ローアングルは腰を落として撮るからね。いつも見ない目線、自分の身長で見てる風景とか歩いて見ている視線で撮ると、ちょっと感傷が入るんだよね。『俺の車』は逆に写真の感傷を入れないとってところがあった。ギリギリのところだけどね。撮るっていうより、愛情みたいなものを撮りたかったんだよね。『赤車』のほうはクルマを買った時から思ってたんだけど、GT-Rってモンスターみたいなクルマで、エネルギーの塊みたいでさ。引きで撮ると、それがよくわからなかったんだよ。写真の感傷よりもエネルギーに行きたくなったんだよね。そのことを、宮本さんを撮ってる時に思い出したんだよね。