東京車日記 いっそこのままクルマれたい! 特別番外地
『俺の車』と写真関係
青木『俺の車』ってさ。俺にとっては衝撃的で、これまでのクルマの写真とは全然違ってたんだよね。車って7:3(横7前3の割合)で撮るとかさ、撮り方のセオリーってあるじゃない?
佐内雑誌とか広告のヤツ?
青木そうそう。あの撮り方が全てだともともと自分の頭が毒されていたところがあって、佐内さんの『俺の車』もそうなんだけど、正確に言うと俺のクルマじゃなくてね。誰か人物の撮影したときにベタで1カット、黄色いスカイラインを撮ったカットがあったんだ。それ見た瞬間に「ウォォォ」って思ってさ、「こんなクルマの写真は初めて見た」って思ったんだよね。だって人物を撮ってるんだから、黄色いクルマを撮る理由はないじゃない? もちろんなにかを説明しようとして撮っているんじゃない。でも世の中に蔓延してるクルマの写真って「クルマのなにか」を撮ろうとして撮っている写真なんだよね。正面撮ったから後も撮りますっていうかさ。佐内さんのクルマの写真には、それがない。でもクルマとの関係性は写ってたんだよ。
佐内ああ。グラビアみたいなものかもね。もっと目を大きく写るように撮ってくださいとか、お尻はプルンプルンで撮るみたいなさ。
青木そうそう。ものすごく強調するでしょう。プルンプルンで。
佐内あれはいいよね(笑)。
青木もちろんいいんだよ。
佐内あれさ、俺は撮れない。カタチと強調っていうか。グラビアもそうだし、建築写真もそう。そういう職人さんがいるんだよ。
青木プルンプルン職人だ。
佐内建築だったらカチンカチンに撮るんだよ(笑)。直線をね、カッチリ撮る。俺の真木よう子さん撮った写真見たら、『俺の車』と同じ衝撃が走ると思うよ。見たことのない真木さんがそこにはいるはず。
青木さすがですね。(掲載された『文春』を見ながら)なんだろう、この写真力。宮本さんしかり、真木さんしかり。佐内さんに撮られるから、こういう表情になるんだと思うよ。ここまで少なからず佐内さんと編集の仕事でやってきてて思うんだけど、被写体との関係性がちゃんと写り込んでるよね。佐内さんの写真は。 佐内写真関係だと思うけどね。写真があって、初めて生まれる関係性かな。 青木撮る、撮られるっていう関係ね。
写真は時を止める神聖な仕事
佐内うん。それはね、モノにもある。人だから生まれるんじゃないよ。気持ちのことを言ったら、写真はなくていいわけだからさ。話を戻すけれど、マグカップを撮るとするじゃない? でもそこに俺の気持ちは入れない。それをやると仕事に隙が生まれるから。感傷が生まれるって隙ができることじゃない? だから「中学のときに買った俺のマグカップなんだよ、懐かしい感じで撮らなきゃ」とかやると写真に隙が生まれちゃうんだよ。俺の仕事は時を止める神聖な仕事なんで、そこに甘さとかを入れちゃうと写真に失礼じゃん。そういうことだよ。あと長く付き合ったりすると、別れちゃったりするじゃん。
青木なんの話ですか?(笑)。それ。 長く付き合ったりすると情が生まれちゃったりってね。その情と、この情はまったく違うんじゃない?
佐内まったく一緒でしょう。異性に情なんて移してる場合じゃないでしょう。
青木えええ。マジっすか。。。
佐内向こうに失礼だよ。まず見返りを求めないことだよ。あははは。
青木それ、もうちょっと詳しく聞かせてもらえますか。異性に情をもっちゃダメなんだ。
佐内ダメ。写真も撮っちゃダメ。写真を撮ると感傷につながる可能性が高いでしょう。なるべく撮らない。一緒になにかしちゃいけない。
青木マジで?
佐内うーん。食事ぐらいならいいかな(笑)。あと2、3の会話。それ以上、なんもないよ。
青木ちょっとわからないわ。わからない。
佐内半分は本気で半分は冗談だけれど、結局は必ず別れるんだよ。死別するからね。そういう意味。俺は死別する前提で付き合うからさ。写真はそういう仕事だから、そうなっちゃうんだよ。撮って過去にするってことだから。バシバシ過去にしていくんだよ。すごくそういうところがある。写真って言葉を語らないしね。映像みたいに音楽もないし。写真は撮ってそれで終わりだからね。クルマの写真を撮るにしろ、神聖な気持ちで撮っているよ。だからこっちは心の隙をもたないように、バシッと撮らなきゃいけない。俺はその一瞬はガシッとしているよ。後はでろでろってしてるけど。
青木それはわかるよね。
佐内銃を撃つのと一緒だよ。殺す。過去にする。そこに間違いがあっちゃいけないじゃん。一発で仕留める。でも一発だけだと悟りになっちゃうんだ。これは矛盾した話なんだけど、そこを突きつめていくと重くなっちゃうんだ。
青木それはわかるよね。写真がね。
佐内だからわざと何枚も何枚も撮ったりするよ。でも基本は一発で仕留める。でも最近は、セレクトも撮影もみんなの意見を聞きながらしているよ。20年前の写真をはじめた頃は一撃士だったんだよ。誰にも相談しない。でも遊びがなさすぎてやっていけなくなっちゃってさ。「怖い」とか言われてさ。そんなのだったら女の子は撮れないじゃん。
青木写真はあんなにきれいなのにね(笑)。それは怖がられるよね。
佐内撮られる女の子はみんな顔がひきつってたよ(笑)。これはやばいって。だからみんなの意見を聞くようになった。写真の撮り方、基本的な被写体への対峙の仕方は変わらないんだけど、突きつめると他人に迷惑をかけちゃう気がする。
青木なんでだろう。
佐内わからない。ただそこにはまずオンオフがなくなってきちゃうの。まぁ、とにかく写真を撮ることで生まれた思想みたいなものは、普段の俺よりも未来に向かっていて大人なのよ。カメラって大人。だからそんな大人の意見を参考にしているってことかな。そうやって撮影しながら教わることってあるんだよ。