世界的に続くジャパニーズウイスキーブームのなかで、とりわけ大きな飛躍を遂げ注目されているのが「竹鶴ピュアモルト」だ。改めてその歴史を振り返るとともに、「竹鶴ピュアモルト」の味わいの魅力やニッカウヰスキーに流れるDNAをウイスキージャーナリスト西田嘉孝が解説する。
日本中を熱くした“マッサン”の物語
1983年のピークから2000年代の初めまで、販売量ベースで約1/6まで落ち込むなど、日本のウイスキー市場は長い低迷期にあった。その後のハイボールブームの到来で復活の兆しを見せていたウイスキー人気を、ジャパニーズウイスキーブームにまで押し上げる大きな要因となったのがNHKの連続テレビ小説「マッサン」だ。
2014年9月29日から15年3月28日まで、全150回にわたり放送された「マッサン」では、ニッカウヰスキーの創業者である竹鶴政孝とスコットランド人のリタ夫人をモデルに、日本のウイスキー黎明期の模様がドラマチックに描かれた。ちなみに現在、ちょうど放送中で、劇中では主人公の雅春が鴨居商店の大将である鴨居欣次郎の命を受け、日本初の本格ウイスキー蒸溜所建設に向けて動き出しているところだ。
ドラマでは史実を基にフィクションが巧妙に織り交ぜられているが、多くの視聴者の心を打った「困難に打ち勝ち本物を追求する」というマッサンの姿勢は、後に“日本のウイスキーの父”と呼ばれることになる竹鶴がまさに体現したもの。
1918年に単身スコットランドへと渡り、当時は門外不出とされたスコッチウイスキーの製法を、日本人として初めて学び、我が国へと持ち帰った。そんな竹鶴が1934年に創業したのが現在のニッカウヰスキー(当時は大日本果汁株式会社)であり、いまや多くの人々に知られる“創業者の物語”は同社にとっての大きな財産となっている。そしてもちろん竹鶴の精神は、いまもなおウイスキーづくりの現場に深く息づいている。
---fadeinPager---
創業90周年を迎え、世界を見据えた新たな挑戦へ



冬の寒さが厳しい北の大地に立つ「北海道 余市蒸溜所」(上)と、緑豊かな北杜の森の中に立つ宮城県の「仙台 宮城峡蒸溜所」。それぞれのテロワールを反映した個性豊かなモルトウイスキーが造られている。
ニッカウヰスキーでは創業90周年を迎えた2024年に、新たなコミュニケーションコンセプト「生きるを愉しむウイスキー」を策定した。かつて竹鶴が「英国人がウイスキー相手にじっくり生(いきる)を愉しむように、酔うためでなく愉しむために飲んでほしい」と願った想いを、現代のライフスタイルに合わせて再定義したものだ。
さらに同年には、プレミアムウイスキーカテゴリ(参考小売価格2000円以上、容量700ml)でグローバルトップ10入りを目指すという意欲的な目標も発表。同カテゴリの新製品として発売された「ニッカ フロンティア」が国内で大きな反響を呼び、今春からは韓国やフランスへの輸出もスタートした。
マッサンで火がついたウイスキーブーム以降、深刻化していた原酒不足の解消にも急ピッチで取り組む。同社では原酒の安定供給を目指して、24年には約60億円を投じ、栃木工場(栃木エイジングセラー)での貯蔵庫新設や北海道 余市蒸溜所・宮城県の仙台 宮城峡蒸溜所でのさらなる設備増強を実施。昨年にも約70億円を投じ、余市蒸溜所での製樽棟や高層貯蔵庫、混和棟などの新たな建設を開始した。余市蒸溜所での投資により、ニッカウヰスキーの27年以降の貯蔵能力は24年比で約1割増、15年比で約5割増となる見込みだ。
---fadeinPager---
余市と宮城峡、旗艦ブランド「竹鶴」に宿るふたつの蒸溜所の魂
次の100年に向けて歩みを進めるニッカウヰスキー。同社の旗艦ブランドとして、次なる時代への歩みの道標となるのも「竹鶴ピュアモルト」だ。
「当社には多くの製品があり、特に海外市場では『フロム・ザ・バレル』や『ニッカ カフェグレーン』といった製品が人気を博しています。そうした中で『竹鶴ピュアモルト』を改めて旗艦ブランドに据えたのは、創業者の物語や余市と宮城峡というふたつの対照的な蒸溜所の個性など、ニッカウヰスキーの語るべきストーリーが詰まった製品だからです」
そう話すのは、同社マーケティング部ブランドマネージャーの織田大原希美だ。


創業者の名を冠した「竹鶴ピュアモルト」は、ニッカウヰスキーの第一号ウイスキー発売から60年後の2000年に発売されたピュアモルトウイスキー。竹鶴政孝が遺した余市蒸溜所と宮城峡蒸溜所でつくられるモルトウイスキー原酒のみを使い、シングルモルトの個性とブレンデッドウイスキーを凌ぐ繊細でバランスのよい味わいを実現した。モルトウイスキーとグレーンウイスキーを混和するブレンデッドウイスキーに対し、モルトウイスキーのみを使うからピュアモルト。現在の一般的な呼称を使えば、いわゆるブレンデッドモルトウイスキーだ。
かつては「12年」「17年」「21年」「25年」といった年数表記物があり、世界的な酒類コンペティションでは常に高い評価を受けてきた。現在は年数表記のない「竹鶴ピュアモルト」のみがリリースされるが、同製品も2023年のWWA(ワールドウイスキーアワード)でカテゴリ世界最高賞となる“ワールド・ベスト・ブレンデッドモルトウイスキー”を受賞。昨年12月には東京・神楽坂のTRUNK(HOUSE)を舞台に期間限定バー「The TAKETSURU experience」をオープン。「竹鶴ピュアモルト」の魅力を五感で堪能できるイベントで好評を博した。


ストレートはもちろん水割りやお湯割り、ハイボールなど、度数や温度帯を変えることでさまざまな表情を見せる、そんな「竹鶴ピュアモルト」の懐の深い味わいを生み出すのが、潮の香りを纏ったピーティさを特徴とする重厚な余市モルトと、やわらかく華やかでフルーティな個性を持つ宮城峡モルト。
「まったく個性が異なるふたつの蒸溜所のモルト原酒を見事に調和させ、繊細でスムースな飲み心地を実現する卓越したブレンディングの技術。それもまた、創業者の時代から受け継がれてきたニッカウヰスキーの伝統です」
織田大原がそう語るブレンディングの凄みは、「竹鶴ピュアモルト」の繊細で深い香味にも表現されるが、「シングルモルト余市」や「シングルモルト宮城峡」を並べて飲めばよりよくわかる。
スコットランドに似た冷涼かつ湿潤な気候風土や風景を有し、かつてはピートや大麦、燃料となる石炭までが豊富に揃ったウイスキーづくりの理想郷──そんな北の大地に立つ余市蒸溜所では、いまや世界でも希少と言われている石炭直火蒸溜でのウイスキーづくりが行われる。一方の宮城峡蒸溜所があるのは、余市とは一線を画す味わいのウイスキーを目指してたどり着いた仙台の森。海の近くにある余市に対して宮城峡は緑深い森の渓谷に位置し、蒸溜器のサイズや形状、加熱方式など、ふたつの蒸溜所ではあらゆる点が対照的で、それぞれの個性を生んでいる。


---fadeinPager---
世界を魅了する“イノベーティブ”で“クール”なニッカ
本場のスコッチウイスキーと同様に、多様な蒸溜所のモルトウイスキー原酒やグレーンウイスキー原酒を使い、より味わい深く豊かなウイスキーをつくりたい。それは創業者・竹鶴の宿願であり、宮城峡蒸溜所では伝統的かつ希少な旧式のカフェスチル(カフェ式連続式蒸溜機)を使ったグレーンウイスキーの製造も行われる。
ニッカウヰスキーでは、そんなカフェスチルを使った「ニッカ カフェグレーン」を2012年に欧州限定で先行発売。原料由来の甘味が残る革新的なグレーンウイスキーは、最小限の加水に留めた濃厚な味わいで人気を博す「フロム・ザ・バレル」とともに、海外のトップバーテンダーなどから大きな支持を集めている。
また、欧米を舞台とするバーテンダーコンペティション「ニッカ・パーフェクト・サーヴ」を2010年から毎年開催するほか、バー業界で大きな影響力を持つ「The World's 50 Best Bars」や「Asia's 50 Best Bars」ともパートナーシップを結ぶ。昨今の世界的なバーカルチャーの隆盛にもひと役買った取り組みは、世界のトップバーなどでのニッカウヰスキーへの圧倒的な信頼につながっている。その経緯を織田大原が説明する。
「パーフェクトサーヴの2025年大会では、オーストラリアのバーで働く日本人バーテンダーが優勝し、初めて日本人のチャンピオンが誕生しました。また「50 Best Bars」とはスタート時から長年にわたってパートナーシップを結んできました。そうした取り組みもあり、海外では“イノベーティブ”や“クール”“スタイリッシュ”といったイメージがニッカウヰスキーには定着しています。また、ブランドのストーリーテリングなど、地道な活動の成果もあり、ニッカウヰスキーというブランドに共鳴してくださるファンの方も増えています」
90年という長い歴史を持つニッカウヰスキーには、日本の飲み手からすれば「伝統」や「信頼」といったイメージがぴたりとくる。そこに世界を魅了する「革新」や「クール」といった新たなイメージを、いかにして融合させていくか。「竹鶴ピュアモルト」とともに歩む次なる100年へ。90年の歴史の重みを、現代の「愉しみ」へと軽やかに転換していく試みが、これからのニッカウヰスキーの新たな物語を生み出していくのだろう。

西田嘉孝
ウイスキージャーナリスト
ウイスキー専門誌『Whisky Galore』 やPenをはじめとするライフスタイル誌、ウェブメディアなどで執筆。2019年からスタートしたTWSC(東京ウイスキー&スピリッツコンペティション)では審査員も務める。
ニッカウヰスキー
TEL:0120-019-993
www.nikka.com
