ジャガー・ルクルトの新CEOが語る、マニュファクチュールの真髄

  • 文:柴田 充
  • 写真:渡邉宏樹(LATERNE)
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レベルソ・ハイブリス・アーティスティカ・キャリバー179/グランドメゾンの特徴である多軸トゥールビヨンと最高峰の装飾技術を融合し、ボールベアリングのリングで支えられたフライング・ジャイロトゥールビヨンを文字盤の表裏から見ることができる。手巻き、18KPGケース、ケース径51.1×31㎜、パワーリザーブ約40時間、アリゲーターストラップ、3気圧防水、世界限定10本。¥102,960,000(参考価格)

かつてジャガー・ルクルトを率いた時計業界のキーパーソン、ジェローム・ランベールが再びメゾンに戻ってきた。190年以上の歴史を誇り、スイス時計産業の発展とともに歩む真のマニュファクチュールの価値をいかに研ぎ済ませるか。就任から1年、Pen本誌の独占インタビューでこの1年を振り返るるともに、未来への展望を語った。

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ジェローム・ランベール●1969年、スイス生まれ。1996年にジャガー・ルクルトに入社、2002〜13年まで同社のCEOを務める。その後、モンブランのCEOやリシュモン・グループ執行役員を歴任し、18〜24年までリシュモングループのCEOも務めた。25年1月よりジャガー・ルクルトのCEOに復帰。豊富な経験をブランド戦略に活かすとともに、まさに「原点に戻る」。

グループのCEOも歴任し、外部から俯瞰することで得た新たな視点

昨年パリ万博開催から100周年の節目を迎え、当時のアールデコ様式を纏う「レベルソ」が「1931ポロクラブ」と銘打ち、起源となったポロの世界にオマージュを捧げた。数多くの傑作が発表され、「レベルソ」の魅力をさらに広げたのである。これを陣頭指揮したのが新CEOのジェローム・ランベールだ。

ランベールは、2002年にジャガー・ルクルトのCEOに就任し、2013年までメゾンを率い、モンブランやA.ランゲ&ゾーネのCEOからリシュモングループのCEOも務めた辣腕であり、メゾンのさらなる成長に期待がかかる。特に近年のジャガー・ルクルトは、傑出した自社ムーブメントに加え、デザインの洗練を増す。12年ぶりに復帰したメゾンはどのように映ったのだろうか。

「かつてジャガー・ルクルトの責任者として、歴史や技術に深く関わってきましたが、外部から観察することで新たな視点を得ることができました。現在、アトリエは82種類の専門分野に分かれ、さらに235の専門技術が存在します。そのうち、69の専門技術は私たち独自のものです。そこからムーブメントやコレクションの多様性が生まれます。重要なことは、たとえメカニズムや装飾、価格が異なっていても、求める水準はすべて一律であるということ。すべてに妥協のない時計づくりを追求しているのです」

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レベルソ・トリビュート・ミニッツリピーター/レベルソのミニッツリピーターは1994年に登場し、新作も多くの特許を取得する。バーレイシードパターンのギョーシェ彫りとスケルトン文字盤のコントラストも美しい。手巻き、18KPGケース、ケースサイズ51.1×31㎜、パワーリザーブ約48時間、アリゲーターストラップ、3気圧防水、世界限定30本。¥54,560,000(参考価格)

230を超える専門技術には現在使っていないものもある。だが将来的に必要になった時のため、維持しなくてはいけない。それが自社一環製造するマニュファクチュールの責任だからだ。それは社内にいた頃は普通のことと思っていたが、離れてみて改めてその価値を知ったというランベールCEO。「100種類以上のムーブメントを現行で使える時計ブランドがいくつあると思いますか?」と笑う。そして開発の牽引役になっているのが日本人設計師の浜口尚大だ。

「浜口氏が加わってからは、メカのデザインの配置や設計が変化していると感じます。マニファクチュールとしてのDNAは非常に強力で、その軸があるからこそ制約のない開発意欲が湧くのでしょう。いつも新しいものに挑み、歴史的な設計にさらに美しさを加えることから、私たちは彼をアーティストと呼んでいるんですよ」

それは2本の新作「レベルソ・トリビュート」を見ても明らかだ。独創的な反転ケースによって、表裏の文字盤に装飾性や付加機能を備えて進化を続ける。ミニッツリピーターやワールドタイマーという複雑機構を搭載し、エレガントな審美性と卓越した機能が渾然一体となり、確実にレベルソが次世代へと歩みを進めたことを感じさせるのだ。

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レベルソ・トリビュート・ジオグラフィーク/2枚のディスクからなるユニークなグランドデイト機構を備え、裏面にはワールドタイムを備える。レリーフ状のマップディスクは、141個の窪みに手作業でラッカー塗装を施す。手巻き、SSケース、ケースサイズ49.4×29.9㎜、パワーリザーブ約42時間、カーフストラップ(交換可能な同色のキャンバス×カーフストラップが付属)、3気圧防水。¥3,388,000

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少量多品種展開を可能にする、グランドメゾンの強み

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マスター・コントロール・クラシック/搭載する薄型ムーブメント「Cal.899」は、約20年前の誕生から熟成を重ね、2020年にはシリコン製脱進機や香箱の見直しによって駆動時間はそれまでの約40時間から約70時間に向上している。自動巻き、SSケース、ケース径36㎜、パワーリザーブ約70時間、オーストリッチストラップ、5気圧防水。¥1,337,600

マニュファクチュールの醍醐味はコンプリケーションにあるとランベールは言う。

「ムーブメントの開発は、ゼロから始めると最低でも3年から5年、しかも1000万ユーロ(約18億円)もの投資が必要となります。現在そのような投資を行い、時間をかけてリスクを追うマニュファクチュールは少ないでしょう。しかし、当社は歴史的にあらゆる技術とコンプリケーションを既に保有しています。パーぺチャルカレンダー、トゥールビヨン、ミニッツリピーターなどさまざまなコンプリケーションを開発し、豊富なムーブメントを保有していることが、外部から見た際にメゾンの大きな強みであると実感しました」

しかしマニュファクチュールの真価はそればかりではない、と言葉を続ける。その証左となるのが新作「マスター・コントロール・クラシック」だ。

1995年に登場した丸形ケースは、角形の「レベルソ」と並び、人気の双璧をなす。存在感ある時分のドーフィン針と3カ所の数字と楔形インデックスを構えた、まさにタイムレスな佇まいだ。1995年の初代オリジナルは34㎜で登場し、現行モデルの主流は40㎜径であるのに対し、新作はより現代的な36㎜ケースを採用した。ではなぜこれがマニュファクチュールの強みなのか。ランベールは言う。

「それはこれを500本限定にしたことです。たとえばモデルのバリエーションが限られたブランドでは、それを継続的につくり続けて減価償却させなければなりません。しかし、私たちには過去の豊富なモデルがあり、ケースも自社で製造し、すべて白紙から製品を開発できる体制を整えています。その上で、今回は500本の生産で十分と判断しました。大量生産をすることなく、希少価値は顧客の満足度を上げるでしょう。それは、高額なコンプリケーションだけなく、こうしたステンレス・スチールケースのベーシックモデルでも変わらないのです。期待を裏切らず、所有してよかったと感じていただきたい。それを決して裏切ることがないよう、500本限定にはこだわっています。少量多品種で常に新しいものを発表し、愛好家を飽きさせないということでは三つ星レストランのシェフと同じかもしれせんね」

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ケース厚は8.15㎜に抑え、心地よいフィット感が味わえる。ブルーの秒針は、先端を曲げて視認性と質感も高い。リュウズはやや大きめで、確実に巻き上げや時刻合わせができる。
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ケースバックには、1990年代のオリジナルのメダリオンデザインから着想を得た「1000時間コントロール」認証のエンブレムがあしらわれている。精度と堅牢、品質の証しだ。

「マスター・コントロール・クラシック」を手にするとそのほどよいサイズ感の虜になる。マスター・コントロールは、1992年に導入された独自の自社品質規格「1000時間コントロールテスト」を認証したモデルとして誕生した。それは精度と品質の象徴であり、視認性の高いドーフィン針や堅牢な大径リュウズにも信頼感が伝わってくる。長く使い続けることで充足感は増す。これこそがマニュファクチュールの真髄なのだろう。

「歴史あるメゾンとしては、ただの過去の遺産だけでは安穏としていられません。よりダイナミックなアプローチで若い世代に訴求することが不可欠であると考えます。それも木にたとえたら、枝にたくさんの果物が実っていて、好きな果物を選ぶことができるようなものです。それを強みとして展開していきたいですね」

ジャガー・ルクルト

TEL:0120-79-1833
www.jaeger-lecoultre.com

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