【アートブック書店8選】新刊から稀少な古書まで、個性派ショップを厳選

  • 編集&文:谷田部 凱
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時代を超えて人々を感動させる力を持つアートブックの数々。新たな表現の境地をひらく新刊から、名作と呼ばれる貴重な古書まで、独自のセレクトで本と向き合う書店を紹介しよう。

自由かつ多彩な表現をかたちにしたアートブックがいま、面白い。本特集では、数々の傑作をたどりながら、つくり手たちの言葉を紐解き、さまざまなアートブックに出合える書店やフェアまで網羅した。自分だけの一冊を見つけ、奥深いアートブックの世界をともに語り尽くそう。

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デザイナーごとに並ぶ棚は、アイデアの宝庫

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書店スペースのほかに、ギャラリースペースも併設。注目のブックデザイナーの個展を中心に、アート、骨董、植物など、多様なジャンルの企画展を不定期で開催。関連したゲストを招きレクチャーなども実施する。© Leo Arimoto(グラフィックデサイナー藤田 裕美による企画展)

2025年2月、虎ノ門にオープンした古書店「タイガーマウンテン」。土地の名にちなんで、店名やロゴに「虎」を取り入れたユニークなショップだ。ギャラリーを併設し、アートな空気が流れる店内で特筆すべきは、デザイナーや装丁家ごとに書棚を構成している点。それぞれの棚には解説文を収録したポップも設置されており、訪れる人の探究心を駆り立てる心配りが感じられる。さらに学生証の提示で価格が2割引きになるなど、本を介して文化を広げる仕掛けもある。現代的なセンスでセレクトされた古書群は、なにげない日常のひとコマに、新しい気づきをもたらしてくれるだろう。

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横尾忠則、杉浦康平、平野甲賀、真鍋博をはじめとする、約100人のデザイナーで書棚を構成。© Leo Arimoto

タイガーマウンテン
住所:東京都港区虎ノ門3-7-5 虎ノ門Roots21ビル1F
営業時間:13時〜20時(水〜土) 13時〜18時(日)
定休日:月・火・祝  
Instagram:@tigermountain_books

タイポグラフィを軸に、デザイン書が充実

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2階では、月替わりで写真やグラフィックなどの展示を開催。本とアートが調和する空間が広がっている。

学芸大学の落ち着いた街並みに店を構える「ブック アンド サンズ」。ウェブを中心に活動するデザイン会社、フルサイズイメージの代表であり店主の川田 修が独自にデザイン書を探し、買い集めてきたコレクションから生まれた書店だ。タイポグラフィを軸に、グラフィックデザインや写真集などの新刊が8割、古書が2割。デザイナーやクリエイターなど、ものづくりに携わる人々から熱い支持を集めるショップだ。

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漆喰の壁が印象的なミニマルなファサードの奥には、書店、コーヒースタンド、ギャラリーが併設されている。閑静な住宅街で、アートブックとおいしいコーヒーを手に、穏やかな時間がゆったりと流れる。

ブック アンド サンズ
住所:東京都目黒区鷹番2-13-3 キャトル鷹番 
TEL:03-6451-0845
営業時間:12時〜19時 
定休日:水
https://bookandsons.com
Instagram:@bookandsons

 

路地裏で出合う、ジャンルを越えた800冊

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古くは文士が集い、“本のデルタ地帯”とも称された高円寺。駅の北口の路地裏に、小さな古書店「タタ」がひっそりと灯をともす。店主である石崎孝多の名の一字「多」を冠したこの店には、外観からは想像できないほど多彩なジャンルの古書・新刊が約800冊並ぶ。梯子を上って2階へ進むと、そこには小さなギャラリーが顔をのぞかせ、訪れる人の好奇心を刺激する。

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フランスの音響詩人・音楽家アンリ・ショパンによる作品(奥)をはじめ、店主と親交のある詩人の詩(手前左)、そして無名のアーティストによる一点もの(手前右)まで。有名無名を問わず、店主の確かな審美眼で選び抜かれた本が、時代を超えて棚に収められている。

タタ
住所:東京都杉並区高円寺北2-38-15 
TEL:03-6451-0845
営業時間:13時〜21時
定休日:月・火・水
https://tata-books.com
Instagram:@tata_bookshop

雑誌文化を育んだ、第一人者の思考にふれる

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デザイン集団CAPが運営する古書店「帽子堂」。その代表を務める藤本やすしは、雑誌『太陽』や『スタジオボイス』など、国内約100誌の雑誌のデザインに関わった経歴を持ち、日本の“雑誌デザイン界の父”とも謳われる存在だ。そんな彼のルーツを色濃く反映するように、店内には世界中の雑誌や美術書が蒐集されている。藤本の思考やクリエイティビティの源泉は、いま見ても新鮮なものばかりだ。

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1925〜73年にフランスで発行されていたメンズファッション誌『ADAM: La revue de l'homme』。世界各国のカルチャー誌をCAPの審美眼でセレクトしており、中には一冊数十万円におよぶ、ほかでは出合えないような希少な本が並ぶこともある。

帽子堂
住所:東京都港区南青山3-14-10 CapビルB1
TEL:03-5412-1811
営業時間:12時〜17時(木・土) 
※その他はInstagramで告知 
https://boushido.base.shop
Instagram:@boshido_3hats

ZINEカルチャーが息づく、代田橋の“小さな宝箱” 

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一般の書籍流通では入手しにくいインディペンデント作品やZINEが並び、つくり手の熱量がそのまま伝わってくる。つくり手や読者が気軽に立ち寄り、感性を分かち合う“交流の場”としても注目されている。

オンライン書店界隈で注目を集めていた「フロットサムブックス」。2020年に待望の実店舗を構えて以来、若い世代を中心に幅広い層から支持を得ている。6畳ほどのコンパクトな空間には、写真集やアート、ファッション関連書籍、そしてこの店の核でもあるZINEがぎゅっと詰まる。一般的な書店では出合えないような一冊を探す人にとって、まるで宝探しのような体験ができる。店主自ら企画する「zines tour」など、ZINEにまつわるトークショーなどのイベントも活発で、つくり手と読み手が交わるZINEカルチャーのハブとして、新たな盛り上がりを見せている。 

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閑静な住宅街で、コンパクトながらも独自の存在感を遺憾なく発揮する店舗。

フロットサムブックス
住所:東京都杉並区和泉1-10-7 
TEL:03-5376-9061
営業時間:14時〜20時
定休日:水 
www.flotsambooks.com
Instagram:@flotsambooks

レトロマンションの一室は、“感じる、考える人のための書店”

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大きな窓から心地よい光が入る明るい店内には、約4500冊の新刊書籍が並び、Tシャツやトートバッグなどのオリジナルアイテムも揃う。壁面にはイラストが描かれ、遊び心に満ちた空間が広がる。

「オンリーディング」の店主・黒田義隆は、生粋の愛書家だ。本への深い愛情から自身の出版レーベル「ELVIS PRESS」を立ち上げ、本店の運営をしながら、本づくりにまつわるプロジェクトにも携わり、手掛けた出版物は30作におよぶ。黒田が「世界を見る解像度を高め、多様な価値観を教えてくれる本を選びたい」と語るように、店内には新刊・古書を問わず、独自のセレクトで選ばれた一冊がきれいに並ぶ。書籍だけでなく、オリジナルグッズやイベントも展開しファンも多い。ごく平凡なレトロマンションの一室に、好奇心を駆り立てる空間が待っている。

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名古屋市の地下鉄東山線「東山公園」駅から徒歩1分。築50年以上のレトロマンションの一室にひっそりと佇み、静かな隠れ家感が魅力的だ。

オン リーディング
住所:愛知県名古屋市千種区東山通5-19 カメダビル2A&2B
TEL:052-789-0855
営業時間:12時〜20時
定休日:火
https://onreading.jp
Instagram:@on_reading

週末に開かれる、静謐な書斎

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オランダのアーティスト、マーク・マンダースをテーマにした展示。かつての木工所は、改装を経て店舗兼アトリエへと姿を変えた。木と光がやわらかく溶け合う空間に、本がアートピース のように置かれる。

店主は写真家の河野幸人。作家活動を続けながら、自ら「アイアック」を運営している。2017年、自身のアトリエとして、そして週末のみオープンし販売も行う書斎兼ギャラリーとしてスタートした。白を基調とした空間には静謐な空気が漂う。扱う本は、独立系出版社の写真集を中心にセレクト。「写真の視覚的な面白さや、本としてのデザイン要素だけでなく、一冊を通して展示を眺めるように楽しめる本を選んでいる」と話す河野。画廊のような空間では、写真展のほか、特定のアーティストに焦点を当てた展示、トークイベントなども不定期で開催されている。

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左:蛇腹の本はノルウェーの出版社「マルチプレス」から刊行された、アーティスト、マリケン・クラメによる120部限定の作品集。右:北陸の気鋭のオルタナティブスペースとして注目を集めている。

アイアック
住所:石川県金沢市高岡町18-3
定休日:不定休
www.iack.online
Instagram:@iack.studio

稀少本が並ぶ、西日本有数のビジュアルブック専門店

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天井までびっしりと本が積み上げられた書架には、日本では入手しにくい書籍やリトルプレスが豊富に揃う。すべて新刊で、ていねいに包装されており、大阪を訪れた際の贈り物選びにもお薦めの一軒だ。

大阪・本町の賑わいあるオフィス街の一角に店を構える「ブック オブ デイズ」は、アートブックや写真集を中心に、音楽系のDVDやCDも扱う新刊書店だ。西日本有数のビジュアルブック専門店として知られ、他県からわざわざ足を延ばすファンも多い。約5000冊の書籍がところ狭しと並ぶ店内には、世界中から集めた装丁にこだわった美しい本がラインアップされる。国内外のインディペンデントな作家やアーティストが手掛けたアートブックやZINE、貴重な展覧会カタログなど、ここでしか出合えない一冊に巡り合える場所だ。

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店主が世界中からセレクトした入手困難な写真集などが揃う。眺めているだけで、海外を旅しているような感覚になる。

 

ブック オブ デイズ
住所:大阪府大阪市西区阿波座1-10-2 ボンジュール阿波座202号
TEL:06-6599-8210
営業時間:11時〜17時(平日)、12時〜17時(土・祝) 
定休日:水・日
http://bookofdays-shop.com 

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