ヴァン クリーフ&アーペルは、「ポエトリー オブ タイム」という哲学のもと、独創的な時計制作で詩情あふれる物語を紡ぐ。そこには、時を超えた芸術性が息づく。
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前編:ふたりの愛から始まりパリのヴァンドーム広場で紡がれてきた、ヴァン クリーフ&アーペルの歴史を紐解く
後編:ヴァン クリーフ&アーペル独自の世界観で彩る、「ポエティック コンプリケーション」の創造性
ジュエリーから時計まで、作品の裏に一貫する詩的な「物語性」の重視
120年余にわたるメゾンのクリエイションの根底に貫かれるのは、愛や自然、天体の物語であり、それは不変の価値とともに美しく輝く。
若きふたりの結婚をきっかけにメゾンの歴史は始まり、愛はメゾンにとって常に大きなテーマであると同時に、インスピレーションの源となり、美しき創造性を豊かに育んできた。
ローマ神話の愛の守護神として世界中で知られるキューピッドを、ヴァン クリーフ&アーペルが初めてジュエリーのモチーフにしたのは1940年代のことだ。以降もラブバードやロミオ&ジュリエットといった愛のシンボルがジュエリーや時計を彩り、独自の物語を紡いでいく。
こうした物語性をより明確に打ち出したのが「ポエティック コンプリケーション」だ。2010年の「レディ アーペル ポン デ ザムルー ウォッチ」は、パリの橋の上での再会を待ち焦がれる様子から喜びまで、さまざまな感情が織りなす恋人たちの時を刻む。精緻な複雑機構とサヴォアフェールの装飾を注ぎつつ、そこでも最も重視されるのは物語にほかならない。
最新作の「レディ アーペル バル デ ザムルー オートマタ ウォッチ」ではふたりはさらに愛を育み、第二章を迎えた。愛の物語は不変であり、豊かな泉のように決して涸れることはない。だからこそメゾンのウォッチメイキングに新たな発想をもたらし、その根幹にあり続けるのである。
「愛」をテーマに制作された、ヴァン クリーフ&アーペルの代表的な作品
①愛のシンボルであるキューピッドがそっと囁く「スクレ デ ザムルー クリップ」
②創業者に敬意を込めたブライダルコレクション「エステル」
③向かい合って愛の絆をさえずる「ラブバード クリップ」
④永遠に愛し合うふたりのラブストーリーが蘇る「ロミオ&ジュリエット」
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ジュネーブの地で紡ぐ、ハイジュエリーで培った伝統と唯一無二の時計づくり
ジュエリーの本丸である創業地パリと並び、時計制作を担うのがジュネーブの工房だ。そこでは、パリのハイジュエラーとして培ったメティエダールと、スイスの伝統的なウォッチメイキングが融合する。研究開発のトップが語る、物語を紡ぐ時計とは?
「ポエティック コンプリケーション」が複雑機構であることに違いはない。だがコンプリケーションの原義である“複数の要素を一緒に折った”状態ではあっても、決して複雑さを感じさせず、見た目はむしろシンプルだ。そこにはサヴォアフェールとメティエダールが織りなし、詩情豊かな物語を紡ぐ。スイスのジュネーブにある工房こそ、その揺籃の地である。
「私たちが語りたいのは物語であり、複雑な機構についてではありません。開発もエンジニアリングから始めることはありませんし、技術や技法も物語を伝えるためにあり、よりシンプルに感動を生むための手段にすぎません」
研究開発責任者のライナー・ベルナールはそう語り、すべては物語から始まります、と続ける。
「私たちのまわりには、多彩な物語のモチーフがあり、たとえば週末、咲き誇る花に蝶が舞う様子を見た瞬間、思いつくこともあります。そのアイデアをスケッチに描き、制作チームやエンジニアと自由に話し合います。時にはうまく進まず、後戻りしたり、1年以上停滞することも。それでも心配することはありません。まずこの段階に時間をかけ、コンセプトが完璧であれば作業は簡単です。正しい調和や動き、美的感覚を得るために創造性が発揮されるのです」
スイスの伝統的なウォッチメイキングと融合する、ヴァンクリーフ&アーペルならではのメティエダール
①さらなる可能性を追求する「エナメル」
②熟練の手から生まれる「エングレービング」
③精細な筆で描く「ミニアチュール ペインティング」
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パリ郊外のダンスカフェへと舞台を移した最新作、「レディ アーペル バル デ ザムルー オートマタ ウォッチ」
2025年の最新作「レディ アーペル バル デ ザムルー オートマタ ウォッチ」では、前作「レディ アーペル ポン デ ザムルー ウォッチ」から15年を経た恋人たちの物語は、橋の上から屋外のダンスカフェへ。
「最初はただ手を伸ばし、直立状態で口づけするだけでした。ふたりの動きに感情を与え、流動性をより高めたいと考え、肩と腰に関節を入れ、腕や上半身のなめらかな動きを表現しました。それもちょっとした位置や角度の違いで、自然な生命感が宿るのです」
こうした動作を実現するため、当初、レバーやバネを用いたモジュール構造は複雑になり、部品点数も想定を超えた。数カ月の試作と改良を重ね、動作を制御する専用カムの開発や、遠心レギュレーターによってタイミングと速度を制御する機構を完成させた。
ムーブメントの組み立てチームには熟練の時計師が在籍し、試作開発も担当する。だがそれぞれの作業は隔てることなく、同じスペースで共存する。それも、試作と実際の製品の組み立てには、互いの技術やノウハウ、情報を共有することが大切であるからだ。
4年かけて開発したムーブメントに加え、物語を完成させるのがエナメル装飾だ。伝統的なグリザイユ エナメルに、ブラン ド リモージュとカラー グリザイユ エナメルを採用し、文字盤1枚に約45時間と12回の焼成を必要とする、まさにメティエダールである。
「私たちは現在15種類のエナメル技法を擁し、さらにその先を追求し、開発を続けています。それは技術に影響を与え、技術はメティエダールに影響を与える。すべてつながっているのです」
明かりが灯り始めたパリの街を、濃いネイビーブルーに濃淡の異なるブルーのグラデーションで表現する。グラデーションのトーンも繊細ゆえに、ひとりのエナメル技術者が責任を持って1枚の文字盤を仕上げる。すべてがユニークピースということだ。
「私にとってメティエダールとはアルファベットのようなもので、それらを使って言葉をつくり、詩をつくる。組み合わせはまさに無限。それでも時には限界を感じることもあります。でもその時は欠けていた文字を生み出し、詩に必要な美しい言葉をつくるのです」
そして、「みなさんが思っているほど私たちの時計づくりは組織化されていないのですよ」と微笑む。パターン化されたプロセスではなく、流動的で有機的な発想から生まれ、さまざまなアイデアを受け入れ、創造へと変えていく。その現場はファクトリーではなくアトリエであり、まさにこの互いに支え合う絆が唯一無二のタイムピースを生むのだ。
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最新作を例に紐解く、開発から制作、検査までのマニュファクチュール体制
ヴァン クリーフ&アーペルのオリジナリティあふれる時計制作を支えるのが、ムーブメントの開発から、組み立て、品質検査までを一貫して行うマニュファクチュール体制だ。
①【開発&デザイン】
エンジニアリングは、シンプルこそ芸術になる
②【エナメル装飾】
伝統を常に革新していく、先進のエナメル技術


文字盤は濃いネイビーブルーにブルーを塗り重ねるグリザイユ エナメルを、ケースバックにはやわらかい樹脂の先端で転写するエナメル デカールを採用。を採用。扱うカラーは約100色を揃え、“ピンク シェード”といった独自開発のカラーもある。昨年は、立体的な造形を可能にした特許取得のファソネ エナメルと、透明なプリカジュール エナメルに留め具を使わず貴石をセットする画期的な技術、セッティング イン エナメルを発表した。
③【ウォッチメイキング】
検査機器までも個別に開発し、品質を管理

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