航空計器からインスピレーションを得た時計づくりで知られるベル&ロスが、新作「BR-05 スケルトン ファントム セラミック」を発表した。限定500本で展開されるこの腕時計は、ステルス航空機へのオマージュとして全身を漆黒で統一し、「見えないのに存在感を放つ」という矛盾を体現している。

最も印象的なのは、徹底されたオールブラックの美学だ。ケースからブレスレット、文字盤に至るまですべてがブラックで統一されているものの、これは単なる色彩の統一とは一線を画す。むしろポリッシュとサテン仕上げを巧みに使い分けることで光とのコントラストを生み出し、セラミックに深い輝きを与えているのだ。こうした技法は、F-117をはじめとする軍用ステルス航空機の設計思想から着想を得たものでもある。
そして技術的な見どころとして注目すべきは、スケルトン加工されたムーブメントにある。搭載される自動巻きムーブメント「BR-CAL.322-1」は約54時間のパワーリザーブを備え、毎時2万8800振動で駆動する精密機構だ。さらに文字盤の中央プレートには黒く着色されたサファイアクリスタルを使用し、その透明性を通してロジウム仕上げのスケルトンムーブメントが姿を現す構造となっている。
さらに興味深いのは、スーパールミノバの使用方法である。明所ではブラックに見えながらも、暗闇では緑色に発光するという意外性のある視覚効果を生み出し、スケルトン加工された時針と分針が暗闇で浮かび上がる演出を実現している。

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現代アートとも通じる、「黒」の可能性を広げる表現技法
一方、セラミックケースの採用は美的な選択にとどまらず、機能面でも大きな意味を持つ。傷や腐食に対する高い耐性により優れた堅牢性を保証し、ステンレス・スチールよりも硬質でありながら軽量、さらにアレルギーにも配慮された素材となっているからだ。41㎜のケースサイズは、深いブラックによる視覚効果を考慮して設定されており、手首におけるバランスの取れたプロポーションを実現している。
共同創業者兼クリエイティブディレクターのブルーノ・ベラミッシュは、この時計の背景にピエール・スーラージュやリチャード・セラといった現代アートの巨匠たちとの関連性も謳っている。これらのアーティストたちは、ステルス航空機の設計者と同様に「黒に光を当てることで形を表現する」可能性を証明した存在であり、そうした美学がこの腕時計にも息づいているのだ。
1994年の創業以来、航空への情熱を時計づくりに昇華させ続けてきたベル&ロス。この新作は「控えめでありながら存在感を放つ」という哲学を体現した、現代的な都市のジュエリーとして位置づけられている。

