本誌では書けなかった裏エピソード

信仰対象としての富士山、火山活動がつくった富士山を感じられる、「船津胎内樹型」が面白い。

担当:編集S
世界遺産名:富士山―信仰の対象と芸術の源泉

日本に19ある世界遺産を編集部で手分けして取材することになり、静岡県東部で生まれ育った私はもちろん富士山に手を挙げました。とはいえ、日本一高い山の素晴らしさを子どもの頃から感じていたわけではありません。富士山とは単に近くにある大きな山。その美しさや絶大な存在感を意識するようになったのは、故郷を離れてからのことです。

佐野 信仰対象としての富士山、火山活動がつくった富士山を感じられる、「船津胎内樹型」が面白い。

というのは富士山に登ったことのない言い訳なのですが、登山シーズンがとっくに終わった11月下旬、富士山周辺に行ってきました。静岡側の富士山スカイラインは二合目以上がすでに冬季閉鎖されていたため、この日に行ける最高地点は富士吉田口の五合目。山梨側の富士スバルラインをクルマで登りきると、朝8時だというのにかなりの混雑です。登山道が閉鎖されていることもあり、皆さんがもっているのは金剛杖ではなく自撮り棒。うっすらと雪化粧した山頂方向や、富士吉田市街や山中湖を背景に写真を撮っていました。五合目から見上げる山頂は麓からの眺めとずいぶん違います。遠くからだと均整が取れているように見えますが、実はかなり凹凸。山肌は荒々しく、動植物がほとんど生育できない過酷な環境であることが手に取るようにわかります。

佐野 信仰対象としての富士山、火山活動がつくった富士山を感じられる、「船津胎内樹型」が面白い。

周辺には富士山本宮浅間大社、白糸の滝、富士五湖などなど、「信仰の対象」「芸術の源泉」として評価された構成資産が点在しています。特に印象的だったのが、今回初めて訪れた「船津胎内樹型」。溶岩が倒木を覆い、その木が燃え尽きて空洞になった「溶岩樹型」という珍しい地形を見ることができます。こちらは人が屈んで通れるほどの直径をもつ大木が何本も折り重なり合い、全長約70メートルの道ができています。周辺には約100の溶岩樹型があり、うち船津胎内樹型と吉田体内樹型が世界遺産として登録。さらに前者だけが一般公開されています。江戸時代に発見され、胎内に似た構造であることから信仰の対象になり、富士山に登拝する人たちが登山前日にお参りをしたのだそうです。

佐野 信仰対象としての富士山、火山活動がつくった富士山を感じられる、「船津胎内樹型」が面白い。

母の胎内、父の胎内から成る内部は、かなり複雑です。左右前後に伸びるだけでなく、登ったり降りたりもする3Dな構造。表面はゴツゴツしていたり、ツルツルしていたり、あばら骨のように見えたり、うねるような形を描いていたり。樹木を包み込んだ溶岩が冷えて固まる間に、樹木部分が燃え尽き空洞になるという、その不思議さを感じながら進むと、母の胎内の奥に祀られている富士山の祭神、木花開耶姫のもとに辿りつきます。とても神秘的な場所です。

佐野 信仰対象としての富士山、火山活動がつくった富士山を感じられる、「船津胎内樹型」が面白い。

観光バスの人数を一度に受け入れられるような場所ではないためか、訪れた時は数人しか客はおらずひっそりとしていましたが、山の成り立ちや信仰の一例を感じられる貴重な場所です。船津胎内樹型を管理する河口湖フィールドセンターでは、専属の自然解説員が案内する予約制のガイドウォークを実施。文字や写真で知識を得るのもいいですが、自然を感じながら理解を深めるのはまた格別です。富士山観光のコースに加えてみてはいかがでしょうか。

船津胎内樹型(河口湖フィールドセンター)

山梨県南都留郡富士河口湖町船津6603
TEL:0555-72-4331
開館時間:9時~17時
休館日:月(祝日の場合は開館。また、6月~8月は無休)

www.mfi.or.jp/sizen