手をかけて育てる楽しみのある「ちょっと古いクルマ」と、歴史とともに培われた技術力によって進化した「長く愛せる新車」。どちらも甲乙付けがたい魅力があふれているのは、よりよいクルマを目指して自動車エンジニアが注いだ情熱があるからこそ。新旧2台のクルマから、その情熱を感じてください。vol.5はアルファロメオ・ジュリア TIとアルファロメオ・ジュリア ヴェローチェが登場!
イタリアの名門が継承する、 “感動を与える”DNA
星の数ほどある自動車のネーミングのなかで、個人的に最も惹かれるのは1954年に登場したアルファロメオ・ジュリエッタです。社名とシェイクスピアの恋愛悲劇のタイトルを掛けるあたりが洒落ています。そしてジュリエッタの姉という位置づけで62年に発表されたのがジュリアです(ジュリエッタは“小さいジュリア”の意)。
ジュリアは、この時代の最先端を行くモデルでした。高度なDOHCエンジンは5速マニュアルトランスミッションと組み合わされ、デビュー時はドラム式だったブレーキもまもなく4輪ディスクブレーキに移行。サスペンションはレーシングモデル譲りの高度な形式で、つまり現代のスポーティモデルとなんら遜色のないメカニズムを半世紀も前に搭載していたのです。
かの自動車王も認めた、最先端を行くブランド
同時代の日本車がOHVエンジンと3速マニュアルトランスミッションの組み合わせだったことを思えば、DOHCと5速のジュリアは未来のクルマだったと言っても過言ではありません。フォード・モータースの創設者で自動車王と呼ばれたヘンリー・フォードは、「私はアルファロメオを見かけるたびに帽子を脱ぐ」と語ったという逸話が残っていますが、それほどの名門なのです。
貴重な62年式ジュリアを、わずかな距離でもドライブすると、55年も前のモデルなのに自動車として完成していることに驚かされます。エンジンに気難しいところはなく、乗り心地も快適と言えます。高性能というより高度に洗練されているという表現がふさわしく、冷たくて固い機械ではなく、体温のある生き物のような印象を受けました。こうしたフィーリングを体感した後でデザインを眺めると、当時のイタリアで「醜いジュリア」や「弁当箱」と揶揄されたスタイリングも、愛嬌たっぷりに見えてくるから不思議です。
いつの時代のモデルも、アルファロメオは人の感性に訴えかけてくる。
翻って最新のジュリアには、抜きん出て新しいメカニズムは使われていません。つまりスペックに目新しさはないのです。けれども、走り出して驚きました。
カシミアのように繊細な乗り心地なのに、狙った通りにコーナーをクリアする足まわりは、猫科の肉食獣のようにしなやかで強靱です。回転を上げるにつれパワーが盛り上がり、楽器のようなサウンドが鼓膜を震わせるエンジンは、ドライバーの心を昂ぶらせます。
タイムを計れば、新型ジュリアより高性能のスポーツセダンはいくらでもあるでしょう。けれども、ドライブしてこれほど官能的な気分になるモデルは少ないです。50年以上の時を隔てた2台であるけれど、いつの時代もアルファロメオは人の感性に訴えかけてきます。
新型ジュリアに感じた洗練と官能の理由を、「伝統」のひと言で片付けるのは心許ないです。けれども新旧2台のジュリアに接すると、このブランドには感動を与えるDNAが確かに存在していると思わざるを得ないのです。
…以上、【新旧名車を比較!vol.5】でした。こちらの記事は、2017年Pen10/15号「いまならどちらを選びますか? ちょっと古いクルマ、長く愛せる新車。」特集からの抜粋です。気になった方、ぜひチェックしてみてください。アマゾンで購入はこちらから。
関連記事
【新旧名車を比較! Vol.1】BMW イセッタ & BMW i3
【新旧名車を比較! Vol.2】ホンダ・シビックRS & ホンダ・フィットRS
【新旧名車を比較! Vol.3】トヨタRAV4 & トヨタC-HR
【新旧名車を比較! Vol.4】ユーノス・ロードスター & マツダ・ロードスターRF