手をかけて育てる楽しみのある「ちょっと古いクルマ」と、歴史とともに培われた技術力によって進化した「長く愛せる新車」。どちらも甲乙付けがたい魅力があふれているのは、よりよいクルマを目指して自動車エンジニアが注いだ情熱があるからこそ。新旧2台のクルマから、その情熱を感じてください。vol.4はユーノス・ロードスターとマツダ・ロードスターRFが登場!
気持ちよく加速する、世界に誇れる国産スポーツカー
筆者は1990年から13年、11万kmにわたって初代ユーノス・ロードスターを愛用した経験があります。今回の撮影にあたってマツダ広報部のユーノス・ロードスターに試乗したところ、当時の記憶が鮮明に蘇ってきました。
そうだった、この感覚。ロードスターは決して鋭い加速や素早いコーナリングを目的とする、尖った性格のスポーツカーではありませんでした。速く走ることよりもドライバーが思い描いた通りに動くことを大切にした、フレンドリーな性格なのです。「人馬一体」という言葉で表現されたそのフィーリングは、身体に馴染んだシャツを羽織るのにも似た、クルマを着る感覚だったのです。
軽量スポーツカーを、後世に伝えた立役者。
ロードスターがデビューした89年当時、世界中を見渡して2人乗りの軽量オープンカーは見あたりませんでした。そんなものは、もう流行らないと思われていたのです。けれどもロードスターは、全世界で熱狂的に支持されました。そしてフィアット・バルケッタやBMW・Z3、ポルシェ・ボクスターなどのフォロワーが生まれることになります。つまりロードスターはライトウェイト・スポーツカーのルネサンスであり、中興の祖といえます。ロードスターが生まれていなかったら、ライトウェイト・スポーツカーというクルマ文化の灯は消えていたかもしれないのです。
新しい技術にチャレンジしたからこそ、初代と変わらないフィーリングを維持できた。
初代ロードスターから四半世紀の時を経て登場した4世代目のロードスターに乗って驚きました。「人馬一体」のフィーリングは、まったく変わっていなかったのです。ただしよく観察すれば、継ぎ足して味を維持する鰻屋のタレとは違って、変化も見てとれます。
まず変わったのが、乗り心地がよくなっている点。これには、ボディの剛性感が増していることが大きく貢献しています。ボディが強くなっているから、路面の凸凹を乗り越えた時の揺れが残らないのです。テクノロジーの進化によってボディ設計が高度になり、軽くて強い素材が使えるようになったことが“勝因”でしょう。
決して速くはないけれど、気持ちのよい加速を得られるのも初代ロードスターとの共通点です。そして、かつてよりエンジンのなめらかさや伸びやかなフィーリングは増し、スカッと爽やかな気分にさせてくれます。省燃費とパワーを両立する、「SKYACTIV-G」という高度なエンジン技術の賜物です。
つまり乗り心地にしろエンジンのフィーリングにしろ、新しい技術にチャレンジしたからこそ、変わらないフィーリングを維持できたのです。
2台のロードスターに乗りながら、進化論を唱えたチャールズ・ダーウィンがこんな言葉を残したことを思い出します。存続するのは強い生き物でもなければ賢い生き物でもなく、変わることができた生き物である、と。ロードスターは変化したからこそ、変わらぬ魅力を維持できたのです。
…以上、【新旧名車を比較!vol.3】でした。こちらの記事は、2017年Pen10/15号「いまならどちらを選びますか? ちょっと古いクルマ、長く愛せる新車。」特集からの抜粋です。気になった方、ぜひチェックしてみてください。アマゾンで購入はこちらから