北欧に名作椅子をもたらした、温故知新のデザイン
Vol.60
北欧に名作椅子をもたらした、温故知新のデザイン
KK47000 サファリチェア

コーア・クリント

文:竹内優介(Laboratoryy) 編集:山田泰巨

1933年にコーア・クリントがデザインした「KK47000 サファリチェア」は、英国軍が使用していた野外用組み立て式椅子をリデザインしたものとして知られています。日本の温故知新にあたる考えが数々の北欧の名作家具を生み出しました。

世界で最初期に作られたノックダウン可能な椅子をサンプリングし、クリントらしい軽やかで洗練されたプロポーションに仕上がっています。サイズはW570×D570×H800×SH340mm。

バウハウスなどの台頭から、20世紀初頭は過去にとらわれない新しいものづくりが主流になり始めていました。そうしたなかデンマークのコーア・クリントは先人の家具を研究し、それを手本にフォルムや素材を現代的にアップデートさせた"リデザイン”で家具を生みだします。

クリントがデザインした「KK47000 サファリチェア」のルーツは、英国軍が遠征時に使用した椅子です。それは、どんな場所でも使えるよう利便性を考慮し、分解した座面のキャンバス地に包むことで簡単に持ち運べるという椅子でした。クリントはその構造を簡素化し、素材づかいと手仕事の技で、機能美を備える現代の椅子として再生させたのです。

クリントは現代の人間工学の先駆けとして、家具と人間におけるサイズの研究も行いました。いち早くデザインに“分析”をとり入れ、論理的に機能を追求する重要性を説いたクリント。その名はデンマーク近代家具デザインの父として知られ、1924年に創設されたデンマーク王立芸術アカデミーの家具科では後進の指導に当たります。彼の教えはボーエ・モーエンセンやハンス・J・ウェグナーらに受け継がれ、デンマーク・デザインは黄金期を迎えるのです。

工具を使用せず簡単に組み立て、分解が可能なノックダウン構造を取り入れ、まさに機能美を備えた名作と言えます。キャンバスと木と革、真鍮を用いた素材づかいがさらに美しさを高めます。

背もたれは中ほどから大きく傾斜する構造になっています。別売りのフットスツールと合わせて、よりリラックスしたポジションでくつろぐことも。

北欧に名作椅子をもたらした、温故知新のデザイン