木製椅子の新境地を、大胆に切り拓いた名作。
Vol.57
木製椅子の新境地を、大胆に切り拓いた名作。
コノイドチェア

ジョージ・ナカシマ

文:佐藤早苗 編集:山田泰巨

1959年に日系アメリカ人の家具デザイナー、ジョージ・ナカシマがデザインした「コノイドチェア」。スポークバックの背もたれに二本脚のキャンティレバー構造、背と脚にはめ込まれた座面が宙に浮く名作椅子のひとつです。伝統的な木製椅子の表情を残しつつ、斬新な発想と大胆な構造で木製椅子の新境地を切り開きました。

キャンティレバー構造で、既存の木製椅子とは異なるモダンな印象に。木の温もりを感じさせつつ、研ぎ澄まされたデザインは、職人に極めて高度な製作技術を要求します。サイズはW535×D570×H900×SH440mm

建築から家具の世界へ転向し、アメリカと日本を往来しながら木と向き合い続けたジョージ・ナカシマ。ワシントンに生まれた彼は林学を経て建築を学び、大学院を卒業後はロンドンやパリなどを経て、父母の故郷である日本へ向かいます。日本では建築家のアントニン・レーモンドのもとで建築設計に携わりますが、第二次世界大戦が始まるとアメリカへの帰国を余儀なくされます。ほどなくしてアメリカが参戦すると、ナカシマは日系人の強制収容所に抑留されることに。しかしここで同じ日系人の大工から日本の伝統的な木工技術を学んだことが、彼の運命を変えました。

ナカシマ一家は終戦後、アメリカに帰国していたレーモンドを頼ってペンシルバニア州ニューホープへ移り住みます。ナカシマはそこで家具をつくり、家族とともに広い土地を切り拓きながら、自宅、仕事場、ショールームを自ら設計し、建設します。そうした日々のなかで「コノイドチェア」が生まれました。アンバランスに見えるキャンティレバー構造ですが、安定感があって頑丈。座面や脚部の接合部は、高度な職人の技術なくしては実現できません。

1964年、再び来日したナカシマは香川県高松市を訪れ、設立されたばかりの「讃岐民具連」の運動に共鳴し、メンバーであった桜製作所と制作活動を始めます。そこで生まれた家具はいまも同社が制作を続けており、「コノイドチェア」もまた、ニューホープの工房、そして香川で彼の思いを受け継ぐ職人によってつくり続けられています。

木製椅子の新境地を、大胆に切り拓いた名作。