100年を経て、先進的であり続ける椅子。

  • 文:竹内優介(Laboratoryy)
  • 編集:山田泰巨

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Vol.50
100年を経て、先進的であり続ける椅子。
レッド&ブルー チェア

ヘーリット・トーマス・リートフェルト

文:竹内優介(Laboratoryy) 編集:山田泰巨

それまでの椅子の概念を打ち破るアヴァンギャルドな姿で近代デザイン史に一石を投じた「レッド&ブルー チェア」は、1917年にヘーリット・トーマス・リートフェルトによってデザインされました。直線と矩形で形づくられ、抽象性とモダニズムを突き詰めたアートのような雰囲気は、いまなお新鮮な驚きを与えてくれます。

鮮やかに彩色された彫刻的な椅子は、伝統的な様式やモチーフを捨て去り、モダンデザインが向かう純粋な抽象性を追求しました。当初は無彩色だったものを、ピート・モンドリアンの絵画を知ったリートフェルトは、1918年に三原色と黒で塗り直しています。サイズはW655✕D840✕H875✕SH330mm。

家具職人を父にもつヘーリット・トーマス・リートフェルトは、幼少時からその仕事を手伝いながら家具作りの基礎を学びました。23歳で自身の工房を立ち上げると、変化する時代にふさわしい表現を求め、新しい造形を目指します。

その試行錯誤から生まれたのが、30mm角の支柱6本、横木7本、90mm幅の肘木2枚、10mm厚の背と座の板という計17のパーツからなる「レッド&ブルー チェア」です。当初は無彩色であった原型を発展させたこの椅子は、当時オランダで始まったばかりの芸術運動「デ・ステイル」と呼応します。リートフェルトは、運動の中心人物となった画家ピート・モンドリアンが提唱した新造形主義を取り込みながら、椅子の本質のみならず、装飾とはなにかをも問い直す椅子をつくり上げました。直線と原色で絵画のように構成される「レッド&ブルー チェア」は、腰かけるための強度を担保する必要最小限の要素のみに抑えられています。これまでの椅子がもっていた重々しい素材や装飾を排除し、椅子の基本をあらわにしました。

この椅子の登場以降、リートフェルトは観念的なプロセスを重視し、原色と幾何学形態による表現を用いた素晴らしいオブジェを生み出していきます。当時の前衛的なムードをいまに時代に伝える「レッド&ブルー チェア」は、いち早くアートとデザインとをつないだ架け橋のような名作といえるでしょう。

当初、量産されることを意図していたため、入手しやすい規格サイズの木材から簡単に組み立てられる設計になっています。

傾斜をつけた背と座は、思いのほか身体への当たりが優しく、見た目ほど、かけ心地は悪くない。リートフェルトの家具職人としての力量を感じさせます。