小さなスツールに宿るのは、旅に学んだデザイン
Vol.56
小さなスツールに宿るのは、旅に学んだデザイン
ベルジェ スツール

シャルロット・ペリアン

文:竹内優介(Laboratoryy) 編集:山田泰巨

ル・コルビュジエ、ピエール・ジャンヌレとともに、「LC2」などの「LCコレクション」を手がけたシャルロット・ペリアン。それらの家具は、新素材であった鋼管を巧みに用いた先進性で後進に大きな影響を与えます。しかし一方で「ベルジェ スツール」のように牧歌的でプリミティブなデザインの家具もまた、ペリアンの大きな魅力の一つです。

ベルジェとは羊飼いのことで、羊の乳搾りに使う小椅子にヒントを得たといいます。分厚い座面は中央に向かってなだらかに窪んでおり、身体へのやわらかな当たりも魅力的です。サイズはW330×D330×H270mm。

1927年、わずか24歳のシャルロット・ペリアンは改装した自宅アパートを「屋根裏のバー」と名付けて発表します。それを見たル・コルビュジエは彼女を自身のオフィスに迎え入れ、ピエール・ジャンヌレと3人で協働制作を始めます。インテリアと建築を総合的に考えてデザインするペリアンの発想は新しく、その才能はル・コルビュジエをも惹きつけたのです。

インテリアをただ家具とその集合の空間とは考えず、人間と調和する環境として室内のデザインに挑んだペリアンは最初期のインテリアデザイナーといえるでしょう。椅子1脚をとっても空間との調和を軸に考え、そのデザインは常に人間の所作や振舞いとの関係性を探るものでした。鉄やアルミニウム、ガラスといった新素材を用いた内装に、素朴な木の家具を加えた点もペリアンらしい発想です。たとえば昔ながらのストロー材を編んだ座面をもつ椅子は、手工芸に価値を見いださなかった時代のなかで生まれたもの。しかしペリアンは素材を巧みに扱い、その環境を整えることで物の根底に宿る魅力を引き出せることを証明しました。

無垢の木がもつ量感を残しつつも愛らしい「ベルジェ スツール」は、小さなスツールです。これも世界各地を旅したペリアンが、羊飼いの暮らしに見る伝統技術を応用したデザインから生まれた一つ。時代を切り開いたデザインとともに、市井の暮らしに学んだデザインの温もりをも追求したペリアン。その名作はいまも多くの人々を魅了し続けています。

1955年、再来日したペリアンが東京の日本橋高島屋で行われた展覧会「巴里—芸術の総合への提案 ル・コルビュジエ、フェルナン・レジェ、シャルロット・ペリアン三人展」で初めて披露されました。

アメリカンウォルナット材のナチュラル塗装、オーク材のナチュラル塗装、ブラック染色塗装の3タイプを展開。また「ベルジェ」の座面を踏襲した「メリベル スツール」もデザインしています。

小さなスツールに宿るのは、旅に学んだデザイン