手元において繰り返し眺めたい。建築の見えないところを読む 『内藤廣設計...

手元において繰り返し眺めたい。建築の見えないところを読む 『内藤廣設計図面集』の魅力。

手元において繰り返し眺めたい。建築の見えないところを読む 『内藤廣設計図面集』の魅力。

初期の代表作「海の博物館」から近作「日向市庁舎」までの図面を収録した『内藤廣設計図面集』

僕のまわりの建築設計を仕事にしている人たちが、正月休みにこぞって読んでいたのがこの『内藤廣設計図面集』だ。建築家、内藤廣が手がけた建物のなかから18作品を選んで、その設計図を収録している。この活動期間に建築界ではポストモダニズムやライト・コンストラクション(ガラスや金属材料を使った軽い建築デザイン)など、さまざまなデザインの流行があったが、内藤はそれから常に距離を置き、独自のスタンスで屋根の架かり方や素材の扱い方といった普遍的なテーマで建築を追求してきた。代表作には、本書にも収められている牧野富太郎記念館(高知市)、島根県芸術文化センター(益田市)、とらや赤坂店(東京)などがある。

手元において繰り返し眺めたい。建築の見えないところを読む 『内藤廣設計図面集』の魅力。

茨城県天心記念五浦美術館(1997年)のエントランスホール断面図(部分)

掲載されているのは、一般的な建築作品集に載っているような平面図、立面図ではなく、主に断面矩計図(だんめんかなばかりず)である。材料をつなぐディテールや、下地まで含む材料とその寸法まで、ここにはすべてが描きまれている。シンプルな切妻屋根の繰り返しでできている建物でも、雨水の処理をどうするかは実は苦労するところ。完成した建物を見てもその苦労はまったくうかがえないのだが、屋根に挟まれた内樋という小さな部分に、驚くほどのアイデアが詰め込まれていることがわかる。建築家が建物を設計するとは、こういうことなのかと、あらためて感心させられる。各図面には、内藤による解説文も付されていて、これもまた面白い。「博物館でみた蛇の骨がヒントになった」など、興味深いエピソードが満載だ。

手元において繰り返し眺めたい。建築の見えないところを読む 『内藤廣設計図面集』の魅力。

判型はB4で、開くと横幅は50cmを超える。

工藤強勝による造本デザインもとてもよい。B4という大きな判型にして、図面を見開きいっぱいに載せ、手描きの線や文字の質感までも表現している。さらにいくつかの建物では両側に観音開きとして、そこでは横幅が1mにも達する。分割して載せればいいのでは、と思うかもしれないが、やはり1枚に全部が描かれていることが重要なのである。そして製本の方法。図面を書籍化するときの一番の悩みは、本を開くと中央にノドと呼ばれる引っ込んだ箇所ができて、見開きで図面を載せると肝心なところが見えなくなってしまうという点だ。この本では、糸かがりのオープンバック製本を採用することによって、開いた状態でもまったいらに左右のページがつながって見えるようにしている。手元において、繰り返し眺めたくなる本だ。

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