世界90以上の国と地域で展開され、人々を熱狂させる「ポケモンカードゲーム」。そこには、開発者たちが創り上げるゲーム環境、豊かな世界観を生み出す描き手たち、それらを楽しむプレイヤーたちがいる。今回は編みぐるみでポケモンカードを描く作家・いとうあさこに、創作への工夫や思いを訊いた。
1996年に発売されたビデオゲーム、『ポケットモンスター 赤・緑』。当初からポケモンカードゲームやアニメなどで展開されたポケモンは、30年を経て、アプリ、イベントまで広がり、世界中で愛されている。もはやエンタメの枠を超え、時代の空気を映す“ひとつの文化”になったポケモン。さぁ、そんなポケモンの世界へ――。
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毛糸だからこそ宿る、ポケモンのぬくもり

造形作品も「ポケモンカードゲーム」ならではのイラストのバリエーションである。いとうあさこによる編みぐるみもそのひとつだ。大学で油絵を専攻していたいとうが編みぐるみに出合ったのは、学生時代のことだった。
「映画『Mr.ビーン』に登場するクマのぬいぐるみを見て、自分でもつくってみたいと思ったのがきっかけで編みぐるみ制作を始めました」
制作スタイルは独学で、設計図(編み図)はなく、頭の中で構成を組み立てながら制作している。
「編み図の記号を覚えるのが苦手だったこともあり、自分の感覚を頼りに手を動かしています。編んではほどくという試行錯誤を繰り返し、納得のいくかたちを探す時間を大切にしています」

そんな彼女がカード制作において心血を注ぐのは、ポケモンたちが実際にそこで暮らしているかのような世界観をつくり出すこと。図鑑や資料からポケモンの特性や形状を的確に捉え、背景のセットまで自らつくり込んでいる。
「ポケモンのかたちにはそれぞれの個性や魅力が表れているので、見た目を再現するだけではなく、その子らしさまで表現したいと思っています。ヌメラでは湿地帯を、ノコッチでは洞窟を背景としたように、そこに込められた世界観も含めて制作することで、やっと、カードの世界でその子たちが生きているように感じてもらえます。その上で、編みぐるみならではのやわらかさや、温かみを伝えるにはどうしたらいいのかを常に模索しながらバランスを取っています」
自らもファンとしてポケモンの身近さをずっと感じてきたといういとうは、そのリスペクトと作家としての矜持をもって、ポケカの世界に温かな命を吹き込み続けている。
いとうのクリエイティビティが光るカードたち
表現したのは、家に帰ってきたときそこにいて、癒やしの時間を与えてくれるチルタリス。「これまでにない背景に挑戦した作品で、家具やクッションなどの小物もすべていちからつくりました。制作中に、チルタリスを中心とした世界が広がっていくのを感じて、楽しみながらつくり上げたことを覚えています」
高原のような広大な景色の中で、ゆったりと過ごす姿が表現されている。「カード全体をキャンバスにできたので、小川が遠い山まで延びていることが伝わるように、いままででいちばん大規模な背景を用意しました」。タブンネのピンクとクリーム色の境界線も編み込みだけで再現されており、背景とともに難度の高い力作だ。
「ノコッチがシンプルな形状をしているので、頭部の大きさや全体のバランス調整に苦労しました」。特にこだわったのは、穴から勢いよく飛び出してくる躍動感の表現。洞窟の穴のサイズひとつにも細心の注意を払い、厚紙やフェルトを駆使してつくり込んだことで、本人も納得のいく完成度に。
いとうが初めて担当したカード。編みぐるみでいきものを表現するのも初挑戦だった。「ヌメラの独特なかたちが際立つよう、背景とのバランスにも悩みました。ヌメっとした世界観を表現できたかなと思って気に入っているカードです」。世界観と、ポケモンの個性が絶妙にマッチした作品に仕上がっている。

いとうあさこ|編みぐるみ作家
宮城県生まれ。「ポケモンカードゲーム」のイラストを手掛けるクリエイター。油絵を学んでいたが、大学時代に独学で編みぐるみの制作を開始。毛糸やフェルトなど素材の質感を活かした温かみのある作風を持つ。

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