攻殻機動隊は、現代社会を生きるすべての人に必見の作品だ。難解と言われる本作の概要や代表作を、わかりやすく整理し紐解いた。未見の人はもちろん、ブランクのあるファンも改めて目を通してほしい。
日常のツールとして急速に浸透したAIは、過去に例を見ない早さで進展している。そんな世界をネットの普及前、80年代末に予見した『攻殻機動隊』を、デザイン、都市論、宗教学など多様な視点から紐解いた。“新たな古典”と呼べる奥深き作品世界へ、いざ、飛び込もう。さらに、『攻殻機動隊』とPenがスペシャルコラボした「笑い男」ステッカーの付録付き。本誌だけの特別仕様で蘇る限定アイテムにも注目だ。
『士郎正宗から押井守、新作アニメまで――攻殻機動隊を見よ』
Pen 2026年3月号
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“攻殻”について、ギュッと解説
「攻殻機動隊」は、草薙素子率いる内務省・首相直属の機関「公安9課」が、さまざまな事件や政治的謀略を暴くサイバーパンク刑事アクションSFで、漫画・アニメ・ゲームなどを通して展開してきた作品群だ。本作は捜査・探索という刑事モノの手法を用いつつ、将来起こり得る社会問題も示す。
物語の舞台は、第三次・第四次世界大戦後の新浜市という架空の都市が中心だ。その近未来では、身体の一部や全身を機械で代替する義体化と呼ばれる技術が普及し、脳を改造してネットにつなぐ電脳化も定着している(電脳を卑近な例で言えば、思い浮かべただけで操作できるスマートフォンと脳が直結したようなものだ)。しかし電脳化の普及は、新たな犯罪も生み出した。ネットへの常時接続により、個人の電脳が他者にハッキングされる脅威にさらされるからだ。そうした電脳犯罪への対処も公安9課の重要な任務のひとつとして課されている。
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シリーズを象徴するキャラクターたち
草薙素子
通称・少佐。戦闘にも電脳戦にも強い、公安9課のリーダー。脳以外の身体の多くをサイボーグ化し、「自分は人間なのか」というアイデンティティに悩むことも。女性型サイボーグで外見は比較的若いが、実年齢は不詳。作品により見た目や性格が異なる。
バトー
元陸上自衛軍レンジャー部隊。両目を義眼にした屈強な大男だが、格闘戦だけでなく電脳戦もこなす。素子とタッグを組むことが多く、彼女に特別な思いを持っているようにも描かれる。素子が去った後の公安9課を描いた『イノセンス』では主役として登場。
トグサ
公安9課で唯一妻子持ちの元刑事。あまり義体化を行っておらず生身の部分を多く残した人物であるが故、公安9課の中でも異なる感覚や思考を組織にもたらす。神山による『S.A.C.』第3作『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society』では主役に。
イシカワ
かつて陸軍情報部に所属し、情報収集や分析を得意とする。前線ではなく後方での活動がメインで、VRゴーグルのような装置をよく身に着ける。狙撃手サイトー、爆発物担当ボーマ、接近戦のプロのパズたちと並び、専門に特化。公安9課の中では年長者。
荒巻大輔
公安9課のトップに当たる人物。通称・課長。政府内外の豊富な人脈を駆使し、複雑な政治的駆け引きや交渉などを行う。素子を「エスパーより貴重な才能」とたたえ、彼女をスカウトするかたちで公安9課を設立。メンバーを率いて正義を実現しようと試みる。
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作品世界に頻出する、ユニークな用語を解説
1. 多脚戦車
クモのような形状の「思考戦車」とも呼ばれる戦車。AIで自律的に判断して行動することも、人が乗り込むこともできる。『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』では公安6課の6本脚の多脚戦車が素子の脅威として現れた。原作では「フチコマ」、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』シリーズでは「タチコマ」というかわいらしいキャラクターとしても登場。AIだが個性やゴーストを持ったかのように見える場面もあり、生命と情報の境界を問う。
2. アームスーツ
強化外骨格、つまりパワードスーツのこと。身体を直接強化するサイボーグ化とも、乗り込んで操作するロボットとも異なり、身体に直に装着することで強化できる。作中では戦闘シーンで自衛軍がよく身に着けている。
3. ニューロチップ
神経細胞とマイクロマシンを結合したチップ。ニューロンのような人間の生体部品を、コンピューターのチップで再現することに成功した。生命と機械の境界をゆるがす問いの中核にある技術だ。原作の冒頭では5万倍に拡大した成長型ニューロチップの画像を掲載。現実世界でも、バイオコンピューターや脳へのチップ埋め込みなど急速に実用化が進んできている。
4. 義体
人間の身体の一部を代替した機械などの人工物を指す。義体化することで筋力などの身体能力、視覚や聴覚などの知覚能力を拡張可能。義体を替えればルックス、年齢、性別も変えられる。作中では全身を義体化(サイボーグ化)した人物も登場。素子は脳以外のほとんどすべてが義体化されている。現実世界で研究開発されているヒューマン・エンハンスメントやトランスヒューマニズムの技術に近しい。
5. 新浜市
神戸の沖合につくられたとされる、作中の人工海上都市。東京が核戦争で壊滅した後に一時的に首都となり、公安9課の本部もここに置かれている。新旧や西洋・東洋といった相反する要素が混ざり合う。原作者・士郎正宗が生まれ育った神戸に位置する、ポートアイランドを彷彿させるが、作品によってモデルは異なる。
6. 電脳
後述するマイクロマシンを脳に注入することで脳神経細胞とチップなどを融合させ、ネットに接続できるようになった脳。電脳化した人間同士は、首の後ろに取り付けられたコネクターにケーブルを直接つないで会話も可能に。
7. 防壁
電脳のハッキングを防ぐためのファイアウォール。「攻性防壁」はハッキングもとに反撃し大きなダメージを与える防壁。「身代わり防壁」はハッキングする際に攻性防壁による反撃を代わりに受けてくれる防壁のことを指す。
8. マイクロマシン
脳神経など微細な場所で働く、100万分の1m単位の極小のマシンによる超極小テクノロジー。マイクロマシンにより電脳化や義体化が発展した。脳神経細胞とチップをつなぐほか、アルコールを分解する際にも使われている。
9. ハブ電脳
思想を近しくする者の電脳がつながる「並列化」を起こした集団に対し、大きな影響力を行使できる電脳のこと。「カリスマ」に近く、『攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG』ではハブ電脳を介して約300万人の難民の指導者となる人物が現れる。
10. ゴースト
魂や精神に近い存在を指す。人間や生物の活動を因果関係だけで説明する機械論や還元論の見方には収まらない、意識や意志なども含んだものと考えられるが、正確な定義はない。原作ではアニミズムや霊魂などと結び付けて論述されている。機械や人工生命体にもゴーストが宿るかは議論が分かれる。作中では難しい局面に置かれた素子が「そうささやくのよ、私のゴーストが」という台詞とともに決断を下す。
11. 光学迷彩
自身の姿を周囲に溶け込ませ、カムフラージュできる装備。正式名称は「熱光学迷彩」。傍から見ると搭載した人間や戦車が透明になったように映り、赤外線を用いたセンサーなどからも身を隠せる。『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』冒頭で光学迷彩を纏った素子がCGとセル画を組み合わせた表現で描かれている。
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