ゴールド=ラグジュアリー。そんな既成概念を超えて、いま各時計ブランドは、強靭さや独自の色調、色変わりの抑制までも追求した「進化系ゴールド」を展開している。時計ジャーナリストの高木教雄が近年発表されたモデルから、素材で個性を語る7本のゴールドウォッチを厳選して紹介する。
1. ロレックス「ランドドゥエラー 40」

時計の外装素材として多用される18Kとは、重量比で75%(18/24)の純金と、割金(わりがね)と呼ばれる他の金属から成る合金である。割金としておもに用いられるのは、銅と銀。それらの比率によってイエロー、ピンク、ローズ(レッド)、ホワイトのように色合いが変わる。銅の割合が増えるほど赤みが増して華やかになるが、一方で銅は酸化しやすいため経年変化で色変わりしやすくなる。
このピンクやローズといった赤系ゴールドの褪色を、ロレックスは2005年に解消した。この年に登場した特許取得の独自の18Kエバーローズゴールドは、割金に化学的に極めて安定したプラチナをわずかに加えることでその美しい色みを長く保つようにしてみせたのだ。
今年、ムーブメントに新しい脱進機、ダイナパルスエスケープメントを初搭載して誕生した新コレクション「オイスター パーペチュアル ランドドゥエラー」にもエバーローズゴールド製モデルをラインアップ。鮮烈で力強い赤みを呈する外観でも魅了する。
2. ブレゲ「クラシック スースクリプション 2025」

今年、創業250周年を迎えたブレゲは、独自レシピの18Kをリリースした。その名もズバリ、ブレゲゴールドである。割金に使われるのは、銅と銀、そしてパラジウム。
通常のピンクゴールドよりも銅の割合を抑え、その分だけ銀よりも白いパラジウムを加えることで、メゾンがブロンドカラーと呼ぶ独自の色合いの18Kが生み出された。またパラジウムはプラチナと同じ白金族であるため、銅の酸化が酸化する進行を抑えてくれる。
そのやわらかな色調は、アブラアン-ルイ・ブレゲが1796年から製作していた時針だけが備わる1本針懐中時計「スースクリプション」に範を採ったクラシカルな外観によく似合う。
3. オーデマ ピゲ「ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー」

ジュウ渓谷の名門は2024年、「進化系ゴールド」市場に参入を果たした。独自の18K、サンドゴールドは、純金と銅、パラジウムの合金。銀に代わってより白いパラジウムを用いることで、太陽に輝く砂丘にも似た、ホワイトとイエローの中間色を創出してみせた。
さらにサンドゴールドは、光が当たる角度や仕上げの違いによってその色合いが変化する。強い光が当たった時には、全体がホワイトゴールドのように見えることも。
世界初、リューズだけですべての暦表示の個別調整を可能とした新型永久カレンダー「Cal.7138」を初搭載する「ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー」は、ヘアラインとポリッシュとの仕上げ分けによって、光の具合いによるサンドゴールドカラーの色調変化がより顕著で、ニュアンス豊かな外観となっている。
4. オメガ「コンステレーション(セドナゴールド)」

素材開発にも意欲的に取り組んできたオメガは2012年、銅の含有量を増やすことで今まで以上に鮮やかな赤みを呈する独自の18K、セドナゴールドを生み出した。
前述したように18Kは、銅が多く含まれるほど色変わりがより速く進行する。そこでオメガは、割金として銅に加えパラジウムを添加。さらに純金の割合を75%ではなく76%とすることで、銅の酸化を抑え込んだ。つまりセドナゴールドは、正確には18Kではなく18.24Kなのである。
この「コンステレーション」の新装は、メテオライト(隕石)ダイヤルも、赤みの強いゴールドカラーに染め上げ、仕上げと質感との違いによるゴールドのトーン・オン・トーンとした外装が、いかにも豪華だ。
5. パネライ「ルミノール ドゥエ トゥットオロ」

スイス・ヌーシャテルにあるパネライのファクトリーには「Laboratorio di Idee(アイデアの工房)」が併設され、さまざまな研究・開発が行われている。2019年には、ここで独自の18Kゴールドテックが誕生した。
この新合金は、銅の割合を24%にまで高めることでいままでにない濃密な赤みを実現。そして残り1%の中に0.4%分のプラチナを組み合わせることで耐酸化性を向上し、褪色を防いでいる。このほんのわずかなプラチナは、仕上げにも好影響をもたらす。特にポリッシュ仕上げにおいて、既存の18Kよりも輝きが増すのだ。
このパネライ初のゴールドブレスレット仕様は、鏡面状としたベゼルや中リンクが煌めきを放ち、ラグジュアリーな雰囲気を一層高めている。赤みが強い独自ゴールドとブルーダイヤルも、好相性である。
6. IWC「ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー 44」

ここまでで取り上げた5つの「進化系ゴールド」は、いずれも白金族であるプラチナもしくはパラジウムを加えることで銅の酸化を抑えると同時にブランド独自の色調を得ることを目的としている。対してIWCは、やわらかく傷付きやすいという18Kの弱点克服を試みた。
2019年に発表された独自の18Kアーマーゴールドは、従来のレッドゴールドよりも5倍以上硬く、耐摩耗性に優れているという。レシピなどの詳細は明らかにされていないが、IWCのアナウンスによれば、独自のプロセスで合金の微細構造を改良し、硬度を高めたという。
昨年、ダブルボックスサファイアクリスタルを採用した「ポルトギーゼ」の新設計ケースは、高硬度なアーマーゴールドと前面を保護する極めて硬い風防との相乗効果で、美しい仕上がりを長く保つ。
7. ウブロ「ビッグ・バン 20th アニバーサリー フルマジックゴールド」

スイス・ニヨンの本社に置くラボで、さまざまな独自素材を研究開発してきたウブロは、究極の耐傷性が備わる18Kマジックゴールドを2011年に生み出した。
その製造方法は、前代未聞である。炭化ホウ素の微粉末を200気圧で圧縮した後、2200度で焼成することで超微細な穴が全体に行き渡る多孔質セラミックをつくり出し、それに全体の重量比で75%分の純金を溶解して高圧で染み込ませているのだ。つまりセラミックと純金を融合させることで、極めて高い耐傷性をかなえたのである。
このモデルは、初代「ビッグ・バン」のカーボンエフェクトダイヤルを採用した20周年記念モデルのひとつ。黒に近いグレーを呈する炭化ホウ素系セラミックに由来する独特の鈍い色みの金色が、マジックゴールド製である証しだ。

髙木教雄(時計ジャーナリスト)
1962年、愛知県生まれ。90年代後半から時計を取材対象とし、工房取材を積極的に行い、時計専門誌やライフスタイルマガジンなどで執筆。著書に『世界一わかりやすい腕時計のしくみ』『世界一わかりやすい腕時計のしくみ 複雑時計編』(ともに世界文化社)などがある。